第41話 トップ争い
いくらディジーに向かって石の弾丸を放っても、直前になって消えてしまう。
これじゃあいくら攻撃したところでかすりすらしない。これってなんのチートだよ!
さっきまでのディスペルとは違う。たぶんディジーから数メートルの範囲に入った魔法は強制的に解除されてしまうのだろう。
「――エリアディスペル」
何度攻撃したかわからなくなってきた。こっちの魔法が全部無効化されてしまうんじゃあジリ貧だ。
「満足したかい。そろそろいいかな?」
「はぁはぁ……、いいわけないんだけど」
でもさすがに疲れてきた。固定化はけっこうな魔力を使うからなぁ。だからって固定化をかけない石の弾丸はまったく無駄だろう。
ディジーの二、三メートルくらいか。そこまで石の弾丸が迫れるのは固定化のおかげだろう。少しでも魔法解除の効果を遅らせているはずだ。
でも一回で何十個もの石の弾丸を作り出しているのだ。同じくらいの数に固定化をかけている。そりゃあ魔力も喰うか。
わたしが止まったのを見計らって、ディジーが動いた。
「ファイアボール」
火の玉が襲ってくる。
とても巨大な火の玉だ。わたしの体をすっぽりと覆ってしまえるほどの大きさ。これ本当にファイアボールなの?
急いでサイドステップをしてかわす。かわした先には五本の炎の矢が迫っていた。
「いっ!?」
びっくりして喉の奥から変な音が漏れた。
反射的に土壁を作った。固定化をかけていたため壊されることはなかったものの、魔力の消費が激しくなってしまった。
「――ディスペル」
と、安心している暇はなかった。土壁がディジーのディスペルで消失する。
続けざまに巨大なファイアボールが放たれた。次から次へと休む間がない。
かわした先にはフレイムアローが放たれているだろう。守りの魔法はディスペルによって剥がされていく。
だったら攻めるしかない! 作戦続行。ディスペルが使えなくなるくらい魔法を叩きこんでやるのだ。
杖に魔力を集中。魔力で形作るのは剣だ。
「たりゃあっ!」
わたしは杖を剣のように振るった。
剣の形をした魔力の塊はディジーのファイアボールとぶつかった。そして火の玉を斬ってみせた。
「それは……ブレイドの魔法かい?」
「そうだよ。この魔法の剣でファイアボールを斬らせてもらった」
「マジックブレイクとは違うように見えたけど。そのブレイドにどんな魔法をかけたんだい?」
興味津々といった感じのディジーである。彼女には悪いがこのブレイドに追加の魔法はなかったりする。
「何も。わたしは魔法を斬れちゃったりするんだよねー」
余裕の表情を作ってやる。
これで動揺してくれたらありがたいんだけど、そういうわけにもいかなそうだ。むしろディジーは嬉しそうに笑っている。
「ふふっ。本当におもしろいね。ブレイドなんて魔道士を志している者が使う魔法じゃないだろうに。それをこんな実践レベルまで使いこなせるとはね。これには驚かされたよ」
「驚きついでにこのまま大人しく斬られてくれたらありがたいんだけど?」
「冗談。勝負はここからだろう。――ファイアボール」
ディジーはもう一度ファイアボールを放ってきた。
わたしは構え、呼吸と間合いを測って杖を振り抜いた。
火の玉は真っ二つになり、左右へと分かれ後方で爆散した。
おおっ、うまくいってるな。これでまぐれじゃないって証明できただろう。
ダテにウィリアムくんの剣の修行を見ていたわけじゃないのだ。
彼に感化されてわたしもベドスから剣を習っていたのだ。魔法ほど一生懸命ではなかったものの、ある程度の魔法ならぶった斬ってみせよう!
わたしは駆け出した。ディジーに向かって一直線だ。
「ファイアボール」
再び火の玉が飛んでくる。しかしこうまっすぐなら斬りやすい。
「――ディスペル」
「げっ!?」
杖に集中していた魔力の塊が霧散する。ブレイドが消滅させられたのだ。防ぐものがない状態でファイアボールが迫る!
「……なんちゃって、ね!」
わたしは空いた左手を振るった。その軌道に合わせてファイアボールが切断される。
「何っ!?」
ディジーが驚きの声を上げる。意表を突けたことにわたしは口角を上げる。
ブレイド自体は下位レベルの魔法だ。それに四大属性と違って生成するものがない。あくまで魔力を剣に見立てて硬質化しているだけなのだ。
だから発動はとてつもなく速い。詠唱があっても発動の速さは魔法の中でもトップクラスなのだ。
あらかじめ杖を持った右手と、何も持っていない左手にブレイドを作っていた。片方がディスペルで消されたとしても、もう片方のブレイドで対応する。さらにもう一方が消されてしまう時間があれば新たなブレイドは完成できる。
二刀流で参る! わたしはディジーに接近した。
「だったら、――エリアディスペ……」
「そんな暇は与えないよ!」
左手のブレイドに魔力を注ぐ。すると魔法の剣は長さを変えてディジーを貫こうと伸びていく。
如意棒みたいだね。わたしがこれを思いついた時の感想である。
ただの伸び縮みになんの意味があるのかと思ったけど、こうしてみるとすごい役立つ。この間合いを潰せるのは大きい。詠唱が必要な相手なら、敵との間合いが大事だからだ。
危機察知したディジーは横っ飛びで伸びてきたブレイドをかわした。
でも開幕での跳躍よりも明らかにスピードが落ちている。
もしかして、範囲魔法であるエリアディスペルは相手だけじゃなく自分の魔法も消してしまうんじゃないか? だから身体能力向上の魔法もいっしょに切れてしまったと。
だったらなおさら接近すべきだ。エリアディスペルの範囲がディジーだけじゃなく、わたしにとっての安全圏になるだろうから。
伸ばしたブレイドでディジーの逃げ道を限定していく。逃げる先に向かって走れば距離を縮められるはずだ。
「これはなかなかっ。――ヴォルフ」
強風を起こしてわたしを吹き飛ばそうとしてきた。なんのこれしき!
わたしは無詠唱でムーブを発動させる。わたし自身を風に逆らって強制的にディジーへと移動させる。
ついに、魔法の剣の間合いに入った。
「ここまでだ。てぇいっ!」
左手のブレイドを横向きに振る。それをバックステップでかわされた。すかさず右手の伸ばした方で突きを繰り出す。
これは当たる。そう思った時、ディジーは杖を振るった。
「――ブレイド」
ディジーの魔法の剣がわたしのブレイドを弾いた。ガキィンッ! と金属音のような音が響いた。
「せっかくだし、ボクも剣士の真似事をさせてもらうよ」
ディジーが突進してくる。身体能力を強化したのか速くなっている。
ブレイドが振るわれる。両手の魔法の剣で受け止めるが衝撃が強い。すぐに反撃というわけにはいかなかった。
でもこっちは二本だ。反撃するチャンスはある。
苛烈なディジーの攻め。わたしの方が動きのスピードで劣っているため先手を奪われる展開だ。
しかしいくらか打ち合ってみて、わたしの方が剣術が上なのだということがわかった。
ディジーは魔法使いタイプだ。というか魔道学校の生徒なんてほとんどみんなそうだろう。わたしのように剣術を習っていた人の方が少ないはずだ。
その技術の差が出る。
ブレイドはマイナーな魔法だ。大抵の魔法使いは使わないし、それはディジーも同様だろう。
攻撃を受けるのではなくいなしていく。攻めているディジーの態勢がだんだんと崩れていった。
チャンスを待って、待って、待ち続け、そしてそれは訪れた。
鋭い突きを勢いを殺さないままかわした。ディジーの態勢が前傾に伸びていく。
ここから反応するのは難しい。わたしはディジーの体に合わせて腕を振った。
勝った。ここからわたしのブレイドをかわすなんてできないはずだ。下位魔法といえどもこれほど完璧に直撃すれば魔障壁を破壊できるだろう。
だから、手ごたえがないままディジーが消えたことに、わたしは固まってしまった。
あれ? ディジーはどこ行った? 倒したのか? でも感触がなかったような……?
頭の中が疑問符で埋め尽くされる。硬直してしまったのは仕方がないだろう。
「――ヴァレーヒ」
だから反応できたのはちょっと奇跡じみていた。
ぞくりとした瞬間、咄嗟にバックステップしながらいくつも土壁を作っていく。すごい勢いで炎のドラゴンがわたしに向かってきていた。
な、なんじゃこりゃああああぁぁぁぁーーっ!?
ものすごく驚いた。ていうか怖かった。なんでわざわざドラゴンの形をしてるのさ!?
恐怖心を振り払うように防御壁を作りまくる。最終的には水と土属性を混合させた泥の波で相殺させた。
無我夢中で大きな波を出してしまった。限界を超えたのか水属性の魔法が上位レベルに到達したみたい。まさかの戦闘中でのレベルアップ。
「これも通用しないとは。火属性の上位魔法だったんだけどね」
上空から声が降ってきた。見上げればディジーが空に浮いていた。
「飛行魔法か。ディジーはわたしにできない魔法をどんどん使ってくるなぁ」
「エルだってすぐに使えるようになるさ。それくらいの能力はあると見た」
「そりゃどうも」
できるようにはがんばってはいるんだけどなぁ。今後に期待しようかな。
さっきの接近戦、最後に隙を見せたのはわざとだったのか。わたしのカウンターよりも早く空へ逃げるなんて、最初からそのつもりじゃないと間に合わない。
彼女の手のひらの上だったのかな。そう思うとちょっと厳しい。
「さあエル。ここからが本番だ。そろそろキミの本気を見せてくれ」
いやいや、今までのが全力ですよ。それどころか実力以上を出したって言っていいくらいなんですが。ここからひねり出そうとしても何も出てきませんよー。
わたしの苦笑いにディジーがはてと首をかしげる。
「ふむ、イマイチ伝わっていないように見えるけれど……。ああそうか」
ディジーは杖でぺちりととんがり帽子を叩く。何その「やっちゃった☆」みたいな仕草は。
「そういえばボクはまだキミに見せていなかったね。出ておいで」
何を、と聞く前にそれは現れた。
ディジーの隣に炎が吹き荒れる。それが消し飛んだかと思えば、そこにいたのは手のひらサイズであろう人型の何かだった。
いや、何かじゃないな。一目見て理解できてしまった。
真っ赤な髪は燃えているように逆立っており、ビキニのような薄着。その目はギラギラと光っているような眼力があった。
なんというかファンキーな感じ? ちょっと違うのかな。よくわからない見た目だけど、それが何かはわかっていた。
「ボクが契約している炎の精霊。名前はフレイだ。よろしくね」
それは間違いなく、アウスと同じ大精霊だった。




