スイーツなホットチョコレート
ロザリアの一言に場が凍った。
凍った場を動かしたのは手を叩く音だった。
「さすが我が姫だ。」
その言葉に宰相は苦い顔をした。
「誰?」
ロザリアは威勢のいい言葉を言い放った後とは思えない、かすれた声で尋ねる。
そこには例の偉そうな青年が手を叩いていた。
印象的な藍色の瞳の青年。
後宮に訪れた青年に『誰』と問いかけたものの答えは予想した通りのものだった。
「俺の名はリュミエール。」
青年…この国の王が口を開く。
「姫の夫だ。」
付け加えるようにリュミエールが言葉を紡ぐ。
これが側室として嫁いで二年、ロザリアとリュミエール、二人の出会いだった。
「初めまして、ロザリアと申します。」
ロザリアは白いシンプルな寝衣という服装も気にせず姿勢を正し、優雅に腰を折り笑顔を見せる。その姿はまさしく姫だった。
そして、ロザリアはあえて庭で出会ったことを忘れたように挨拶をする。
「それで、どういった御用件でしょうか?」
凛とした態度、いつもの儚げな様子とは違うロザリアの姿に女官長はため息をつく。
「二年も私はなにを見ていたのでしょうか。」
「王の寵愛を得ようとするものはよくいますがどうやら、この姫は変わり者の様ですね。」
「大人しい、病弱な姫君と思っていましたのに。この血色のよさ、女官長としてまだまだですね。」
「それをいうなら私も、宰相として情報収集力がまだまだです。」
宰相が女官長をなぐさめるように言う。
「贈り物も寵愛もなにも必要とせず離縁をそれとなく匂わせる。」
リュミエールの言葉にロザリアは唇を噛んだ。
宝石やドレス、寵愛よりもお菓子を作って気ままに暮らす生活が、それなりに気に入って建前の側室という境遇を満喫していたけれど…多少わがままを言っても、さっさと側室を辞めておけばよかったとロザリアは激しく後悔した。
「こうなってみると暇をださなくて、よかったのかもしれないな。二人とも下がれ。」
リュミエールが一人納得する。
「王?」
女官長が眉をしかめた。
「当座の執務は終了されましたが、長居出来るほどの時間はありません。」
宰相が冷静な声で指摘する。
「わかっている。少し二人で話がしたい。」
女官長と宰相はあきらめたようにマリアを引きずりながら部屋をあとにした。
「私にどんなご用件でしょうか。」
ロザリアは突然現れたリュミエールの行動に不安と戸惑いを隠しながら尋ねる。
「王が側室に会いに来たのがおかしいか。顔を見たくなった。」
ロザリアは思わず二年も経ってからですかと言いそうになる。
「これを貰いにきた。」
テーブルに近寄り、ロザリアが作った冷めたホットチョコレートを口にする。
「甘いな。」
リュミエールが冷めているはずのホットチョコレートを飲み干し笑顔を見せた。
ホットチョコレートなのだから甘いのは当たり前だとロザリアは思う。
「ありがとうございます。」
ホットチョコレートの感想にどう答えていいかわからず、ロザリアは謝辞の言葉を口にした。
この城の人達は人のお菓子をとってばかりだとロザリアは思う。
一瞬、ロザリアの頭の中にチョコレートを渡さなかったのがそんなに嫌だったのだろうかという考えが浮かんだが、仮にも一国の王がそんな理由でわざわざ二年も放っておいた側室の元へくるはずはないと考える。
「甘い………」
ロザリアの考えを我関せずという様子でリュミエールは同じ言葉を繰り返す。
そして、言ってロザリアの前にリュミエールは立った。
「本当に甘い。」
三度目の甘いという言葉にロザリアははっきりと顔をしかめた。
文章推敲いたしました。ご指摘ありがとうございます。




