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根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?  作者: みずがめ
三章 冒険者編

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第83話 覚悟の剣

 見下ろされているというよりも、見下されている。そう感じてしまうのは格の差というものを感じ取っているからなのだろうか。

 当たり前だ。そこにいるのは魔王。今は抜け殻のようになっているのかもしれないが、それでもわたし達にとっては充分過ぎるほどの脅威だ。


「……」


 相も変わらず表情が抜け落ちている。黙り込んだままで、何かしらの意思を伝えようとする様子すらない。

 でも……ちょっとだけ顔色が良くなってないか?


「危なっ!?」


 上空にいる魔王にばかり気を取られていたら下からの魔法攻撃にヒヤリとさせられる。またオーガロードの風魔法だ。自分を忘れるなとでも言いたげである。

 魔王は確かな脅威に変わりないけど、地上にいるロード率いる魔物の軍勢だって確かな目の前の脅威だ。どちらも自由にさせるわけにはいかない。

 魔王はここにいる。だけど、またもや動こうとはしない。どこかにスイッチでもあるんじゃないだろうな?

 ならば地上のロードどもを仕留めていきたいところだけど、それで魔王から目を離すだなんて怖いにもほどがある。

 どうする? どうすればいい?

 迷っている間にも戦況は動く。目まぐるしく、確実に。


「うわああああああっ!! なんでゴブリンがこんなにも強いんだ!?」

「ゴブリンロードが率いてやがるんだ! あんなの、俺達みたいな低ランク冒険者がなんとかできるわけねえだろ!!」


 ゴブリンどもに押されている冒険者達。いや、他の種族にもロードがいる。どこも似たようなものだった。

 ベテランパーティーともなれば食い止めることはできているようだが、全体から見ればそれも少数であった。

 とにかく少しでも援護しないと。意識を切り替えて、標的を地上の魔物へと移す。

 速く正確に。石の弾丸を、各ロードの脳天へと放つ。

 だが、さすがはロードというべきか。わたしにちょっかいをかけていたオーガロードはこっちを見ていたこともあり、当たり前のように回避される。他のロードも頭上からの攻撃に慌てる様子もなく対処されてしまう。こっちだって魔王に気を取られながらだったものの、ちょっと悔しい。せめて意識くらいはこっちに裂けられたのだと信じたい。

 ロードクラスを倒すにはもっと強い魔法じゃないとダメだ。しかし、その隙を魔王が見逃してくれるか、判断がつかなかった。


「……」


 なんて思っていたらじっと見つめられているのに気づく。何か言ってくれれればリアクションのしようがあるんだけど。

 そんなことを思っていたからだろうか。魔王の口がゆっくりと開く。予想だにしていなかった行動に、状況も忘れて固まってしまう。


「ア……」

「あ?」

「ア……ア、ア……」


 うん、言葉になっていない。

 しかし、一音とはいえ、ちゃんと声を出している。もしかしてわたしの魔力を吸収したからなのか?

 もしそうだとしたら……。もっと魔力を吸収すれば自我を取り戻すのではないだろうか。その考えに至った瞬間、身震いした。

 魔王討伐どころか、魔王を復活させただなんて、謝ったって許されない。今さらなのはわかっている。それでも、これ以上自分のせいで何かが壊れてしまうことは耐えられなかった。


「このっ!」


 衝動に任せて魔法を放とうと手のひらを向ければ、魔王も同じように手のひらを向けてくる。

 その行動が、また魔力を吸収する動きに思えた。まずい! と内心で悲鳴を上げて手を引っ込めた。

 だけど、魔王も同じように引っ込めてはくれなかった。

 淡い光が手のひらへと収束するのが見える。次に生み出されたのは拳大の石。それがいくつも、いくつも生成される。

 一度中断した魔法を無詠唱で放つ。こっちも石の弾丸だ。ほぼ同時に放たれたそれは、風を切って空中でぶつかり合う。

 石同士のぶつかり合い。などと言えば大したことがなさそうだ。子供の投げ合いならそうかもしれないが、一発一発が魔物を倒せるほどの速度と威力が乗せられていた。

 大きさとは反比例して、破壊音は大きかった。地上の連中が思わず見上げてしまうくらいには破壊音が辺りに響く。


「くっ」


 結果を左右したのは魔法を生成した速さ。見てから動いたわたしの方が遅いのは当然のことだった。

 砕かれたのはわたし。魔王の凶弾が迫る。

 急加速しながら身をひねる。無理な態勢は承知の上。石の弾丸が服をかすめたけど、なんとか直撃は避けられた。


「グギャアアアアアアアアアァァァァァ!!」


 下からの絶叫にビクッ、と体が跳ねた。魔王の攻撃を回避した直後だっただけに心臓が口から出そうなほど驚いてしまった。

 叫び声の方向に顔を向ければ、ゴブリンの集団が崩壊していた。ロードもやられてしまったようで、立て直しはなさそうだ。


「……」

「……」


 無言になるわたしと魔王。いや、魔王はもともと口数なんてないも同然だけどもさ。

 おそらく、わたしがかわした魔王の魔法が、地上のゴブリンどもに直撃してしまったのだろう。なんとも言えない結果への反応に困る。

 ……しかし、これはシャレにならない。

 ゴブリンとはいえ、ロードでさえほぼ一撃で倒せるほどの威力があるのだと証明された。今回は同士討ちをしてくれたけど、もしあれが冒険者の誰かに向かっていたとしたら……。

 嫌な考えを振り払うように高度を上げる。ちょうど魔王と同じ高さで静止した。

 周りに被害を出したくはない。だからって「戦う場所を変えようぜ」と言って頷いてくれるかどうか。それに、魔物の大群を相手にしている冒険者達のことも気になる。

 なら、ここで決着をつける。魔王は、わたしが倒す!

 腰に差している剣に手をかける。


「ふっ」


 短く息を吐く。覚悟なんて今さらだ。

 わたしは、ずっとこの剣を抜く時を待っていた。それが今。その時こそ今だった。

 吸収される恐れのある魔法攻撃よりも、剣で接近戦を挑んだ方がいい。そう理由付けをし、剣を抜き放つ。

 装飾はなく、刃は鈍い光を輝かせている。斬るための剣。そう主張しているかのような輝きだった。

 わたしが年月をかけて作り上げた剣だ。膨大な魔力が内包されたそれは、まさしく最高の一品であろう。

 刃先を魔王に向けてやる。ようやく訪れた剣の出番に、武者震いなのか剣先が小さく震えた。


「……」


 魔王に動揺なし。顔色一つ変えずにわたしを見つめているだけだ。

 ならばこっちから言ってやるしかあるまい。


「覚悟しやがれ!!」


 精一杯の虚勢を張る。覚悟を決めなきゃならないのはどちらか。自分で、よくわかっていた。



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