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「おはよう。なんや悪い夢でも見てた気分やわ」

「コスケっ!良かったぁ。うぅっ、良かったよぉ」

「おわっ、つぅ~めっちゃ痛いけどこっちのは幸せやぁ」


 隣のベッドで寝ているアカツキが目を覚ましたようだ。

 トーチに薬を処方されるまで瀕死の状態だった。

 しかし一晩で傷は塞がり、血が足りない程度にまで回復している。

 元々大量出血が原因だったというのもあるが。


 シークが泣きながらアカツキへと抱き付いた。

 彼女は昨日からずっとアカツキの手を握りしめて泣き崩れていた。

 これで二人の距離も縮まるかも知れない。

 少しそっとしておいてやるか。



 ここはクラッドの東門側にある治療院。

 昨夜遅くにずぶ濡れ且つ血塗れの状態で運びこまれた俺達は、ここで一晩ベッドを借りることとなった。

 

 治療院は簡単な怪我や病気の為にある場所だ。

 本来俺達のような重い怪我人には対応しかねるようだった。

 そのままならば首を振られて追い返されているところだ。

 しかしトーチの母秘伝のレシピで作られた回復薬のお蔭でベッドを借りるだけで、事は済んだ。

 医者も驚いていたのでその薬の力は折り紙付きだろう。




 しばらく抱きしめあっていた二人だったが、アカツキがこちらに気づく。


「ヒデちゃん昨日は本当に助かったわ。ありがとう。また借りがいくつも増えてしまったなぁ」

「おう、これは日毎に一回加算されるからな。早めに完済しろよ」

「たいそう暴利な所で借りたもんや。でもな、正直僕はあそこで死ぬんやろうなぁって思ってたからな。そう考えると随分得した気分やね」


 アカツキは礼を言うと照れくさそうに頬を掻いた。

 少ししんみりとした空気が流れていたものの、傷口まで掻いてしまったらしい。

 すぐさま大きな声で喚き散らした。

 本当にはた迷惑な奴だ。


「トーチが起きるから静かにしろバカツキ」

「ごめんごめん。トーチちゃんが治してくれたんやろ?お礼言いたいんやけど」

「目覚めるまでずっと俺に付きっきりでいてくれたんだ。まだ寝かせてやってくれ」

「二人がベッドに寝てたのって僕の為やなかったの?ヒデちゃん怪我ないやん」


 そう。朝方目覚めるまでは傷だらけで左腕も吊っていた。

 しかし今の俺には傷一つない。



 俺は以前聞いていたのだ。

 治療院や神殿はあっても、そこに瞬時に怪我を治せる者はいない。

 だが一応この世界に治癒魔法というものは存在する。

 ただ、それを可能とする存在は大陸中を探しても僅か一握りらしいと。


 複数のスキルを所持する者は少ない。

 そして魔法スキル持ちとなるとかなり限定される。

 そこから更に希少な治癒魔法スキルである。

 これだけでもどれだけ少ないかが容易に推察できる。


 正式に公表されていない為、総数は分からない。

 だが、各国に二人いれば良い方だと言われている。

 俺の記憶が間違っていなければ、それこそ化け物と呼ばれる一等級二等級の冒険者と同数程度だ。


 治癒魔法スキルが発現した者は当然その国に囲われ飼い殺しにされる。

 そのせいで国の中枢人物以外が治癒魔法を受けることはほぼあり得ない。

 安全な生活は送れても自由がないなんて可哀想な奴らだ。


 さてここで一回話を戻そう。

 全治四週間という診断を受けたはずの俺がまっさらである理由なのだが。

 簡単に言うと、新しい力を習得したのだ。


 まず朝起きて用を足す際に、左腕が使えないせいで不便な思いをした。

 そしてその話を聞いたトーチが下の世話までしたがる。

 流石にそれは俺の自尊心が許さない。

 なのでトーチが寝た後に対策を考えることにした。

 その後なんとなく身体強化魔法の応用でなんとか出来ないものかと試みる。

 しばらく悪戦苦闘したものの、気づけば自己治癒というスキルが身体強化魔法の中に組み込まれていた。




「ただ魔力消費は異常に激しいみたいで、満タンだったのが今ではすっからかんよ」

「なるほどなぁ」

「そして自分専用なのでお前には使えません。悪しからず」

「現状で十分感謝やから全然いいんやけどな。でもよくあの状況で腕が折れてから逃げきれたなぁ」


 俺のスキルの一部を特別に教えてやったのだが、そもそも論点が違ったようである。

 どうやらアカツキは、自分が気を失ってから俺が自己犠牲をしながら逃走したと思っているみたいだ。


 確かにアカツキが起きてから、シークは説明をすることなくずっと無事を喜んでいたのだから当然と言えば当然か。

 面倒だが誤解は解いておいた方がいいだろう。


「あぁ、コスケ。目覚めたんだね、良かった」


 病室の扉が開かれる。

 ギルドの方に用事を済ませに行っていたハイドが戻ってきたようだ。

 感激そうに目元を潤ませながら扉へともたれ掛る。

 泣いている所に悪いが、面倒だし説明は彼にしてもらおう。





「凄いなぁ。三等級の上の方の人じゃなきゃあんなの勝てないと思ったんやけど」

「ん?三等級でもあれを倒せる奴がいるのか?」

「前にヒデちゃんが言ってた瞬歩のイェンが現役の頃やったら勝てるんやない?僕ら含めてクラッドにいる三等級はペーペーばかりやからね」


 九層で出会った三等級の奴らは二等級でもいないと無理だって凄くビビっていたんだがな。

 もしかしたらあいつらも三等級になりたてとかだったのだろうか。

 少し気になり尋ねることにする。



「あー誰か分からないけど多分そうやない?三等級は四等級と五等級に比べても実力差が激しい等級やからなぁ。二等級への昇級審査落ちぐらいの人やったらユニークモンスターも楽勝やろ」

「そうなると、二等級と一等級ってのは本当に化け物なんだな」

「二等級の人なら一回仕事でご一緒させてもらったんやけど、僕らとは次元が全然違ったなぁ。一等級に関しては五人しかいないし変わり者ばっかりやって聞くからよく分からん。でもその二等級の人が一等級は化け物だって言ってたからなぁ。化け物の化け物ってなんなんやろうね」



 シルヴァでもクラッドでも皆が口々に言っていたが、それ程までに違うものなのか。

 まだ冒険者関連で引退後のイェン以上の相手に遭遇していないからよく分からない。


 各国に一人二人程度とサルスタンさんは言っていた。

 そして国は大小含めて五十ヶ国以上存在している。

 ということは百人近く化け物がいるのだろうか?

 出くわす確率はかなり低そうだが、いつか挑戦してみたいものだ。



「……んぅ」

「お?起きちゃったか?」

「ん、おはよう」


 それなりに長い話になってしまい、気づけば昼過ぎになっていた。

 そろそろトーチを起こして飯でも食べに行こうかと思っていたら、丁度目覚めたようだ。


 瞼を擦りながらこちらにぺこりと挨拶をする。

 綺麗な髪が僅かに乱れているのを見つけ、撫でつけておく。


「あれ?ヒデオ怪我は?」

「トーチを抱きしめてたら治ってた。愛の力かもしれないな」


 そう言うと、信じ切ったのか照れ笑いを浮かべながら俺の背中をポンポンと叩いてくる。

 わかりやすい軽めの冗談のつもりだったのだが心が痛くなってきた。

 詐術のスキルが発動したんじゃねぇだろうな。


 ちゃんと説明をして誤解を解くことにした。

 すると、少し拗ねた様子だったのでしっかりと謝罪をしたのだが、どうも拗ねているわけではないようで小さな呟きが聞こえる。

 下の世話がとか、残念とか。

 聞かなかったことにしよう。



「そんじゃあ俺らは昼飯食いに行ってくるから後は三人でごゆっくり」

「ん?僕らも行くよ?」

「いや、お前はまだ寝てろって」

「そうよ、傷は塞がってもまだ血が足りてないってトーチちゃんも先生も言ってたわ」

「コスケ、無理は駄目だよ」


 俺達と一緒に飯へ行こうとするアカツキを全員で止める。

 トーチも腕でペケ印を出している。


「だからこそ血の滴る肉を食いまくって増やすんやろ」


 もうベッドに戻るつもりはないようだ。

 立った瞬間に立ち眩みを起こしたくせに絶対に着いて行くという執念を見せている。

 トーチもやれやれと首を振っているので、本当に馬鹿なんだなと勝手にさせることにした。



 外に出ると地面には水溜りがいくつも出来ていた。

 それにしては日差しが随分強いなと空を見上げる。

 雲一つない快晴だ。

 昨日の雨空は完全に消え去っている。


 テラスで食べれる所にしようかな。

 後ろで騒ぎ立てる怪我人を尻目に、そんな事を考えながら水溜りを跨いで行った。


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