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31.鬼

「はぁ、はぁ、」


相楽達を後に俺は特別練の中を走っていた。

もう、かなりの時間特別練の中を走っている。

だがまだ実習室には辿り着かない。


「でかすぎだろ!」


そしてその事実は俺に狂おしい程の焦燥をもたらしていた。

前からこの学院が大きいことは知っている。

だが、俺は自分のの身体能力であればそこまで気にするものではないと、そう思い込んでいた。


ーーーだがそれは、いま現在に関しては大きな勘違いだった。


確かに幾ら大きかろうとこのままのペースで俺が走っていけば1、2分の間には実習室に辿り着く。

だが、あの上級悪魔がアイラを攫ってからたった時間を考えると、それではあまりにも遅かった。

おそらくアイラが攫われたから10分程度はもうたっている。


「畜生、相楽なんてほっとくんだった!」


そして俺は今更ながらに相楽達に無駄な時間を使ってしまったことを悔やむ。

しかも、不安はそれだけじゃない。

上級悪魔、俺はそう呼ばれていたあの巨体を思い出す。

この学院の校舎にも迫る、悠に10メートルを超した身体に、離れていても分かったあの威圧感。

それは俺にとってあまりにも未知な存在だった。


そして俺はその相手のことを全く知らない状態で挑もうとしていいるのだ。


それがどれだけ危険なことか俺は知っている。

決して俺が悪魔よりも弱いと思うとかいう話ではなく、全く相手を知らない状態で自分に対する自惚れだけで行動を起こす危険性を俺は誰よりも知っている。

だから俺は相楽に救援を求めた。


ーーーだが、俺は未知の相手と戦うよりももっと恐ろしいことを知っていた。


「っ!」


一瞬頭にある光景がフラッシュバックする。

一人の老人が血まみれで倒れている姿に。

それは俺のよく知っている人物、そう、俺の祖父だった。


「なっ!」


全く記憶になかったはずのその光景に俺は一瞬戸惑う。

だが、すぐにその戸惑いは後悔に、悲しみに、そして後悔へと生まれて行く。

そしてそれらの感情は俺を埋め尽くして行く。

まるで津波のように俺という存在を流し、上書きして行くかのように。

だが、ほんの少し隅に俺のカケラは残っていた。

酷く小さくて、あるかもわからないようなそんな存在でも。

そしてほんの少し残った俺は戸惑う。


ー感情の暴発と共に俺に流れ込んでくる強大な力を。


ーそして異常な程跳ね上がる身体能力に。


だが、その小さな俺はそれだけを感じ取っただけだった。

およそ人間の出すことのできないはずな速度で実習室へと辿り着いた俺が、目にした光景。

とんでもなく大きい実習室の中に居座っている上級悪魔と、そしてその側で意識を失っているアイラの姿を目にした瞬間、


ーーー最後に残っていた小さな俺は急激に膨れ上がった感情にあっさりと飲まれて消えた。












ーほう、こんな化け物が存在したとは。


俺はその頭の中に直接響いた言葉を悪魔の声だと悟る。

悪魔の中でも上級からは知能を持つとアイラから聞いたことを思い出す。

しかし、何故テレパシーのような形で話しかけられたのかと目を挙げてそして納得する。

何故なら、その悪魔には口というものが存在していなかったのだから。

そして、間近で見た悪魔はあまりにも歪だった。

まるでドラゴンといえば一番しっくりとくるのだろうか?

その外見は決して醜悪ではなかった。

だが、その1パーツ、1パーツはあまりにも大雑把だった。

まるで小さなドラゴンを無理やり拡大させたようなそんな違和感。

不意に俺はまるで子供のおもちゃが目の前にあるかのような気の抜けた感覚に陥る。


ーーーだが、その威圧感は本物だった。


正直こんなものに理事長が勝てるなどあり得ない気がする。

そして恐らく強さ関して俺とこのドラゴンは五分五分程度。


ーまさか人間で我ほどの力を有するものが存在するとは。


そしてドラゴンの方もそう思ったのか、そう俺に呟く。

俺はその声に反応して顔を上げ、ドラゴンを見つめる。


ーーーだがそれだけで俺はアッサリと目の前のドラゴンを無視した。


ーほう、我を無視するとは。


無視されたことに気づいたのかドラゴンの声に若干の苛立ちが含まれる。

だが、俺は全く反応せずアイラへと目をやる。

アイラの身体には一切傷が無かった。

俺から見えている肌にも、そして服に隠されている所にも恐らく傷はない。

更に魔術に関しても意識を奪う程度の物しかかけられていない。


「無事か……」


そのことを確かめてようやく俺は上級悪魔の前で安堵の声を発した。


ー当たり前だ。今、我がその魔術師に手を出すはずが無い。


その俺の様子にドラゴンはそう吐き捨てた。

そして俺はそのドラゴンの言葉は真実であることを悟る。

確かに絶対に手を出さない訳ではないだろうが、恐らくまだ手を出していないということだけは本当だろう。


「ああ、それならお前も痛ぶらずに殺してやるよ」


ーっ!


ーーーそして俺はそのことを確かめて、憤怒以外の感情の抜け落ちた顔で笑みを浮かべる。


ドラゴンはその異様な俺の様子に動揺を漏らす。


ーはっ!調子なるなよ人間!


だが直ぐに俺を嘲笑ってみせる。







そしてその殺気の中、俺の中の鬼が笑った。

更新遅くなり申し訳ありません……

そして少し今回は短めです。

色々と伏線を張った回ですが、まだ全然明かされないので、気になったことに関しては頭の片隅にでも置いていただいて下されると嬉しいです。

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