第63話 オーガを討伐せよ
急増したオーガの討伐。それがわたしが受けた依頼である。
オーガの見た目は人間の大男と呼ぶのが一番近いだろうか。肌の色が薄ピンクだったり、目が理性を失ったかのように真っ赤である。瞳孔はどこに行ったのかと聞きたくなるレベル。まさに鬼といった感じだ。
それでも魔物の中では比較的人間に近い外見である。聞いた話ではあるのだけど、人喰いという禁忌を犯した者がオーガになってしまった。なんて説があるらしい。あまりにも昔からいる魔物なので真偽は定かではないみたい。
怖い話だ。そう言うだけあってオーガの主食は人である。
他にも動物や魔物を食べたりはするらしいのだけど、今回いきなり数が増えたということは人を食べたからなのだろう。
ただ近隣の村や町からは被害が出たという報告は聞いていない。山に迷い込んでしまった旅人や冒険者がやられてしまったのだろうか?
どちらにせよ早くなんとかしなければならない。放置する選択は被害を拡大させることと同義だ。
「とはいえ……、あの数をどうしたもんかな」
目的の山よりもさらに高い位置。ふよふよと空に浮いて見下ろしていた。
魔力で視覚を強化した視線の先にいるのはオーガだ。一体や二体でないのは最初からわかっているつもりだったけど、ぎっしりと表したくなるほどたくさんの数が密集していた。
何あの筋肉ダルマの集団は。理性皆無な大男の集団というだけで危険じゃないだろうか。相手は魔物だからそりゃそうなんだけどさ。
ゴブリンのように洞窟にでもこもってくれるのなら煙玉で無力化は簡単なのにな。オーガはその巨体のせいなのか洞窟などに入ったりせずに外で生活している。
「煙玉はしびれと眠り効果があるものだけ。ポーションは今日もらった魔力を回復させるものと傷を癒すものが少々。あとは火の魔石か」
鞄の中身を確認して、自分の引き出しと相談する。
「さて、やりますか」
ゆっくりと降下していく。オーガどもには気づかれてはいない。
罠を張るためにゴーレムを作り出す。
わたしの指先とゴーレムを細い魔力の糸が繋いでいる。これでリアルタイムで命令を下せるようになっている。
本来魔法で簡易的に作ったゴーレムというのはとても大ざっぱなものなのだ。それをこの魔力の糸で繋ぐことによって繊細な動きを可能にしている。強度も保っていられるしいいことづくめだ。
まあいいことばかりじゃなくてその分魔力の消費が激しくなってしまうのだけど。今はあまり問題にならないかな。
指先を動かして操作していく。精神力を削られるほどには難しい。でもわたしにはできてしまう。
よしできた。あとは誘導すればいいだけだ。
オーガ連中の前に躍り出るゴーレム。狂気じみた顔で一斉に同じ方向を向くと怖いな。
「うわっ……」
雄たけびとともにゴーレムへと突進していくオーガ。回避行動をとったはずなのに、囲まれて一気に袋叩きにされてしまった。
思ったよりもあの連中速くて強いぞ。それなりの強度を持っているゴーレムをあっという間に粉々にしてしまった。
前に討伐したことのあるオーガは単体ということもあってかそれほどの脅威は感じなかったのに。なんかこいつらは別物みたいだ。
人でも個人差があるように、オーガにもそういう個体差があるということなのか? それにしてもレベルが違う。
そんな連中が群れている。ちょっとまずいかもしれない。
なんて無駄に思考していたのが悪かったのか。一体のオーガが空に居るわたしを指差して何か吼えている。
知性はない魔物だからこうやって空にいれば気づかれないと思ったのに。よく見るとわたしを指差すオーガは他のと比べてサイズが大きかった。もしかして群れのボスか?
そういえば注意事項にあったな。魔物には稀にロードとかいう群れのボスが生まれることがあるとか。
ロードは能力が高く、他にも群れを統率したり強くしたりと厄介な存在なのだそうだ。
どれくらい厄介かと言えば、ロードなら駆け出し冒険者でも倒せるゴブリンですら脅威になりえるほどの群れにできてしまう。オーガならもっと危険だ。
それにしてもロードなんて滅多に遭遇できるもんじゃない。存在自体が稀なのだ。実際ロードに遭遇するのは初めてだったりする。
「とっ!? うわっとぉっ!」
風魔法が飛んできた。オーガは肉体任せの攻撃ばかりで魔法なんて使えないはず。
いや、オーガロードだ。ロードは魔法まで使えるのか。
さらに何やら指示を出している。その指示がなんなのかすぐに知ることとなる。
十体以上のオーガが弓矢を構えた。そんなもん扱える知性なんてなかったでしょうにっ。これもロードの力とでも言うのか。
怪力から放たれる矢の速度は風を切り裂くかのようだ。真横を通り抜けた風切り音に背中がぞわりとした。
矢は何本も放たれる。このままじゃいい的だ。
石の弾丸で反撃してみるものの、勢いで負けている。しかも弓矢での攻撃だけでなく魔法も飛んでくる。
堪らず地上へと着地する。
オーガどもとは少し距離がある場所へと着地した。向こうもすぐに追ってくるだろう。もたもたしてられない。
ロードがいるからってなんであんなに強くなってるんだよ! 一般的なオーガなら間違えさえしなければ苦戦することなく全滅させられるはずだったのに。
いつもながらの想定の甘さに舌打ちする。
木々の間から矢が飛んできたのを土の壁を出して防ぐ。狙いが正確だな畜生めっ。
身体能力を強化して走る。魔法の出し惜しみはしない。牽制として数体のゴーレムを向かわせる。
すぐにやられるだろうが少しでも時間稼ぎにはなるだろう。その間にも走る。
木々が揺れる、揺れる。散開してわたしを囲みにかかっているのだろう。途中でゴーレムを破壊したであろう大きな音が耳に届いた。
一塊の集団でいてくれるのがありがたかったのにな。
「グオオオオオオオオオッ!」
オーガが木々の間から飛び出してきた。飛び出した早々に石の弾丸を雨あられと撃ちまくる。
無詠唱なら不意打ちにだって対応できる。まあ今のは気づいていたけども。
倒したのは一体だけ。一体倒すのに石の弾丸では何発も撃ち込まなければならない。屈強で巨体というのはそれだけで厄介だ。
「来るか?」
気配が近い。今度は複数でかかってくるはずだ。
接近戦では丸太のように太い腕から繰り出すこん棒攻撃がある。単調だけど、あの怪力はバカにできない。一発でも当たればそれだけで終わってしまう。
しかもロードの存在でこん棒を振り回すだけとは限らなくなっている。
大気の揺れを感じてエアカッターを繰り出す。同じくこっちに向かってきていたエアカッターと相殺された。
「ロードか!?」
「グケケケケケケケ」
笑い方怖いな。
のっそりと現れたのは他のオーガと比べても大きいオーガロードだった。普通のオーガが三メートル前後に対して、ロードは五メートルは超えているように見える。確かにこの巨体では洞窟では生活できない。
それに特別感を出しているのか、オーガロードは鎧を身につけていた。よく体に合った鎧を見つけたもんだ。ちなみに他のオーガは腰布だけである。ハレンチですね。
「グケケケケケケケ」
まだ笑っている。愉悦に満ちた表情だ。ダメな方向で知性を獲得しているらしい。
笑っているうちに巨大な岩を無詠唱で生み出す。
「そのまま笑いながら死ね」
固定化をかけて回転させる。重量のある岩をオーガロードに向かって放った。
「グケ?」
そんな発音が怪しい口でどうやって詠唱しているかは知らないが、魔法が使えるといっても詠唱が必要なことに変わりはないようだ。
魔法を使わせる暇を与えず倒す。ロードが倒されれば統率を失い他の個体は弱体化するはずだ。
「グキャアアアアアアアッ!!」
ロードが叫ぶと他のオーガが動く。
奴等は自分の身など知らないとばかりに肉壁となる。放たれた岩を前にしても動じず、潰され肉塊となっても壁であり続けた。
それでも回転のかかった岩は止まらない。だが勢いは落ちていたのだろう。ロードは間一髪で避けた。
「やばっ」
魔法を放って硬直してしまっているところに弓矢の反撃がきた。地面を転がりなんとか回避する。
体勢を立て直して立ち上がると、同じく立ち上がったオーガロードが憎々しげにわたしを見下ろしていた。
これは……、怒らせてしまったかもしれんね。




