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根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?  作者: みずがめ
二章 魔道学校編

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第36話 シグルド先輩の…

 二回戦が終わって次の日は休息日となった。

 さすがに連戦はきついと判断されているのだろう。一晩寝ればわたしの魔力はバッチリ回復しているから問題ないって言えば問題はないんだけどね。

 試合がない日でも王都は盛り上がっているようである。寮にいても賑やかな音が聞こえてくる。音楽隊でも来てるのかな?

 気分転換に外に出ようか。それともゆっくり過ごすべきか。それが問題だ。


「んー……」


 ベッドの上で体を伸ばす。

 やっぱりごろごろしてるのも体に悪いか。「ほっ!」と掛け声をかけて跳ね起きる。ベッドに弾力があるからうまい具合に跳ねちゃうね。


「エルさんさすがね」

「うんうん、強くって惚れ惚れするわ」

「あなたこそアルバート魔道学校の誇りよ」


 自室を出て女子寮を歩いているとたくさんの女子生徒から声をかけられた。

 みんなが私を称えてくれる。前にわたしをいじめていた人からも笑顔で褒められた。……まあ、いいことだよね?

 気分転換をするために女子寮を出た。誰か誘って学外にでも出ようかな。

 わたしが誘えそうな人。ホリンくんとコーデリアさん。あとはルヴァイン先輩とかかな。シグルド先輩は……ちょっと違う気がする。

 相変わらずの交友関係の少なさである。代表者として戦ったおかげでアルバートの生徒からたくさん話しかけられるようになったけれど、プライベートでも仲良くできそうな人はこんなもんである。

 いやいや、これでもすごいことなのだ。友達作りが大変なのはこの世界に生れ落ちる前から知っていることではあるからね。心を許せる人がいるだけでも大層なことなのだ。

 そんなわけで人探しといきますか。

 コーデリアさんは女子寮だったかな。でも戻るのはなんか嫌なので学内を探索することにした。もしかしたら出かけているかもしれないし。


「あ、トーラ先生」

「ん? エル・シエルか」


 ばったりトーラ先生に出会ってしまう。いつもと変わらず寝起きのようなぼさぼさの髪だ。そう歳でもないはずなのに女としてどうなのだろうと心配になってしまう。わたしが心配するようなものでもないんだろうけど。

 正直、トーラ先生とはあんまり会いたくなかったなぁ……。

 前に王都でホリンくんと二人きりでいる現場を目撃してしまったのだ。

 教師と生徒の禁断の関係。そんなスキャンダル、わたしには荷が重いです。

 おかげでホリンくんと接するのにいらない緊張をしちゃってたんだ。彼は彼でいつも通りなので落ち着いたんだけど。

 だからって思うことがないわけじゃない。ルヴァイン先輩といっしょじゃなかったら今でも頭の中のわたしはごろごろ転がり続けていただろう。

 そんな悩みの種であるトーラ先生はわたしの気も知らないでゆっくりと口を開く。


「対校戦、順調なようではないか。我が校としては快挙だよ」

「は、はあ。どうも」


 すぐに離れてしまいたかったけど、これはちょっとした立ち話になりそうだ。

 トーラ先生はやる気のなさそうというか、面倒そうな顔をしていた。これが通常状態なのだろう。白衣を着ていなかったら治癒魔法のエキスパートだとは信じられないかもしれない。


「まあキミならやってくれると思っていたがね。これでも私は入学した時から目をつけていたのだしね」

「そうなんですか?」


 なんか意外だ。

 アルバートは生徒も先生も貴族ばっかりだ。そんな貴族の中でも最下級のわたしが結果を出してもみんな認めようとはしなかったものだ。

 自分よりも下の人間に劣っているのだとは思いたくないのだろう。それがここでは先生も含めてっていうのがタチが悪い。

 ホリンくんがわたしを助けてくれるまでは誰一人としてわたしを認めてはくれなかったから。今思い返してもホリンくんには感謝しかない。

 でも、トーラ先生は最初からわたしを認めてくれていたようだった。やっぱり貴族の人ってわけじゃないのかも。


「普通に考えて四大属性が扱え、それが無詠唱でとなれば評価しない理由はないのだがね。まあそれに関してはここに入学してしまったキミが悪い」


 悪いときましたか。もう苦笑いで返すしかない。

 それはお母さんに言ってほしいです。それに関してはわたしが選んだわけじゃないし。

 でも、もし学校を選べたとしたらわたしは別のところを選んでいただろうか?

 ……いや、そんなもしもは考えないでおこう。

 最初はいじめられたりもしたけれど、このアルバート魔道学校で友達ができたのだ。それでいいじゃないか。

 新しい魔法だって覚えた。それにわたしはまだ一年生。これからだって学生生活は続くのだ。

 だから、ここに来たことを悪かったなんて思わない。あとはわたしのがんばり次第だろう。


「わたしはここに入学したことを後悔なんてしてませんよ。それに、対校戦で結果を残せばわたしの力は評価してもらえますから」

「そうか。それならよかった。まあケガをしない程度にがんばってくれたまえ」

「はい」


 わたしの返事に対してトーラ先生は大きなあくびで返した。せめて手で覆うとかして隠せばいいのに。台無しだよ。


「これでも私はその対校戦のせいでとても忙しい目に遭っているのだ。明日に備えて休ませてもらうよ。キミも明日があるのだから早めに休んだ方がいいぞ」


 そう言ってトーラ先生はあくびを隠すことなく去って行った。

 昼間から寝る気か。いったい何時間寝るつもりなのやら。明日が試合とはいえ今から寝ようとは思わないよ。

 まあいいや。探索を再開しよう。

 あまり遅くまで学外を出歩きたくはないので早く見つけたいな。

 ホリンくんかコーデリアさんかルヴァイン先輩か。誰かには出会えるだろうと楽観的に考えていた。


「エルくん」


 そう考えていたからなのか、声をかけられた。うん、惜しい。

 声に振り向けばシグルド先輩が微笑みながら近づいてきていた。

 シグルド先輩と王都で遊ぶのはちょっと違う気がしてならない。なんだろうねこの心境は。偉い感じの先輩だからかな。ルヴァイン先輩とはまた別なのだ。


「奇遇だね。運命を感じてしまうよ」

「は、はあ……」


 また反応に困ることを言う人だ。たぶんこれ女子生徒のほとんどに言ってるんじゃないかな。なんだかシグルド先輩を見てきゃーきゃー言ってる人なんかは同じこと言われてそう。

 でも、先輩の調子は完全に戻ってるみたい。敗戦ショックは綺麗さっぱり消えたかな?

 とか思っていたら、シグルド先輩の表情が真剣なものへと変わっていた。


「エルくん。少し私に時間をもらえないか?」



  ※ ※ ※



 シグルド先輩のお誘いに頷くと、校舎内の一室に案内された。

 部屋の内装は白を基調としたものになっており、テーブルや椅子まで純白だった。まるでお茶会でもしそうなおしゃれな作りをしている。


「ここは私が気分を落ち着けたい時に利用しているのさ。後輩をつれてくるのは初めてだろうか」


 何そのプライベートルーム。ここって学校の建物ですよね? シグルド先輩の家じゃないですよね?

 こんな部屋を用意できるくらいの権力者のご子息ということだろうか。シグルド・マーレ、恐るべし。


「お茶の準備をしてくれ」


 そう言ったシグルド先輩がパチーンと指を鳴らした。マネしたくなるほどの見事な指鳴らしだった。試しにマネしてみる。何度やってもぺしぺしとかろうじて聞こえるかなというくらいの音量だ。うーむ、これは練習が必要だ。

 部屋の壁際に備え付けられたように立っていたメイドが一斉に動き出す。動くまで備品のようにスルーしていただけにびっくりしてしまった。


「エルくんはこちらへどうぞ」


 シグルド先輩は紳士に椅子を引いてくれた。恐縮しながらも座らせてもらう。

 先輩が対面に座ったところでお茶とクッキーのようなものが出てきた。メイドの仕事が早い。彼女達のプロフェッショナルぶりに感心させられる。

 しばらくお茶を楽しみながら他愛のない話をした。まさにお茶会って感じだった。まあお茶会なんてお上品なこと、今までしたことないんですけどねー。


「気に入ってくれて何よりだよ」

「はっ! す、すみません……」


 クッキーをパクパク食べていたらシグルド先輩に優しい口調で言われてしまった。女子として食い意地があると思われるのはマイナスだ。くっ、このクッキーが悪いんだ。すごくおいしいんだもん。


「謝る必要なんてないさ。エルくんを見ていると心が安らぐよ」


 甘い言葉ですな。食べ物と飲み物の次は言葉できますか。

 まあこれがシグルド先輩の通常運転だから仕方ないね。わたしも慣れてきたのだよ。

 とか考えながらお茶に口をつける。ちょっと甘めの紅茶だ。砂糖でも入っているのかな?

 カップを置いてシグルド先輩を見れば、真剣な眼差しがこっちを向いていた。

 一瞬息が詰まった。急に空気が変わった気がしたのだ。


「今日エルくんをここにつれてきたのは話があるからなんだ」

「話ですか?」

「そう、大事な話だよ」


 なんだろうこの胸騒ぎは? なんだかシグルド先輩がとんでもないことを言う前兆であるかのようだ。

 さっきまでの和やかさはどこへ行ったのか。わたしの胸がドキドキしてきた。緊張が体を包む。

 シグルド先輩はお茶を一口喉に流す。湿らせた唇で言葉を紡いだ。


「エルくん。私のものにならないか」



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