第66話 少年が仲間になりたそうにこっちを見ている
オーガは全滅したとはいえ、わたしにとっては依頼失敗だ。不機嫌なまま帰ってふて寝した。
次の日にはまた冒険者ギルドを訪れていた。やらなきゃお金をもらえないので仕方ない。その日その日を休日にするかどうかは自分次第である。冒険者の自由なところだ。
まあ休みの日にしたところで何かしたいことがあるわけでもないんだけどね。余計なことを考えないためにも体を動かす方が楽だったりもする。
「昨日はオーガロードが現れたそうですね。相当な数だったようですし、エルさんが無事で良かったです」
「それはどうも……」
受付嬢に話しかけると昨日受けた依頼の話をされた。『漆黒の翼』の誰かが話しちゃったんだろうな。なんだか気まずい気分になる。
「ロードが率いる魔物の群れはBランクのエルさんでもきつかったですよね。ロードがいるというだけで国の正規軍並みと言われていますし。本来ならBランクのパーティーでも複数ほしかったところです。オーガロードの存在を認知できていなかったギルド側の落ち度でもありますが」
「そんなんで落ち度とか言ってたらキリがないでしょう。確かな情報収集をするのも各冒険者の仕事ですよ。命を落としたらそこでおしまいなんですから。それくらいはこっちで責任持ってやります」
まあロードに関しては本当に遭遇するのは稀だからな。わたしの運が悪かっただけだ。
それにサイラス達は問題なく倒せていた。結局はわたしが弱かっただけという結論に至ってしまう。
「あの、エルさんは誰かとパーティーは組まないんですか? エルさんほどの魔道士ならどこのパーティーも歓迎されると思うのですが」
「わたし一人のためにせっかくのパーティーの連携を崩すわけにはいかないでしょう。それに、わたしなんかを入れたらみんなの空気が悪くなっちゃいますよ」
受付嬢は困ったように笑う。それから特に何かを言われることはなかった。
依頼を受けて建物から出た。
「あっ! 見つけたぞ姉ちゃん!」
そこで男の子と出会った。
わたしは男の子をスルーして進む。がっ、とローブを掴まれて足を止めさせられる。
「……どちら様でしょう?」
「昨日俺に果物をくれただろ。食べてから話を聞くって言っていたのにどっか行っちゃうんだからよ」
「別にわたしが話を聞くとは言っていないよ。他の人が聞いてくれるんじゃないかな」
適当にはぐらかそうとすると、少年はわたしのローブを掴む手を強めた。
「誰も俺みたいなガキの言うことなんて聞いちゃくれない……。俺は冒険者になりたいんだ! だから頼むよ」
頼まれてもわたしだって困る。
それに、こんな子供が冒険者としてやっていけるとは到底思えない。どこかで雑用でもやっていた方が安全で確実に稼げるんじゃないかな。
「……」
少年の目は退かないという意志の強さを宿していた。
澄みきった瞳。そんな少年を見ていられなくて顔を逸らした。
どうしても手を離してくれる気はなさそうだ。ため息を吐く。面倒だけどこのままこうしていても時間の無駄にしかならないだろう。
「……わかった。話を聞くよ」
顔を逸らしていたので少年がどんな顔をしていたのかはわからなかった。
※ ※ ※
少年、ハドリーには身寄りがない。
彼はたった一人で生きてきた。力のない子供が生きるなんて想像できないほどの苦労があったのだろう。知らんけど。
そんな彼はお金が必要だった。まともに働いてはなかなか稼げないような額らしい。
身分を保障できないような奴が稼ごうと思えば冒険者しかない。そう考えたハドリーはなんとか冒険者になれないかと行動していたのだ。
「お金が必要って、借金でもあるの?」
「そんなことはどうでもいいだろ」
不機嫌になるハドリー。そこは教えてくれないんだ。
「とにかく俺一人じゃ冒険者にもなれないんだ。どこかのパーティーに入れれば俺だって冒険者になれる。だから俺を姉ちゃんのパーティーに入れてくれ!」
「嫌だよ。どこもそうだと思うけど力のない奴を守ってやる余裕はないし、依頼でもないのならキミみたいな子供を入れたくはないと思うよ。働けない奴に分け前をやりたくないってちょっと考えればわかるでしょ」
「ぐ……」
彼は悔しげに唇を噛みしめた。
力がない、思い通りにならないことにもどかしさを感じる気持ちはわからなくはない。
でも人にはその人なりの身の丈というものがある。やりたいからやれるわけではないのだ。選択肢はいつだって自分ができることの中からしか選べない。
それに言っては悪いが、この子をパーティーに入れるだなんて子守と何も変わらない。戦えるようになるまで鍛えてくださいというのは都合の良い話だ。冒険者に研修期間なんて存在しないのである。
「それでも……それでも俺は冒険者になりたいんだっ。強くなりたいんだよ!」
ハドリーから睨みつけるかのような眼光を受ける。
どうして諦められないのだろうか。いや、これは聞き分けがないだけか。
自分にはこれしかない、というのは子供の思い込みだ。実際はその人にとっての唯一のものがあるって方が少ない。そういうことを教えてくれる大人は彼の近くにはいないのだろう。
わたしがここで断ったところで彼にとっては何も変わらない。相手を変えて同じことの繰り返しだ。
彼は一歩も進まないまま。そうして終わっていくのだろうかと思った。
「じゃあ、わたしがキミを試験してやろう」
下手な同情なんかじゃない。ただわからせてやる。それだけだ。
「わたしが受けた依頼、最後までついて来られたらパーティーにでも何でも入れてあげるよ」




