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根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?  作者: みずがめ
二章 魔道学校編

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第33話 ベスト8決定

 わたしは試合を終えてから控室へと戻った。


「エル、やるじゃねえか」

「さすがだよエルくん。やはり私の目に狂いはなかった」


 控室に入って早々ホリンくんとシグルド先輩に出迎えられる。そして両者が睨み合うまでがお約束。

 それを眺めていると気が抜けてきた。戦いが終わったんだって実感できたから。

 本当に疲れた。今までで一番苦戦したんじゃないかな。

 実力で負けているということはなかったけれど、手の内をさらさなければ勝てなかっただろう。


「ていうかよく結果知ってたね。ずっとここにいたんじゃないの?」


 控室にいたはずの二人がわたしの勝利を知っていたことに疑問を覚える。するとホリンくんがくいっと親指を向けた先にさっきまでわたしが戦っていた会場の風景が映し出されていた。


「魔道映写機だ。これでお前の試合を観てたんだ」


 魔道映写機は他に設置されたカメラみたいなものに写した映像を離れた場所からでも見られるようにする魔道具だ。これけっこうな高級品だったりするんだよね。

 もちろんそれはアルバートの控室にだけって話ではない。他の学校の控室にも同じ物が置いてあるだろう。

 つまり、本当に手の内がバレバレになったってわけだ。


「マジかー……」


 これから当たる相手には対策立てられちゃうかも。なんてこったい。

 あれ以上の苦戦を強いられるかもしれないと考えるだけで憂鬱になりそうだ。


「何うなだれてんだよ。勝ったんだからもっと喜べって」

「う、うん。わーい……」


 素直に喜べないなぁ。これから先が思いやられるよ。


「すごかったよエルさん」

「強いのね。私達もがんばらなくちゃ」

「まずは一勝してアルバートの面目は保たれたかな」


 でも、控室にいた他の代表者の人もわたしを褒めてくれた。これはちょっと嬉しいかも。

 これから戦う先輩達に勇気を与えられたのならよかった。これだけでもわたしが勝ったということに意味があるのだと思えた。


「俺もエルに続かねえとな。一回戦くらい突破してやるぜ」

「うん、がんばってね」


 トーラ先生のためにも、と続けようとして口をつぐんだ。おっと、これは秘密だったのだ。

 それにわたしの気持ち的にはトーラ先生よりもコーデリアさんを応援してあげたい。同級生のよしみとしてじゃなく彼女が良い子だからだ。トーラ先生は……よくわかんないし。


「私も精一杯力を尽くすよ。エルくんにはぜひとも応援してもらいたいものだね」


 シグルド先輩はわたしの手を取ってうやうやしい感じに言った。相変わらずキザなセリフが似合うお方である。こういうのナチュラルにやってんのかな。


「おい、勝手にエルに触ってんじゃねえ!」

「おっと、乱暴だな」


 それを見たホリンくんが引き離す。だからケンカはやめてほしい。もう試合前だよ。


「やれやれ、これでは戦いの前に心を落ち着けることもできないではないか」


 そう思うのならちょっかいをかけるのをやめてほしい。絶対シグルド先輩ってホリンくんをおちょくってるよね。わたしにはそう感じられてならない。

 ホリンくんのこめかみがピクピクと震える。押さえて押さえて。

 ホリンくんがシグルド先輩が嫌いってのはわかるけれど今くらいは我慢してもらいたい。なんか見てるといつか暴力事件にでもなりそうで怖いのだ。やだよ暴力事件で出場停止ってのはさ。新聞沙汰になるじゃん。この世界には新聞はないか。


「それでは次の出場者の方はこちらへお願いします」


 そんな心配の前に次の試合が始まるようだった。別の意味で一安心だよ。


「じゃあ行ってくる」

「うん、がんばってねホリンくん」


 次はホリンくんの番だ。

 やっぱりこういうのは下から行かされるのか、一試合目はわたしで二試合目はホリンくんなのだ。とりあえず一年が先行けってことである。あくまでアルバート方式なので他の学校が同じようにしているかはわかんないけどね。

 それでいうなら最後のトリを飾るのはこの中で一番上の人物がなってるってことである。

 ちなみにそれはシグルド先輩である。よくは知らないけれどかなりの家柄らしいし、文句なしの人選なのだろう。アルバートは家柄大事だからね。

 わたしは魔道映写機の前に座る。シグルド先輩が自然な調子で隣へと座った。


「さて、二人でホリンの応援でもしてやろうじゃないか」

「は、はあ……」


 ナチュラルに肩を抱くのやめてくれませんかね。ちょっと対応に困っちゃうから。ぞわぞわするし。

 この人どういうつもりなんだろ? まさか本当にわたしに気でもあるのだろうか。うーん、最下級貴族と名高いシエル家ですよ? ちょっと考えづらいなぁ。

 むしろホリンくんと仲良くしているわたしにちょっかいをかけて彼の気を引こうとしているように思える。断言まではできないけどさ。

 でも、もしも本当の本当にシグルド先輩がわたしに気があるとして求婚でもされたら? それって断れないんじゃないだろうか。

 上級貴族の求婚をなんちゃって貴族のシエル家が断れるものではないだろう。そもそも両親は嬉々として受け入れそうだ。魔道学校に行かせてもらえたのだって結婚相手を見つけるためってのがあったりするからなぁ。

 うーむ、そんときゃそん時か。どうせ貴族なんて恋愛結婚自体が少ないんだろうし。お見合いとか珍しくないんじゃないかな。

 それに、元男のわたしが男性と恋愛できるかどうかはかなり微妙に思える。十五歳になっても未だに乙女チックなときめきなんぞ感じたことがない。それどころか前世でも恋人とか作ったこともない。へこむ。

 なんだか将来ってどうなるかわかんないなぁ。わたしって人生設計がまともに立てられてないのかも。

 シグルド先輩にいろいろと話しかけられたけれど、上の空でほとんど聞いちゃいなかった。


「うわっ!」


 なんて上の空になってる場合じゃなかった。映像の中ではホリンくんが盛大にやられていた。あまりのやられっぷりにびっくりした声を出してしまった。

 魔法のパワーでは負けていなかったようだったけど、立ち回りがよくなかったみたい。バトルロイヤル方式の難しいところである。

 そんなわけでホリンくんが控室に転移されてきた。


「くそっ!!」


 転移してきたと思えば壁を殴りつけた。ドゴォンッ! とシャレにならない音がした。あ、壁にヒビが入ってる。魔法使いの力じゃなくないっすかね。

 それでも無傷の姿を確認したらほっとした。魔石の力でケガをしないようにしているとはいえ、実際に無事な姿を見るまでは心配だったのだ。


「ホリンくん、その……どんまい」


 こんな時どう声をかければいいんだろうか。人付き合いの薄さが恨めしい。


「……ああ」


 うわぁ……落ちてる。

 友達なのにまともに慰められもしない。なんかショック。

 視線を合わせるのですら申し訳ない気持ちが湧き上がってくる。わたしって無力。


「あ、何エルの肩に手なんか回してんだよ!」


 気まずいかなぁとか思ってたらホリンくんの調子が戻った。

 負けたショックなんて忘れたかのようにシグルド先輩に食って掛かる。

 なんだかいつも通りになってくれて安心した。二人は仲が悪いのかもしれないけど、こういう関係もあった方がいいのかもね。


 それから次々と試合は進んでいった。


「私の出番だね。エルくん行ってくるよ」

「はい、いってらっしゃい」


 そうして本日最後の試合となった。魔道映写機の映像にシグルド先輩の姿が入る。

 そして、そこにはもう一人わたしの知る人物の姿があった。

 カラスティア代表のディジーだ。アウスが警戒しているくらいの要注意人物である。

 接してみた限りじゃあ悪い人には見えなかった。単純に実力が高いのだろう。

 それはこの試合ではっきりすることとなる。


「なんだあいつは……」


 思わずといった感じでホリンくんが呟いた。

 映像を見つめるわたしも同じ感想だ。映し出されている会場では戦いが繰り広げられている。いや、戦いにはなっていなかった。

 ディジーは圧倒的だった。

 誰もが彼女に魔法を放ったとしても届かない。相殺されているのではなく、魔法自体を無効化されているのだ。

 ディスペルという解除魔法がある。魔法を撃ち消す力を持った魔法だ。

 わたしがゴーレムに付与させたマジックブレイクとはちょっと違う。マジックブレイクは外側から魔法を壊す。けれど、ディスペルは魔法の内側からかき消してしまうのだ。

 簡単に言えばディスペルの方が対処法がないのだ。人間だって殴られるのには耐えられるかもしれないが、内臓を握られたらたまったもんじゃない。そういうことだ。

 それほどに優秀な魔法でも使い手は本当に少ない。それだけ高等魔法であり、一回使うだけでも相当の魔力を使うはずなのだ。

 それをディジーは三人を全滅させるまで使い続けた。マナ保有量がとんでもなく多いということだろう。少なくとも並の魔道士ではあそこまで連発できるものではなかったはずだ。

 シグルド先輩もがんばったけれど魔法を使った瞬間にはかき消されてしまうのだ。魔法使いにとってこれはどうしようもない。

 そんなわけで、ディジーは苦戦する姿を見せることなく一回戦を突破したのであった。


「……」


 シグルド先輩は転移してきてからすごく落ち込んでいた。あれはしょうがないと慰めたところで気分が晴れるものではないだろう。それほどの圧倒的な敗北だった。

 いっつも優雅な態度を崩さなかった彼の落ち込んだ姿は見てられなかった。どうにかしなければという気持ちだけで口を開く。


「あの、元気出してください」

「エルくん……」

「シグルド先輩ががんばってたのはちゃんと見てましたから。きっと学校のみんなだってわかってますよ」

「……ふっ、格好の悪い姿を見せてしまったようだね」


 シグルド先輩は前髪をぱさぁと払った。無理してるのはモロバレだったけれど、今はそれでも充分だろう。

 なんだかんだで男の子だ。かっこつけるのも男の意地なのだろうな。

 わたしにできることはない。そっとしておいて、あとはシグルド先輩がまた元気になるのを待つしかない。


 こうして第一回戦の試合がすべて終わった。

 ベスト8が出そろった。二回戦は明日行われる。

 勝ち残った人はみんな相当の実力者だ。二回戦から一対一になるとはいえ気を抜けないことには変わりない。

 ベスト8。アルバート魔道学校で残ったのはわたし一人だけとなっていた。



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