スイーツの原因
ロザリアの居室より出て来たリュミエールに宰相が声をかけた。
「なにをお話でしたか?」
宰相のにこやかな笑みをたたえた表情からは真意が読み取れない。
「また来ると言っただけだ。」
リュミエールが短く返す。
女官長が驚いた顔をする。
「今更ですか?」
ロザリアが側室になって二年、側室を無視していたリュミエールとも思えない言葉だった。
興味のない側室。
きっと宰相が偶然出会わなければ興味はなかっただろう、リュミエールでさえそう思う。
甘いお菓子。
側室も王妃も…玉座に近づくほど女は煩わしいと今も思う。
だが興味があるうちは、興味が尽きるまでは遊ぶのもいいかもしれないとリュミエールは思った。
「姫も気の毒に。あの様子には驚きましたが…自分の立場をよくご存知の頭のいい姫ですのに。捨て置かれる幸せもあるのですよ。」
女官長があきらめた口調で言う。
「子を作れという女官長が珍しいな。気に入っているのか。」
「そうですね。ですから、今まで笑っているだけですみそうな娘を推しておりましたのに。」
女官長はため息をつく。
「別になにをするわけでもない。」
リュミエールが意地悪な笑みを再び浮かべた。
「とって食うわけでもないしな。」
そういうとリュミエールは執務室のある棟へと戻って行った。
「では、体が弱いというのも偽りだと。」
女官長は今までの経緯を詳細に説明するように求めた。
マリアは青くなりながらロザリアと女官長の話を聞く。
「騙したことは謝ります。正直なところ、この生活は気に入っているのです。」
幾分大人しくなったロザリアが答える。
「国にいたところで、あと一年もすれば王位継承権の順位も弟の方が繰り上がりますし。どうせ意味のない政略結婚をするのであれば、国にとって意味のあるものが良かったと思いますし。」
ロザリアは間をあけ、しっかりと女官長を見据えた。
「捨て置かれるのも楽で良いですし…本当にいいお相手に巡り合えたと思っています。
正妃様を迎えられた暁には、離縁してそれで良かったのです。
それまでの一時、慰みにお菓子をつくったりできれば良かったのです。
…それさえも許されませんか?」
ロザリアは率直にそして長々と弁を述べる。
マリアと二人だけの時とは違い、落ち着いた雰囲気で自分の意見を言うロザリアをマリアは白々しい眼差しで見守る。
「いけないことはありません。ただマリアのふりをせずともよかったのではないですか。」
女官長がたしなめる。
「ええ、でも…それだとお許しは出なかったでしょうし…そんなことよりも夜会にくるように言われたでしょう。私は静かな生活がしたいのです。」
女官長はロザリアの頑なな態度についに折れた。
「わかりました。その件は王に伝えましょう。」
今度は女官長が間をあけた。
「ただ…静かにというのは難しいでしょうが…。」
そう言って女官長は席をたつ。
「ああ、そういえば政略についてですが、あなた様の国は、歴史も深く、製薬の技術も高い…貴女が思っているより、高い価値のある国ですよ。
だからこそ宰相は、あなたの国から妃を選ぶことを止めなかったのですよ。まさか王位継承権1位のあなたを差し出すとは思いませんでしたが。」
そう言って女官長は部屋から去って行った。
この元凶は、あの宰相かと…思うと、思わずロザリアは『余計なことを』と心の中で罵った。
「姫様、口から出ています」
マリアがたしなめる。
知らず知らずのうちに言葉が出ていたことにロザリアは舌打ちをした。
誤字脱字・文章推敲いたしました。




