第39話 人から応援されるということ
「これでよし、なの」
「ありがとアウス」
対校戦の準決勝が終わってからの夜。わたしは学校の敷地内の端っこでアウスに体を診てもらっていた。
わざわざ外に出たのはアウスの提案だからだ。精霊だし自然が感じられる場所の方が力を発揮できるのだろう。
実際に体の不調は綺麗さっぱりなくなった。魔法の発動だって問題なくできる。
「結局なんで体調が悪かったんだろう?」
「さあ?」
「さあって……、わたしの体を確認したんじゃないの?」
「表面はわかっても内面までわかるわけじゃないの。あーしにはニンゲンの心なんてわからないの」
「そっすか」
まあこの通り体調もよくなったんだし細かいことは気にしないでおこう。明日の決勝戦が万全の状態で戦えるのなら問題はない。
そう、ついに決勝戦だ。泣いても笑っても明日が最後の戦いなのだ。
決勝戦の相手はディジーだった。予想通りと言えばその通り。ある程度試合を見させてもらったけど、やはり彼女は別格だ。
ここまでディジーのディスペルに抗えた相手はいなかった。そりゃそうだ。魔法使いが魔法を無効化されてしまっては勝ち目なんてあるわけがない。
勝つためにはディスペルの対処が不可欠だ。けれど、未だに対抗手段が見出せずにいた。
一般的な弱点を上げるのなら、ディスペルは上位レベルの詠唱の長さと、上位レベル以上の魔力量が必要な点である。
だけどディジーの場合は無詠唱とそん色ないほどの高速詠唱がある。魔力だって少なくともここまでの戦いで魔力切れを起こすことはなかった。
つまり弱点が弱点となっていないのだ。先生にアドバイスを求めてもお手上げ状態である。
「何をそんなに難しい顔をしているの。すぐにしわだらけになっちゃうの」
「な、なんてこと言うのさ!」
アウスがわたしの顔を覗き込みながら言った。乙女に言っちゃあいけないことだけどなっ。
「ニンゲンはすぐに寿命で死んでしまうの。ただでさえ短命なのにそんな顔してたらすぐに寿命がきてしまうの」
「むぅ。アウスにとっては人間なんてあっという間におじいちゃんおばあちゃんになっちゃうんだろうけどさ。というかアウスって何歳なの?」
「覚えてないの」
あ、これ本当に長生きしてる人のセリフだ。……人じゃないか。
精霊なんていつ生まれたかなんてわからない。下手をすれば世界が始まってからずっと存在し続けているのかもしれなかった。
うん。わたしが理解できる存在じゃないね。
答えが出ないことを考えたって仕方がない。わたしが今考えなきゃいけないのは明日の決勝戦のことだ。
「……ちょっとディジーとどう戦おうかって悩んでたんだよ。どうしてもディスペルが厄介だからさ」
「それくらいの魔法ならあーしには問題にならないの。あーしの力を使えば悩む必要なんてないの」
「それはなんと言うか。アウスの力を借りるのは反則みたいなもんでしょ」
「よくわからないの。勝てるのなら最善の手を打つのは当然なの」
ごもっとも。でもこれは対校戦。試合なのだ。いくら相手が強かろうと同じ土俵でやらなきゃ意味がない。
「それに、エルにはあいつに負けてほしくないの」
「あいつってディジーのこと?」
アウスは眠たげな目のまま頷いた。
「エルにはあいつに勝ってほしいの。そのための手助けならあーしは惜しまないの」
アウスにしては珍しい。別に人間のイベントごとなんて興味ないですよー、ってのがいつものアウスのスタンスなのに。
ディジーとは初めて出会った時から敵意があった。今まででアウスがあそこまでの警戒を見せたのは彼女だけだ。
彼女の何を感じ取ったのかはわからないけれど、精霊っていっても人の好き嫌いとかあるのかもしれないし。あまり詮索しない方がいいだろうか。
わたし個人としてはディジーは悪い人ではないように見えたけど。いっしょに食事もした仲だしね。
王都でのお祭り騒ぎも明日で最後だろう。決勝戦、勝っても負けても正々堂々全力でぶつかってやろうじゃないか。
「さてと、体調も戻ったわけだし帰ろうか」
振り返って女子寮へと向かおうかとした時、前方から小枝を踏んだような乾いた音が聞こえた。
え、誰かいた?
咄嗟に身構えると、恐る恐るといった調子で一人の男子生徒が現れた。
「ルヴァイン先輩?」
現れたのは眼鏡が似合うルヴァイン先輩だった。
「いやその……すまない。後をつけるつもりはなかったのだが」
ちょっと申し訳なさそうにしているルヴァイン先輩だった。
この反応、アウスとのやり取りを見られた?
内心焦っていると、ルヴァイン先輩は明後日の方向に目を向けながら口を開いた。
「その…キミの独り言を他人に言ったりしないから安心してくれたまへ。約束する、本当だ」
「……」
そうでした。わたしみたいな精霊使いじゃないとアウスは見えないんだった。アウスってけっこうはっきり見えるもんだからたまにそのこと忘れちゃうんだよなぁ。
「あの……」
言い訳をしようとして、口をつぐんだ。
アウスのことは人には説明できないんだった。これはアルベルトさんから注意されたことの一つだ。忘れたりなんかしない。
でも、このままだとわたしが独り言をぶつぶつ言ってた変な人と思われてしまう。うーむ……。
「その、明日の戦略を考えてまして。それがちょっと口から洩れちゃってたみたいです」
半分本当で半分嘘。でもルヴァイン先輩とはそれなりの距離があったみたいだし、アウスとの会話の内容までは聞かれていないだろう。……だよね?
「あ、ああ。そうだったのか。僕としたことがエルが変になってしまったんじゃないかって心配してしまうだなんて。余計なお世話だった」
おおっ、ルヴァイン先輩が納得してくれたぞ。さすがは眼鏡、理解が速い! 褒めてあげるから変な子認定はやめてくださいね。
とりあえず誤解も解けたことだしよかろうなのだ。なのだったらなのだー。
でもなんか見られてたってのが恥ずかしいのでさっさと部屋に帰りたい。
とか思ってたらルヴァイン先輩は微笑みながら口を開いた。
「でも、エルはすごいな。僕だったらここまで戦えなかっただろう。いや、アルバートの誰もがそうだ」
「い、いやぁ……、わたしは貴族って言ってもド田舎出身ですからね。それなりに戦いの経験ってのがあるんですよ」
魔物と戦ったり、アルベルトさんやベドスに稽古をつけてもらったりとか。あとはバガンをぶっ飛ばしてたかな。
「それでもすごいさ。この短期間でエルに対する目が変わっていくよ。もちろん良い方にね」
これでもわたしはルヴァイン先輩の代わりに対抗戦に出場しているのだ。先輩が恥ずかしくなるような戦いはできない。それが代表者になったわたしの責任だと思っている。
なんだかこそばゆいなぁ……。
まあ先輩が褒めてくれるのならそれでよしとしましょうか。少なくともわたしはアルバートの名を背負っている自覚がある。だからみんなが褒めてくれるのならそれをまっとうできているという証明になるはずだ。
「ルヴァイン先輩」
「なんだ?」
「明日がんばりますので、しっかり応援よろしくお願いします」
「もちろんだとも。キミが勝とうが負けようが最後まで応援するよ」
「はい」
なんと言いますか、力ってのをもらえた気がした。
いくら応援したところで実際にやってるのは試合に出ている本人だ。だから応援なんてさほど意味を持つものではない。少なくとも前世ではそう思っていた。
だけど、胸の奥に湧き上がる感情。この強くなる感覚はルヴァイン先輩の言葉からもらったものだ。
人から応援されることってこういうことなんだ。前世では知らなかったことが今は知っていける。
顔が緩んでしまうのがわかってうつむいた。この表情を見られるのはちょっとばかしじゃないくらい恥ずかしい。
ルヴァイン先輩だけじゃなく、たくさんの人達が応援してくれる。その人達のためにも勝ちたい。できればではなく、絶対に。
「明日も試合があるのでこれで失礼しますね」
「ああ、おやすみエル」
「おやすみなさいルヴァイン先輩」
わたしは部屋へと戻った。ディジーの対抗策を考えるのだ。応援してくれる人達のために精一杯できることをやってやるのだ!
気が付いたら1000ポイント突破していました。とっても嬉しいです!
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