ホットチョコレートのお味見
何度も同じ言葉を口にするリュミエールの真意がわからず、あえて表情で示す。
それが常に微笑みを絶やさず、感情をあらわにしてはいけないと言われている貴婦人のマナーを破っていることを承知の上でロザリアは顔をしかめ続けた。
リュミエールはロザリアの表情を気にすることもなく、ロザリアの前に立ち更に間を詰める。
身長差のある二人は、近づけば近づくほどロザリアがリュミエールを見上げた。
リュミエールの行動に戸惑いを感じているはずなのにしかめっ面はそのままに、ロザリアはリュミエールをしっかりと見つめる。
ロザリアは後ずさるか、少し悩んだが…下がってしまえば負けのような気がしてリュミエールと視線を合わしたまま動かずにいた。
緑色の強い光を宿した瞳。
庭で見たおどおどした侍女とは違う。
あの挙動不審な態度も、侍女のふりをしていたためかと思うとリュミエールは自然に笑がこみ上げてきた。
侍女のふりも、お菓子を作ることも、そして、リュミエールと視線を外さず見つめ合うことも。
「本当におもしろい。」
思わずリュミエールは言うと屈み込む。
ロザリアが静止する間もなく、次の瞬間ロザリアとリュミエールの距離が近づく。
二人の距離がこれ以上、近づけない距離になりリュミエールの唇がロザリアの口角をかすめた。
何が起きているのかわからず、ロザリアの目が大きく開かれる。
ロザリアの目の下に紺藍色の髪が見える。
ロザリアの頬をリュミエールの髪がくすぐる。
「なにを。」
ロザリアはリュミエールの広い胸板を突き飛ばした。
リュミエールは衝撃を受けた様子も感じさせず、ロザリアとの間をとった。
「チョコレートが唇についていた。」
悪びれた様子もなくリュミエールは言う。
そして、リュミエールはそう言ってロザリアの形のいい唇を指でなぞる。
「本当に甘い。」
ロザリアは…ホットチョコレートの味は残っていないはずなのに、あの熱くて、甘い味が口の中を満たした気がした。
「ロザリア。今度は私が招待しよう。食べてばかりも悪いしな。」
そう言ってリュミエールは意地悪な笑みを浮かべた。
招待って…招待した覚えはないし、お菓子だって勝手に食べているだけで何を言っているのだろうとロザリアは思った。
「結構です。」
考えるよりも先に言葉がロザリアは言っていた。
「執務に戻る。」
リュミエールの意地悪な笑みは消え王の姿になる。
「いってらっしゃいませ。」
思わずロザリアは姿勢を正し言ってしまう。
父王に母がよく言った言葉、条件反射とは怖いものだと思った。
「ああ。」
リュミエールが軽く目を細めた。
誤字脱字・文章推敲いたしました。




