ホットチョコレートで一息つきませんか?
「で、思わず自分の誕生日って言いそうになっちゃった。」
天蓋付きのベットの上でロザリアは足を投げ出してあぐらをかく。
細くしなやかな脚がスカートから見える。
ロザリアはマリアに料理長との会話の中で、思わずマリアのふりを忘れ自分の誕生日と言いそうになったときの話をしていた。
「で、どう思う?」
ロザリアがマリアに相槌を求めた。
「どう、と言われましても。」
マリアは困った顔をする。
温かく煮たてたホットチョコレートをカップに注ぐ。
甘い香りがカップから立ち昇る。
「何というか…ばれなくてよかったですね。」
最もあたり触りのなさそうな言葉を選んでマリアは答えた。
「…なんだか宰相に声をかけられてから、おかしいのよね。」
ロザリアがため息をつく。
最近、お菓子を作った後には必ず出てくるようになった宰相の話題が今日もでてくる。
マリアの侍女仲間の話からは、奥方一筋でロザリアに気がある様子もない。
けれどロザリアの作るお菓子にはひどく執着する。
宰相の地位にあるものならばお菓子ごとき望めば、いくらでも手に入るだろうに…。
「気まぐれな方が、この城には多いのですね。」
マリアも同意する。
「…姫様……と言いますか、私の…侍女ふりをしてお菓子を作るのは潮時なんじゃありませんか。
正体がばれてしまえば女官長様に怒られます。」
マリアがロザリアをたしなめた。
今思えば2年間、女官長を含め周囲を騙せていたこと自体おかしい。
おかしいというよりも、それだけロザリアに注意を…興味を払われていないということなのだろうが。
側室という地位にある者としては、この扱いを悲しむべきなのだろうが、ロザリアは逆に喜んでいる。
マリアが思案を巡らせていると、のんきにロザリアは返事をする。
「そうね……宰相が、まさか、お菓子を配り歩いてるなんて思わなかったし。あんな偉そうな男の人にも配ってるんだもんね。」
ロザリアは庭で出会った青年のことを思い出す。
吸い込まれそうな藍色の瞳。
傲慢そうな態度なのに憎めない。
ロザリアがホットチョコレートを口にいれる。
「あまーい。おいしー。しあわせー。」
天蓋付きの豪華なベットの上で足をばたばたとロザリアは動かす。
「姫様。」
マリアが白い脚にひざ掛けをかけた。
「ま、怒られても『最初から本人がしたいと言いなさい』って言われるだけかもね。」
女官長の口調を真似、気楽な様子でロザリアか手をひらひらと顔の前で動かす。
「姫様、チョコレートで酔っておいでですか。」
余程作ったスイーツの出来栄えがいいのか、いつもより上機嫌のロザリアをマリアは困ったように見つめた。
「マリアは真面目ね。」
茶目っ気たっぷりに片目をロザリアはつぶった。
「ここにいるのが私の仕事。でも……はやく王様が正妃を娶ってくださったら私も遠慮なく国に帰れるのにね。」
天蓋付きの豪華なベットの上に寝転がって、体を伸ばす。
ごろごろと身体を動かし、ふわふわの枕に顔を埋める。
「姫様、人目がないからと言って…はしたないですよ。」
マリアが苦笑する。
「だって誰もこないし、女官長にも伏せってるって伝えたし。のんびり、だらだらたまんない。誕生日ケーキもおいしそうに作れたしねー、楽しみ。」
そういいながらロザリアが天蓋付きの豪華なベットの上に立ち上がる。
「誕生日のスイーツは私だけのものよ。」
わざとらしく両手を腰に当て威張ったポーズをとった。
「姫様…。」
マリアが言葉を紡ごうとした瞬間……
「あなた様はっ。」
女官長の叫びと共に寝室の扉が開かれた。
文章推敲いたしました。
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