第11話 影へと歩み寄る(2)
市街地を抜け、通りをいくつか曲がった先でオレの自宅へと辿り着いた。そこには庭の掃除をしているシュヴェルと、落ち着きがなくそわそわしている少年妖精が2人。
キツネのような小さい尖った耳の白い妖精と、ふさふさな垂れ下がった大きな耳を持つ灰色妖精。……オレの友人であるフリードとドラクだ。
2人は庭に出ていたシュヴェルと話していたり、庭をウロウロしていた。まるでオレを探すかのように周りをキョロキョロしていたおかげで、その2人がたった今家の前に来たオレらを視界に入れるのは遅くなかった。
「あ……ルヴェルザさん⁉︎ ルヴェルザさんですよね⁉︎」
「ほ、ほんとだ! ルヴェルザさん!」
「あ、ああ」
フリードとドラクが大声を上げて駆け寄って来た勢いに押され、オレはそれしか言葉が出なかった。2人はオレを確かめているのか、昨日シュヴェルがしたようにあちこちを見て確認している。
「先日から行方不明って聞いて心配してたんです……!」
「とにかく無事で安心したよ!」
「……悪い。面倒なトラブルに巻き込まれてな」
オレの姿が幻ではないと確証を得て、2人は心底ホッとしたように息をつく。さっき見えていた不安げな表情が消えて、今じゃ嬉しさが勝るように笑顔を見せている。
この様子じゃシュヴェル同様、2人にも相当心配かけていたらしい。それも当然か、急に学校から来なくなればおかしいと思わない方がどうかしている。あとで詳しく説明しておかないとな……。
「おいルーザ、その2人はなんなんだ?」
「もしかして……ルーザの元々の友達?」
不思議そうに様子を見ていたイアとエメラとは違って、今のオレらの会話内容でルージュはこの2人がオレの友人ということを察した様子。
そこでドラクもフリードも、今の今までオレに注目を向けているせいで存在に気づかなかった初対面の3人を見て戸惑った。
「え、君達は一体……? この辺りじゃ見かけないけど」
「それに、ルヴェルザさんにやけにそっくりな方までいらっしゃいますが……」
「分かった分かった。順を追って説明してやるから」
お互い、急に現れてオレと親しげに話しかけている存在に戸惑っている。いきなり説明しても困惑するだけだろうから、まずはお互いに自己紹介させることに。
初対面で警戒しているとはいえ、それぞれ悪い奴らではないのはこの中で唯一両者を知るオレがよく分かっている。名乗りさえすれば、お互いの警戒も解けるだろう。
反対するやつはいなかった。まずはエメラが少々緊張しながら手を挙げて自己紹介する。
「えっと、わたしはエメラ。エメラルドの妖精でお菓子作りとか、料理が得意なの」
「オレはイア。サファイアの妖精だ。腕っ節にはちょっと自信があるぜ」
「私はルジェリア。ルージュって呼ばれてるけど。私とルーザがどうして似てるのかはわからなくて……」
「あの……先ほどからそのルーザというのはなんなんですか?」
フリードが不思議そうに聞いてくる。そういえば、光の世界に行く前はずっとルヴェルザと呼ばれていたし、イアが初めて会った時にルーザという呼び名をつけられたんだったか……。
ルヴェルザじゃ長いとは感じていたし、最初こそいきなり呼び名を付けられて戸惑ったが、今ではすっかり慣れた。もういっそルーザでいいか……そう思ってその経緯をフリードとドラクに説明した。
「そうだったのか。なら、僕たちもこれからルーザさんって呼んでもいいかな。その方が友達らしいし」
「構わない。もう慣れたもんだからな」
「じゃあ次は僕たちだね。僕はドラク。氷河山の案内妖精の家系なんだ」
「氷河山ってなんだ?」
「あそこだよ」
ドラクは北のはずれにある氷に覆われた山を指差した。
氷河山はこの国の周りにある山の中で一番の標高を誇る山だ。離れてるこの場でもよく見える。山を覆う氷は陽の光を浴びてキラキラと輝き、まるで巨大な水晶がそそり立っているかのような見栄えだ。
「うおっ、でけぇ」
「僕の家系は代々あの山の番人みたいな役目を請け負っているんだ」
「確かに、あれぐらいの山だと見張りを付けておかないと危険が及ぶのかな」
「うん。こうして案内役がいても毎年のように事故は起こるから……。それを少しでも無くすように頑張っているんだ」
ルージュの質問にドラクはそう答える。
ドラクの言葉通り、小さい子供が興味本位で入らないようにだったり、山の魔物に危害を加えないようにだったりと、ドラクの家族はそういう山の監視と案内をしている家系だ。
標高もさることながら、この国屈指の危険と名高い山だ。だからドラクのような案内妖精はこの国では欠かせない存在とも言える。
「じゃあ次ですね。僕はフリードと言います。雪妖精です」
「ふーん。こっちって女の子でも自分を男の子みたいに呼ぶこと多いね」
フリードが自己紹介を終えると、エメラが笑いながら言った。
……ん? ちょっと待て。オレはともかく別にフリードは気に留める要素ないのに。って、ことは……
やがてその意味に気づいたのだろう、フリードもがっくりと肩を落とす。
「え、え? どうしたの?」
「あの……らしくないとは自覚してますが、僕は男です……」
「え、ええっ⁉︎ ご、ごめんなさい!」
「い、いえ。いいんです。慣れてますから……」
慌てて謝るエメラだが、それを止めるフリードもやはり思うところあるのか苦笑い。
フリードは体格が華奢で顔も割と中性的。服装も白の長めのローブというどちらか判別しづらいものだから、こうして女と間違われることが度々あった。本人は慣れているとは言っているものの、やはり落ち込む要素にはなるようで表情が今も沈んだままだ。
とりあえず名乗るのは終わった。続きを話したいところだが、ここでは場所が悪い。冷え込むし、中で話した方が断然いいだろう。
「立ち話もなんだし、家に上がってくれ。そこで全部ぶちまける。こっちのことも、今までのことも」
全員、それに賛成したようで頷く。
シュヴェルはそれを察してか既に扉を開けてくれていた。そしていつものように一礼するとオレらの後に中に入り、キッチンに向かっていった。
おそらく紅茶の用意でもしてくれるのだろう。紅茶を待つ間に、話を済ませることに。
フリードとドラクには散々心配をかけたんだ。贖罪としては大したものにはならないだろうが、オレには今までのことを説明する義務がある。
それに、ルージュ達のことも2人に知って欲しい。そんな思いを胸に、オレはルージュ達を家に招き入れた。




