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白の少女の場合4

 ギルドに飛び込んで来たバルカス達の話を聞く。

 私はすぐに街を飛び出そうとする。

 しかし一緒に話を聞いていた周囲の人達に止められてしまった。

 エミリアという二等級と一緒にいるソルディオ。

 それならば恐らく一等級のイカれた男だろうと。


 そんな事、私には関係ない。

 彼の元へ急がなければ。


 背後から薬を作ってくれと懇願しているバルカス達の声が聞こえる。

 どの口がお願いしているのだろうか。

 何故彼を置き去りにした奴らの面倒を見なければならない。

 そんな奴らの子供なんて勝手に死んじゃえ。


 森林地帯の場所を大まかに聞いてギルドを出る。

 もう日が沈んで夜の帳が下りていた。


 夜になっても彼は戻って来ない。

 不安な気持ちが胸の中を占める。

 最近はずっと良いことばかりをしてきたはずだ。

 どうしてそんな彼がこんな目に合わなければならないのか。


「あれ? トーチちゃん。そんなに急いでどうしたの?」


 一番近い西門から街の外へ出ようと駆ける。

 すると冒険帰りであろうシーク達と鉢合わせた。

 説明する時間が勿体ない。


「ヒデオの危機。急ぐから後はギルドで」

「えっ? なんやそれ。ちょっと待って」

「トーチちゃん!?」

「行っちゃいましたね」


 結論だけを告げた。

 森林地帯の方へと敏捷強化をかけて走り始める。

 もう夜だから遠くまで窺うことは難しい。

 だが月明かりがなんとか周囲を照らしてくれている。


 半日かからない場所。

 流石にそこまでは魔力が持たない。

 方向はちゃんとあっているだろうか。


 魔力が切れてからも走り続けた。

 足が痛い。

 胸が苦しい。

 その両方が動かなくなろうとも、私の進む意志は止められない。


 彼の辛い時に動かなくなってしまう体なんて……そんなものは必要ない。

 息が切れても走り続ける。



 あれが森林地帯だろうか。

 遠くに森だろうものが薄らと確認出来る。

 まだ距離がありそうだ。

 痙攣しかけている足で走り続ける。

 ふと先ほどまで静かだった周囲から幾つかの音がする。


「なんとか追いつきましたね」

「値切らずに買った駿馬だもの。このくらいは走ってくれないと。さぁ私の前に乗って、トーチちゃん」

「それにしても僕らが追い抜いてしまったと思ってたのに、もうこんな場所にいるんやな」 


 一気に近くなった音は、私の前で止まった。

 話は進みながらでも聞ける。

 促されるままにシークの手を取り、前にお邪魔した。

 すぐさま三頭の馬は勢い良く駆け出す。


 ギルドで話を聞いた三人は必要なものを揃えて追いかけてきたらしい。

 夜道ということもあり、途中で私を追い抜いたのではと考えていたようだ。

 これだけ広ければそういう事もあるだろう。

 しかし前方に動く白いものが見えて、こちらへと寄ったとのこと。

 お蔭で彼の元へ急げる。

 やはりこの髪色でいて良かった。


「ん、ありがとう」

「師のお蔭で僕は横恋慕で無駄な時間を使わずに済みましたから」

「トーチちゃん達も勝てる確証がないのにすぐ来てくれたでしょ?」

「トーチちゃんにとってヒデちゃんは大事な人やな? でもヒデちゃんもトーチちゃんも僕らにとっては命の恩人であり、大事な友達や。だから僕らも一緒に行かせて欲しいんや」


 まさかこの前と逆の状況になるとは。

 やはり私達は間違ったことをしていたわけではない。


 きっとまだ彼は戦っている。

 そして私の事を待ってくれているはずだ。

 一等級と二等級に勝てるだけの実力はまだ私達にはない。

 そんなことは分かっている。

 ならせめて、私は彼と一緒に死にたい。



 森林地帯に着くと、馬を飛び下りて中へと入る。

 暗くて全く先が見えないので、シークに渡されたランタンで辺りを照らす。

 アカツキとシークもそれに続いてくれた。

 ハイドは馬を三頭繋いでから来てくれるようだ。


 風魔法を使って周囲を探りながら進むと八人感知した。

 聞いていた人数よりも多い。

 誰かが助けに来てくれたのだろうか?

 声を拾うのには集中がいる。

 時間が勿体ないのでそちらへと走る。

 

「誰か来たみたいですぜ?」

「おっ親分、三等級と五等級の冒険者達ですっ」

「逃げた方が良いっすよ」

「馬鹿野郎! なにも悪い事はしてねぇだろ」


 何処かで見た顔だ。

 そいつらは周囲に転がっている高ランクであろう魔物達の素材を剥いでいた。

 この盗賊達に狩れるような魔物ではない。

 恐らくここがバルカス達の言っていた場所だろう。


「逃がさない。なにがあったか教えてもらう」

「トーチちゃんの知り合いなんや」

「トーチ……あの時の弓使いか!?」


 あの時は外套のフードを被っていた。

 それに弓も変わったからか、盗賊は気づいていなかったようだ。

 しかし名前で思い出したのか、数人が足を庇うような動きをとる。


 周囲を見渡す。

 激しい戦闘痕のようなものはあるが、人の死体は一つもない。

 僅かな希望が胸に宿る。


「ヒデオは次に絡めば斬ると私に言っていた。ただ、知っていることを話せば今は許す」

「や、やめてくれ! あれから俺達は盗賊行為をしちゃいねぇ」

「ここに来たのも偶然だっ!」


 

 どうでもいい御託を省かせて説明だけさせる。

 盗賊達の話が本当であるなら、彼はまだ生きているらしい。

 

 盗賊の仲間の一人に遠見のスキルを持った者がいた。

 そして偶然森の中から引きずられる彼が出てくるのを遠い丘から見たようだ。

 彼らはしばらく様子を見た後に、興味本位でここに来たのだとか。


「何があったかは分かりやせんが上半身は曝け出されてて、胸は確かに動いていやした。嘘じゃありやせん。ただ遠見でしか見えない所から覗いていたのに、何故か男とは目が合って。それで怖くてしばらく固まっていやした」

「そんで話を聞いて、気になってここに来てみたらお宝の山があったから頂いていたんだ。嘘じゃねぇ」

「うーん、一応本当なんやろうなぁ」



 彼は血塗れだったが、目立った傷はなかったらしい。

 それを聞いてシーク達も一先ず安心したようだ。

 他に手がかりはない。

 信頼出来ない情報筋だが、嘘だとしたらここに彼らがいるのは不自然だ。

 これを信じてみよう。

 どうやら彼を連れた男女は、北東の方角へと向かったらしい。

 全く行ったことのない方角だ。


「あっちには所々に町や村があるわ。それにいくつか国境もあるのよね」

「えぇ、五等級一人では見つけ出すのは無理でしょうね。一人ならの話ですが」

「そうやね。トーチちゃん一人で捜索させたらヒデちゃん絶対怒るやろうからな。僕らも連れてってな」


 なんとシーク達も付き合ってくれるつもりらしい。

 お金は持っているし、物はまた買えばいいとこのまま一緒に来る気のようだ。

 話を聞いた盗賊達を殺そうとも思ったが、毒気が抜かれた。


 八人はそのまま放っておき、四人で北東を目指す。

 今はもう真夜中だ。

 もう安全だろうと戻ってくる魔物もいるはず。

 あいつらが生き残れるかは運次第だろう。


 シークの前に跨って馬に運んでもらう。

 騎乗をしてみたいと彼にねだってはいたが、こんなつもりではなかった。

 

 きっと彼はまた私の前に元気な姿で現れてくれる。

 そう願いながら旅路を急いだ。

これにて第二章は終了です。

活動報告を書きました。

宜しければそちらの方もどうぞ。

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