第13話 兄妹は不仲
「お父さんお母さん。わたし、魔道学校に行きたいのです」
「そうかそうか。いいんじゃないか」
「そうね。しっかり玉の輿を捕まえてくるのよ」
「……」
こんな感じで、魔道学校に行くことをあっさり了承されてしまった。
もっとこう、反対されると思っていただけに拍子抜けである。
いや、お母さんが口にしたように婿探しがメインに思ってるんじゃないか? 親のことをどうこう言いたくはないけれど、それってどうなのよ。学校行くって言ってんだから勉学に励めとか、そういうお言葉を口にするもんなんじゃないの?
まあいい。わたしの目的は達成されようとしているのだ。ここで文句を言うのは違うだろう。
「最近は領地が豊かになっているからな。だから学費も心配いらないぞ。まあワシの手腕がようやく実を結んだのだろう。わっはっは」
「さすがだわあなた。あとはエルが伯爵あたりの息子とくっついてくれれば言うことなしね」
自分の両親ながらすごいな。というかお父さん何かしてましたっけ?
それに誰かとくっつけと言われてもなぁ。前世の性別が違っているせいもあるんだろうけど、異性に対して恋とかそういう感情は湧かないんだよね。まだ早いってことなんだろうけど。
「い、いやぁ。学校なのですからまずはしっかり勉学に励もうと思います」
わたし優等生だな。
でも前世と違って勉強をしっかりやろうって気持ちが強い。アルベルトさんの言葉も大きいけれど、それでももっと自分ができることを増やしたいって気持ちも大きいのだ。
「大丈夫よ。エルは天才なんだから勉強なんてがんばらなくても男は寄って来るわ」
お母さん、男から離れてくれませんか。
ダメだ。学校をただの見合いの場くらいにしか思ってない。
なんて親なのだろうか。シエル家が最下級の貴族ってのが納得できちゃうぜ。
それにこんな調子だとわたしがいなくなった後の領地が心配である。ウィリアムくんや他の領民のことがけっこう好きなのだ。わたしがいなくなっても困らないようにはしておきたい。
学校へ通うための問題は大方片付いた。あとは十五歳になるまでにやるべきことをやっておこう。
※ ※ ※
「あ、ラルフ兄さん」
「ああ……」
家の中を歩いていると長男であるラルフに出くわした。
わたしは六人兄妹である。兄が二人、姉が二人、あと弟が一人いる。
貧しいのになんでこう子供はたくさん作っちゃうのかね。まあ前世でも貧乏なのに大家族ってのはあったけどさ。
そんでこのラルフはわたしよりも十歳上の長男にあたる。ちなみにシエル家の子供でわたし以外で魔法が使えるのはこのラルフと次女だけである。
両親がどちらも魔法が使えたとしても、必ず子供全員が同じく魔法が使えるというわけでもないらしい。遺伝が関係しているかは調べないとわからないだろう。
「……」
「あっ、待ってよ」
「……何?」
無言でどこかへ行こうとするので呼びとめる。ラルフは返事をしたもののわたしを見る目は面倒そうであった。
か、感じ悪い……。まあ兄弟と言ってもわたし達はそんなに仲良くはなかったりする。
六人兄妹でありながら、わたしはその誰とも仲良くできなかった。それは今でも変わらない。
もともとわたしが魔法の練習を外でやっていたのも、兄妹間での不仲が原因だったりする。
空気が悪くて居心地が悪かったのだ。それで逃げるようにわたしはあまり家にいなくなった。
わたし以外の兄妹の仲は悪くはないようだった。時折他の兄妹が仲良さそうにしているのを目にしたことがある。
結局、原因はわたしなのだ。
幼少から魔法が使えることもあり、わたしは両親からかわいがられてきた。それは明らかに他の兄妹との扱いの差があった。
劣等感。前世の『俺』が嫌になるほど味わってきた感情だ。
だからこそわかるのだ。身近に自分よりも圧倒的にできる奴ってのがいたとしたら。そういう経験を何度もしていただけに理解できる。
遠ざける。『俺』ならそうする。あいつは自分とは違う。別世界の住人だ。そうやって自分自身を守るのだ。決して同じ人間だとは認めない。
そうして、諦めるということを憶えていく。
ラルフの目は諦めている人の目だ。前世の『俺』と同じ目をしていた。
性格が根暗なところまでそっくりだ。もしかして『俺』の本当の生まれ変わりはこいつなんじゃないかってくらい似ている。
……なーんて振り返ってる場合じゃないな。共感をしてる場合でもない。
「あの、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」
「僕に?」
「そう、ラルフ兄さんに」
話をするためにラルフの部屋に入らせてもらう。どこの部屋もそうだけれど最低限の家具しか置いていない部屋だ。それでも、久しぶりに入る部屋だった。
ここに入るのも何年振りだろうか。その年数がそのままわたしとラルフの溝の深さなのだろう。
「で、お願いって?」
ラルフの目は相変わらず死んでいた。
こうさせたのはわたしのせいだろう。申し訳なさは確かにある。でも、わたしは自らの都合を優先しようとしている。今までも、これからも。
わたしの心はあったかくはないのだろうね。こういうところは前世と変わらないなぁ。
「ポーションを作ってほしいんだ」
「は?」
単刀直入に告げる。
当然のように怪訝な顔をされた。でもめげないぞ。
「なんで?」
「ポーションはある程度の体の異常には対処できるから領民に広めたいなって思っているの」
「そんなのお前がやればいいだろ」
「でも、わたしが魔道学校に行ったらできる人がいなくなるからさ。ラルフ兄さんにお願いできないかと思って――」
「そんなのお前の勝手だろうが」
吐き捨てられる。大人しい人だと思っていたけどこんな態度を取るのか。少なからずびっくりしている自分がいた。
「で、でも……、領地のことは兄さんも考えなきゃいけないんでしょ?」
ラルフは長男だ。シエル家を継ぐとしたら彼が一番可能性が高い。
「知らないよそんなこと」
なのに彼は目を逸らした。
もうわたしを観ようとはしない。将来すら見ようとはしていなかった。
「お前が勝手に始めたことなんだろ。それを勝手に僕に押し付けようとするなよ」
その通りだ。
お願いとは言いつつも、これはわたしのわがままだった。ラルフの言い分もわかる。
それでもわたしはラルフを頼りたかった。ポーションを作成できるのが適任だったというのもある。
それとは別に、『俺』と似ている彼に何かがんばってほしかったという気持ちがあった。それこそわがままだ。無気力でいるラルフが『俺』みたいで見ていられなかったのだ。
勝手に重ねて勝手に頼ろうとした。今までそんなことしようとすら思わなかったのに。わたしは都合のいい頭をしている。
ひどい人間だ。性格を変えたつもりでいたけれど、まだまだ性根を変えるというところまでできていないらしい。
「そうだね、うん。ごめんね、ラルフ兄さん」
「……」
わたしは笑ってみせた。
勝手なことを言って嫌な顔なんてできるわけがない。
……ちゃんと理解しろよ、自分。
わたしはラルフの部屋を出た。もう二度と彼の部屋に入ることはないだろう。そんな確信めいたものがあった。
さて、どうしようか。
ポーションがあればわたしがいなくても大抵のケガや病気は問題ないだろうと思ったのだが。作り方を教えるのも含めて早めに取り掛かりたい。
一応いくつかは自分で作っている。効果もすでに証明済みだ。
それでも年単位で離れるのなら、絶対足りないだろうなぁ。
やっぱり誰か作れる人がいればいいのだが。一番は治癒魔法が使える人がいることだけどさ。属性魔法が使えても治癒魔法はまた別のようだ。今のところわたし以外には見当たらない。
両親はダメだろうな。実力的にはポーション作りは問題ないけれど、それを領民に配るなんてのは考えないだろう。作ったとしても法外な値段をつけるに決まってる。そういう親だ。
下の姉も魔法は使えるけれど、ポーションを作るほどの実力はない。ラルフ以上にやる気もないから無理だろう。
ふぅ、と息をつく。
領地経営なんて領民にがんばってもらわないと回らないんだからもっと投資すればいいのに。なーんて言ってると投資するもの自体がないって話になるのか。難しいな。
頼りになりそうなのはウィリアムくんだけか。才能面でもうちの兄妹よりもあるだろう。
こうなったら頼れるところに頼っていくしかない。
決めてしまえば早い。ウィリアムくんの魔法の修業に、こっそりと新たな項目を加えるのであった。




