研究室はイメージと違った
王城の門番にギルド証を見せ城の中に入った。まっすぐ行くとある階段を上ると謁見の間、右側がダンジョンの入口につながる部屋、左側の通路を進み角を曲がった所にあるのが研究棟だっけか。
階段前にも兵士が立っていて不審者がいないか広間を見回している感じだね。とりあえず僕は研究棟へ向かうかな。
……僕は研究棟に向けて歩いているんだけど、誰かに見られている気がする…けれど後ろを振り向いても誰もいない。気のせいかな?城の中だし監視されているだけなのかもしれない。
気にしても仕方がないのでそのまま歩いていく。目の前の扉を開けると一気に雰囲気が変わった。防火?防爆なのか丈夫そうな材質で作られている…遺物というか魔道具はやっぱり取り扱うのは危険なんだね…あ、人がいた。
「すみません、侯爵様に推薦してもらった流れ人なんですが…研究棟の説明をしてくれる方っているのでしょうか?」
「あ、君がワタリ君で合っているのかな?一足先にノルニール侯爵から報せが来たから待っていたんだよ。」
「はい、ワタリです。侯爵様がすでに報せてくださっていたとは…お待たせしてしまってすみません。」
「いやいや、そこまで待ってないから大丈夫だよ。私はこの研究棟の責任者のシュレーという。よろしくな。」
この壮年の男性が責任者なのか。研究者ってとっつきにくい雰囲気があると思ったんだけどこの人は優しそうな雰囲気だなぁ。実際、研究中になったら厳しいのかもしれないけれど…
「それじゃ発掘された遺物や君が聞きたい転移の研究について説明するから皆がいる研究室に行こうか。」
「はい、わかりました!」
僕が返事をしてついて行こうとすると、シュレーさんは僕の後ろを何やら気にしている。…やっぱり何かいるのかな?シュレーさんは何やら納得したような顔をして部屋に向かった。問題なかったのかな…?
僕達は研究部屋に入った。あれ?部屋の中もかなり綺麗だ…僕が予想していた状態は紙の束が散らかっていたり、目の下に隈出来ている人達で死屍累々だったんだけど…みんな落ち着いた雰囲気で紅茶飲んだりお菓子食べている。
「ここが私達が意見交換をする部屋だ。…おや?何やら驚いているね?」
「あ、はい…僕のしていたイメージと全然違ったので…もっと乱雑な部屋かと思いました…」
「昔はそうだったみたいだが、それだと作業効率が悪かったので改善したのだよ。遺物のデータをとる際は危険なので慎重に行うが、それ以外は意見交換がメインとなるからそこまで大変なものではないからね。」
「そうだったのですか…」
僕は席へ案内されたので座った。
「それじゃ君の知りたい転移について話していこうか。他の遺物に関しては研究が終わっているからね。流れ人がこれから続々とダンジョンに入っていくようになるとここも忙しくなるだろうが…」
「お願いします!いまのところ、転移は実現可能なのでしょうか?あとは個人携帯ができるようになる可能性など…」
「そうだね。まず、転移は実現可能段階まで来ているよ。大型の装置だからこのままじゃ個人で持ち運びは出来ないが…流れ人のバッグに入れて使うってことも無理だな。設置型なのでな。動力源が分からない状況だ。魔道具から魔石が抜き取られた状態みたいな…。転移の遺物が見つかったのが地下20階、設計図や部品が見つかるのが地下30階までの間となっている。こちらの世界の者が攻略できているのは地下31階でな。私達の見解では地下40階まで行ければ動力源が見つかると思っている。君たち流れ人にはそのあたりの攻略を期待しているよ。」
やっぱ流れ人が攻略しないと転移が実現しない状態だったのか…攻略しても数が必要なら僕が地下40階まで達成できても目立たないけど、一回限りの場合はさすがに目立ちそう…これだと他の流れ人が進むのを待っていたほうがいいかも?僕自身はスキルの訓練って立ち回りでいいかもね。もしくは住人とPT組んで潜るのもありかも?
「僕自身は錬金術師なのでそこまで攻略に貢献できるとは思いませんが…とりあえず出来る範囲で頑張ってみるつもりです。…あと、先ほどから気になっているのですが…そちらのドレスを着た女性は一体…この場にそぐわない雰囲気なのですが…」
僕が問いかけると、シュレーさんは困った顔をして紹介してくれた。
「この方は…この国の王女アリエス様だよ。なぜここにいるのかって言うと…」
「ワタリさんを後ろから観察していたからですよ。」
王女様!?なんで!?
「王女様でしたか!すみませんでした…」
「私が勝手に後ろから見ていただけなのでそこまで畏まらなくてもいいですよ?それにこれからちょっと頼みたいこともありましたし。」
王族からの頼み事とか何か厄介な感じがするんだけれど!?大丈夫だよね…?
「えっと…無理のない範囲でありましたら…」
「あら?そこまで身構えなくても大丈夫ですよ?妹に会ってもらいたいのです。」
「妹君がいるのですか…」
「ワタリ君、アリエス様の妹君は病弱で部屋から出れないんだ。だから会うということは寝室に行くことになる…」
なんだって!?いきなり寝室とかどういうこと!?…というか、どこで興味持たれたんだ…
「えっと…大変光栄な事かと思いますが…いきなり女性の、しかも王女様の寝室に行くのは…」
「あら?私も同席するし気にしなくてもいいわよ?それに、私よりジェミニのがワタリさんに興味持っているの。あなたは錬金術師だし、もしかしたら妹の病弱の原因が分かるかもしれないという期待もあるのよ?発掘される遺物で医療系のが少ないから諦めてはいたのだけれど、流れ人から見ると何か分かるかもしれないから。」
「そうだったのですか…それなら一度会ってみることにします…僕が粗相をしないようにアリエス様も同席しているなら安心ですし…」
「よかった、それじゃ向かいましょ!シュレー、これで失礼しますね。」
「分かりました。アリエス様、道中転ばないように…」
「そこまで私はお転婆じゃないわよ。体を動かすほうが好きだけれど。」
もしや、侯爵様はこうなるって予想していたのかな…?出るときに怪しかったし…




