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「悪いけど、今日は二層でゴブリンを中心に狩らせて欲しい」

「ついにあんたの剣が出来たんだね。造りだけ見たら凄い普通だけど」

「ちっちっちっ。鞘から抜いたら凄いんだぜ?」

「ん、服を脱いでも凄い」


 剣を受け取った翌日。

 セーヌと合流してダンジョンへと向かう。

 もう知った仲なので、トーチも軽い冗談さえ言えるようになっている。

 昨晩は試し斬りがしたくてずっとうずうずしていた。

 それこそギルドに行ってわざと絡まれようかと思ってしまうほどに。

 だからかあまり眠れなかった。



 ダンジョン入口に駐在している兵士にも顔見知りが出来て、労いの言葉をかけてから潜りはじめた。

 当初話した予定通り、二層に降りると魔物を探す。

 人型であるゴブリンを相手に幾つか試したいことがあるのだ。

 あまり他人に見られたいことでもない。

 他の冒険者達から距離を取り、見られない場所へとセーヌに案内をしてもらう。


「右奥からゴブリンが二体」

「よし、そんじゃあ二人はゆっくりと見学しておいてくれ」

「あいよ、面白いものを期待するよ」


 トーチも特に心配する様子もないので、少し二人から間隔を空けて待ち構える。

 まずは聖銀の方から使うかと鞘から抜いてみた。

 二層は苔の光だけで若干薄暗いからか、聖銀の剣が僅かに光り輝いているのが分かる。


「おぉっ、そいつは随分と綺麗な剣だね」

「ん、ラカン渾身の一振りらしい」


 後方から二人の会話が聞こえた。

 仲良さそうに二人で荷車に腰掛けている。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアッッッ」


 ようやくお出ましか。

 ダンジョン内で生まれたばかりなのだろう。

 装備を何も身に着けていないゴブリンが二匹で奇声を上げ、こちらへと駆けだした。

 武器も持っていないなら、心置きなく試し斬りが出来る。

 

 刃こぼれも魔力で修繕出来るのならば、少しぐらい無茶をしても良いか。

 そう思い、前にいた一匹にどこまで斬れるのかと頭から唐竹割りをお見舞いしてみる。

 途中で止まると思っていた剣は頭から股下までしっかりと断ち切っていた。

 若干の手応えのみで、最初に入った勢いのまま野菜を切るかのように簡単な作業だった。

 断面は雑で、少しだけ気持ちが悪い。


 ついでにと残りのゴブリンの首へ剣を突き刺してみる。

 突き刺すというのは大袈裟だろうか。

 前に向け握ったまま歩いたらゴブリンの首にぶっすりと刺さった。

 うん、こちらの方が正しいだろう。

 凡そ戦闘には見えない。ただの虐殺だ。


 ゴブリン程度の骨では刃こぼれすることはないようで、血だけを拭いとると鞘へと剣を戻す。


「まさに圧倒的だったね。そんな業物三等級冒険者でも持っちゃいないよ」

「そうだろうな。俺も予想以上の性能に驚いているよ」


 これを扱うにはまだまだ俺の技量が不足している。

 イェンの持っていた曲剣をも上回るのだから当然か。

 それにしても、聖銀の方でこれなら黒剣はどうなっちまうんだろうな。

 少しだけ背筋が寒くなった。


「ヒデオ、笑ってる。気に入った?」

「え?今俺笑ってたか?」

「ん、ヒデオがご機嫌なら私も嬉しい」


 自身の反応がいまいち分からなくなっているな。

 機嫌良さそうに俺の袖を引っ張ってブラブラさせているトーチの頭を汚れていない方の手で撫でる。

 

 今度もトーチの魔法でゴブリンを探してもらい、そちらへと向かう。


 今度の二匹は両方とも剣と皮の防具を装備している。

 装備はやはりダンジョンで見つけるのだろうか。

 黒剣を鞘から抜いて握りしめると、前に向かい立つ。


「ギャギャッギャ」

「ギャッギャギャ」


 今度の二匹は賢いようで、連携をしようとしていることが分かる。

 一匹目が俺を誘って、二匹目が止めを刺そうというのだろう。

 念のために身体強化魔法を施して、一匹目の剣と打ち合う。

 いや、打ち合おうとした、というのが正しいだろう。

 

 打ち合ったゴブリンの剣は、一瞬鈍い音を立てると剣線から上が消失する。

 そして持ち手のゴブリンの頭すら、その勢いのまま豆腐を切るかのように手応えなく斬り裂いた。


 宙を舞っていた剣の切っ先が俺の足元に突き刺さる。

 危ねぇ、と冷や汗を掻きながらもう一匹へと目を向けると、俺と同じく固まっていた。

 なまじ知能がある分、思考が停止したのだろう。


 俺が動き出すと脅えを見せながらも回避行動を取ろうとする。

 斬れ味は嫌というほどに分かった。

 ではもう一つの自慢である、切っ先はどうだろうか。

 少しだけ力を入れてゴブリンの腹に突きを放つと、その部分はまるで最初から無かったかのように弾け飛び、大穴が穿たれた。

 当然感触は全くと言っていいほどにない。



 これはヤバい。

 イェンほどの達人にこれを持たせれば、それこそ二等級へと難なく昇級していただろう。



「いやーあっちの黒いのも凄いねぇ」

「ん、どっちも名剣」


 二人の感心する声が聞こえるが、聖銀とは全く違う。

 こちらは本当にヤバいのだ。

 ヒュメルはなんてものを俺に渡したのか。

 使用者である俺が恐ろしいと思ってしまうのだ。

 腕に沸々と湧いた鳥肌が収まらない。



 しかし、そんな凄まじい名剣二振りを試したものの、この前までの相棒だったショートソードの時のようにどうもしっくりと来ない。

 とりあえず聖銀で自身の技量を上げようと思ったのだが、未だに握った黒剣がそれを許さないと耳元に囁いてくる。


 何故そう思ったのか。

 おもむろに聖銀の剣も鞘から抜く。

 右手に黒剣、左手に聖銀。俺以外が使えない、俺専用だと言い切れる程にしっくりと来る。

 二振りの剣もそれに共鳴しているかのように煌めいた。

 両腕を下ろしている俺は、さながらオルトロスの口のようにも思えたのだ。

 二本の犬歯は俺の身体という口を媒体に仲良くしたいのだろう。

 製作者達の性格とは本当に正反対だ。


 だが、一振りでも持て余す剣を同時にだなんて馬鹿げている。

 そう。俺の剣術スキルは所詮まだ三なのだ。

 そう思いながらもステータス画面を見る。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 名前 :ヒデオ・サヤマ

 種別 :人間:男

 職業 :無

 レベル:31

 状態 :通常


 生命力:190/190

 魔力 :164/190


 筋力 :62

 敏捷 :62

 頑丈 :62

 器用 :75

 知力 :50

 幸運 :40


 スキル

 ・詐術4

 ・筋力上昇(小)

 ・敏捷上昇(小)

 ・頑丈上昇(小)

 ・体術3

 ・ステータス表示

 ・脱兎1

 ・投擲2

 ・狂化3

 ・精神耐性2

 ・双剣術2

 ・見切り3

 ・不屈2

 ・身体強化魔法

 ・魔力操作3

 ・気配遮断2

 ・気配察知1


 ユニーク

 ・器用貧乏

 ・大器晩成

 ・一を聞いて十を知る

 称号

 ・女たらし

 ・時空の狭間を通り抜けた異世界人

 ・奇跡の体現者

 ・英雄の卵

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 鍛冶の件で詐術が上がったのは知っている。

 一番スキルレベルが高いというのも考えものだが。


 身体強化魔法の乱用で、魔力操作が上がったのも知っている。

 新規スキルの気配遮断が二になっているのも、気配察知があるのも分かっていた。


 だが、剣術三が消えて双剣術二になっているというのは今初めて知った事実だ。

 どのタイミングで書き換えられたのか。

 なんだこれはとスキル欄を凝視すると、双剣術の欄に説明が入る。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ・双剣術―刀剣類を二本使用の際に補正。スキルレベル依存。剣術三を統合。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 なるほど、消えたという訳ではないようだ。

 だがこれはつまり、双剣として使えということなんだろうな。


 器用の数値が高いことには感謝しないといけない。

 まずは試してみるか。


「ヒデオ、ヒデオ」

「おっ、おう。トーチか。すまん、考え事をしていた」

「ダンジョンでそれは命取りなんだがねぇ」


 セーヌの指摘に悪い悪いと手で謝罪をして、次の獲物を探す。






 あれから何度か実験を行った。


 その結果、基本的には敵の攻撃を左の聖銀で受け、右の黒剣で相手を斬り裂く。

 それが一番であることが分かった。

 逆も試したのだが、相手の武器がどこに飛ぶか分からないというのが怖くて実戦では使い難い。

 スキルの効果か、それとなく構えのようなものも出来た。


 今まで双剣を武器にしている人をシルヴァの女性四等級冒険者以外には知らない。

 やはりその扱いにくさから敬遠されやすい武器のようだった。





 ダンジョンの外に出て、以前の相棒であるショートソードや短剣を使い、剥ぎ取りを行う。

 当然のように血で斬れ味は落ちるし、刃こぼれもする。

 宿屋で研いでやらないとな。

 こうすることによって改めて聖銀と黒剣の異常性を実感した。



「いやー今日はあたい達することが少なくて楽だったねぇ」

「ん、またダンジョンについてのお話を聞かせて欲しい」


 暢気に話をしている二人と共に街へと戻る。

 心技体、全てに関して己は未熟だ。

 一朝一夕でそれらは身に付かないだろう。

 だが、焦ることはない。

 この二振りは俺と共にある。そして成長を待ってくれている。



 とりあえず、遠足前の子供のように眠れなかった昨晩が効いているのか、眠くて仕方がない。

 大きな欠伸をしながら東門を通り抜けるのであった。

ブックマークやアクセス数が増え、感想や評価を頂戴することも出来ました。

重ね重ね、有難う御座います。

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