土魔法は便利だよね
さて、あとは伯爵のぼっちゃんと山賊の幹部になるのかな?というか、山賊に見せかけた傭兵な気もする…なるほど、山賊が出るかもという噂を流し人通りを少なくした上での封鎖か。冒険者ギルドに調査依頼が出てたとしてもこの人らが受けてる可能性もあるよね。
「なんだよ貴様!」
「さっき言ったでしょ?通りすがりだって、ちゃんと聞いてた?」
「こいつよく見たら可愛い顔してんじゃん、こいつも一緒に楽しんじゃおうぜ!」
「数的有利に立ったからっていきってんのか?そいつら守りながら俺達の相手出来るはずねぇだろ!俺達Bランクだしな!」
冒険者ギルドに登録している奴らか、やっぱりさっきの推測通りっぽいな…ま、メイドさんはご令嬢さん達を守りながらになるけど僕的には問題ないと思っているし。
じゃ、いつも通りに穴を開ける準備をしてっと。…というか、いつも思うけど魔力感知できない人多くない?有効だから楽でいいんだけど…正面から生産職は戦うの向かないし。
「僕は男だよ。あと、もうお前たちは終わってるさ。」
そう言い、僕は4人とも穴に落とし首だけ出した状態にした。あ、通信妨害させる魔道具はどれだろ?坊ちゃんの首にかけてあるやつっぽいかな、なにか魔力が通りにくくなってるし。これを破壊してっと。こいつらも麻痺させて気絶させておくか、連絡送られても困るし。ってベッセル!?いつの間に戻ってきたの!?お前の蹄で蹴られたらこいつらやばいんじゃないの!?
「うん…まぁ…これで終わり。通信も回復しているだろうから助けを呼ぶといいよ?」
僕はメイドさん達と貴族令嬢達に破れた肌を隠せるように布を配り、背を向けベッセルを撫でる。
「あ、ありがとうございます!」
「助かりました…ありがとうございます。」
「いえ、偶然通りかかっただけですので。着替えは大丈夫ですか?無いようでしたら手持ちからお貸しすることも出来ますが…」
僕が聞くと、メイドさん達は馬車の中を確認しにいき、すぐ戻って来た。
「お嬢様方、中は荒らされておらず大丈夫でした。」
「それなら着替えて来るといいよ。」
「あ、あの!街まで護衛をお願いしてもいいでしょうか…その、護衛の方がやられてしまいましたし…」
僕としては大丈夫なんだけど…見ず知らずの男が1人一緒って大丈夫なのかな…?この子らの親に何か言われる可能性もあるんだけど…
「えーっと…僕が一緒でも大丈夫なように親御さんに説明しといてくれるのと、この気絶させたやつらを引き取ってくれるように頼むのをしてくれたら大丈夫だと思います…馬車を引かせるのは僕のベッセルで大丈夫でしょうし…」
「は、はい!そのように致します!」
なんでこの子らが畏まっているんだろ…僕は平民だし。
「僕は平民ですし畏まらなくていいですよ?逆に僕がそうしなければいけない立場なので…」
「い、いえ!命と操を助けてもらいましたし当然のことです!」
もう一人も同じ意見のようでコクコクと頷いている。この子は物静かというか冷静なのかな、さっきの山賊の話からするとこの子が侯爵令嬢か。
「とりあえず、着替えを済ませるといいよ?いつまでもその恰好じゃ僕はそっち向けないし…それに、僕は畏まられるより普通に話してくれるほうが嬉しいかな。」
「あ、はい。お粗末なものを見せてしまい申し訳ありません…じゃない、ごめんなさい。」
「さっきもあいつらに言ったけれど、僕は男なんだよ。気を付けてね?」
僕がそう言うとバタバタと馬車に駆け込んでいく音がし、その後からついてく足音がした。
「とりあえず一件落着、になるのかな。ベッセル、あいつらの気を引いてくれてありがとう!」
僕がお礼を言うとなんでもないとでも言いたげにしたあと、撫でて欲しいように首をさげた。甘えん坊だなぁ、そこが可愛いんだけどね、普段のお調子者もいいけど。
馬車の方から2人が降りて来て、その後ろからメイドさん2人も身繕いが終わったのか出てきた。
「あの、改めてお礼を言わせてください。ほんとうにありがとうございました。私はラヴィーネ、レグルス伯爵の娘になります。ラヴィと呼んでくれると嬉しいです!」
チラチラとこちらを見ながら話しかけて来る。二人とも顔が真っ赤だから恥ずかしかったんだろうな…ってもう一人が腕に抱き着いてきた。
「…イーリス、イーリス・ノルニール。ありがと…」
「イーリスちゃんは侯爵家なの。ちょっと話すのが苦手で…行動で何かと表すことが多いんだけど、男の子に抱き着くなんて初めて。」
ラヴィがなにやらビックリしている。僕も抱き着かれて固まっているんだけど…やんわりと引き剥がして挨拶する。…そんなほっぺ膨らませなくても…
「僕はワタリ。流れ人でベスタから王都に向かう途中で襲われているのに気づいて間に入ったんだよ。」
「流れ人…お父様が言っていた方々ですね…各都市の主要な役職、門番などが書き込める住民板があるの。私達には年齢的に見させてくれないのですが…」
「あー…意外と掲示板って荒れたりするから娘さん達のことを思って見させていないんだと思うよ?先入観にとらわれずにってのもあるだろうけれど…」
「ん、そうおもう…」
「とりあえず、ここで立ち話はこれくらいにして進みましょうか。日が暮れる前に宿場町につけるのがいいでしょうし。僕の馬が馬車を引きますので皆さん乗り込んでください。」
「何から何までありがとうございます!」
ラヴィがお礼を言い、イーリスもぺこっと頭を下げた。メイドさん達も深々頭を下げているけれど、僕はそんなすごいことしたわけじゃないんだよ…
「僕が御者しますので、宿場町を目指しますね。あまり揺れない様にしますが、馬車を引かせるのは初めてなので酔った場合は教えてください。」
皆は馬車に乗り込み、僕はベッセルに馬車を引かせられるようにした。
「ベッセル、大丈夫かな?引けそう?」
ベッセルは一鳴きし歩を進めてみた。大丈夫そうかな?少しずつスピードを上げていくベッセル。この時代って衝撃吸収とかないだろうから馬車ってかなり揺れるんじゃないのかなぁ…一応馬車も魔力で覆ってみているけど…心配になり後ろに声をかける。
「えっと、揺れは大丈夫でしょうか?それなりにスピード出していますが…」
「はい、大丈夫です!そんなにスピード出ているのですか…ほんと、結構早いですね…全然揺れてないので平気ですよ!」
ラヴィは窓から外を確認しながら答えた。
「あの、御者変わりましょうか…私達にもなにか手伝わせてほしいのですが…」
メイドさんが手伝いを申し出て来るんだけど…残念ながら…
「気持ちはありがたいのですが、このベッセルは気難しい性格なので僕以外は素直に言うこと聞かないと思います。時間をかければ大丈夫でしょうが…今はなるべく早く宿場町を目指す必要がありますので。…それに、女性の中でただ一人男だと肩身が狭いので…」
「わ、私達は気にしませんよ!」
「…ん、気にしない。むしろ来てほしい。」
「いや…僕が気にするんだって…色々あったんだし、僕を気にするよりしっかりと休んでください。あいつらのことはこちらもアルファスの領主を通して冒険者ギルドに伝えられていると思いますし。」
「ラナさんの所ですか?そういえば流れ人が来るからと長期休暇を申請していましたね。」
「あ、もしや知っています?ラナさんとは散歩仲間だったのでそれなりに仲がいいんですよ。そこから領主に今回のことが伝えられていると思います。」
「知っているも何もクラスメイトです!まさかこんな繋がりがあるとは思いませんでした…」
奇妙な縁になっているなぁ…そういや、ラナさんの年齢からすると学生か。普通に領地にいるから自宅で勉強しているのかと思ってたよ…
僕はそう思いながらベッセルの走りを応援するのだった。




