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白の少女の場合3

初めて感想や評価を頂けて嬉しかったので本日二話目の投稿。


 彼に一目惚れしたと自覚してから、外に出る決断をするまでは早かった。


 すぐにお母さんのお墓へと報告する。

 しばらく掃除に来れないことへの謝罪。

 運命の人を見つけたという報告。

 横にいる彼も一緒にお母さんのお墓に手を合わせてくれた。

 優しさを感じて嬉しさがこみ上げる。


 次に来る時は孫の顔を見せてあげると約束してその場を離れる。

 その時に背中へと吹いた風がまるで門出を祝福してくれているように感じて足取りも軽くなった。




 私も冒険者になると告げると彼は驚いたような顔をしていた。

 当然のように反対された。

 だけど心配からのその言葉を煩わしく思う気持ちは微塵もない。

 それにやる気を見せたらすぐに納得してくれた。

 

 その日の寝る前に二人で体を清めることにしたのだが、彼はこちらを一切見ようとしない。

 私の体にはやはり魅力がないのだろうか悲しみが生まれる。

 母との約束もある。はっきりさせようと彼の正面へと向かい、問いかけることにした。

 

 ……どうも恥ずかしがっていただけのようだ。可愛い。

 私の体なんかに反応してくれる彼の体も愛おしい。

 思わず寝る際に練習をお願いしてしまった。


 母から聞いていた通りの痛みだった。




 町までの道中、変わりばえの無い草原にも関わらず私の心は浮き立つ。

 彼は辛そうに重い荷車を引いているというのに、私を歩かせようとは決してしなかった。

 一つ一つの心配りが私の胸をポカポカと温めてくれる。

 


 四年ぶりに人里へと行く恐怖も彼と一緒ならば平気だ。

 そう覚悟しながら訪れた町は、昔に暮らしていた町とは比べられない程に優しかった。

 森に住んで覚えた風魔法が私にささやかな色を足してくれたのかもしれない。



 

 

 彼はやはり凄かった。

 六等級冒険者と八等級冒険者の集団を相手に無傷で勝利した。

 冒険者達は捕縛されて奴隷へと落とされた。

 彼を闇奴隷商に売ろうとした奴らだ。本当なら処刑されなければならない所である。

 それでも優しい彼は心を痛めたようで沈痛な面もちだ。

 

「ヒデオは約束通り私を守った。ただそれだけ。ありがとう」


 そう伝えると、彼は私の顎に手をやり、親指で頬を優しく撫でてくれた。

 頭を撫でられるのも好きだが、この撫で方も捨てがたい。

 頬が少し熱くなっていることに気づかれていないと良いな。



 彼の凄さは留まることを知らない。

 瞬歩のイェンと国内に勇名を馳せていた、元三等級冒険者。

 そんなイェンと等級審査とはいえ、本気の試合で引き分けたのだ。


 それでも試合を終えた彼の身体はボロボロで心配の涙が零れ落ちていく。

 本当は彼をそんな目に合わせたイェンを風魔法で切り刻みたいと思っていたのだが、どうやら彼はイェンと仲良くしていきたいようだ。

 彼がそう決めたのなら私も我慢しよう。


 彼がレンタル装備じゃなかったら負けていたくせに、イェンは彼を其方と呼び、目下のように扱っている。やっぱり私はイェンが嫌いだ。



 宿屋に戻ると彼は戦闘時の興奮が未だに収まっていないようだった。

 通算二回目の練習をすることになり、私が頑張ることとなった。

 彼に満足して貰えただろうか。



 その翌日、装備を整えるとギルドへと赴いた。

 彼はいきなり五等級冒険者として合格したせいか、ギルド長からお話があるようだ。

 買ってもらった弓の練習をしに、彼に言われるがまま訓練場へと向かった。


 

 弓術と風魔法のスキルがあるのは、以前お母さんが町から買って来た使い捨ての魔法具で確認していた。

 それから数年、お母さんに教わりながらその二つを鍛えていたのだが、お母さんが亡くなった時期に弓が壊れてしまった。


 だから弓を射るのは一年ぶりだ。

 ギルドでスキルを確認した時に弓術スキルは二と表示されていた。

 身体が覚えていたのか弓は面白いように的へと飛んでいく。


「なかなかやるじゃないか。あんたが新入りのトーチかい?」


 後ろから声をかけられて少しびっくりした。

 振り返ると金色の髪を短く刈り込んでいる、体つきの大きな女性が立っていた。

 悪意があるような感じではなく、好奇心のようなものが窺える。

 返事をしなくてはと思ったが、彼以外と話すのは相変わらず苦手で、首を縦に振ることしかできなかった。


「そうかい、あたしはファイ。一応後衛タイプの等級審査官をやっている。イェンの旦那みたいに有名じゃあないから分からないだろうけどな」


 それが私とファイの出会いだった。

 審査も十六歳にしては上出来だと褒めてくれ、七等級から頑張れと期待してくれた。


 彼に並ぶほどの実力を持てていない事を恥じて、冒険者証を貰った後も練習に打ち込む。

 お母さん譲りの構えを彼に褒められて凄く嬉しかった。




 それからの一ヶ月、色々なことがあった。

 森を始めとし、多くの所へ依頼にかこつけて彼とお出かけをした。


 ファイを通じてケイファとも仲良くなった。

 友達というものが初めて出来て困惑していると、彼は大事にするんだよと様々な助言をくれた。

 女子会というものを教えて貰って実践してみると、とても楽しかった。

 彼の言っていた恋人と友達の違いというのも理解できた。


 ファイとケイファのお話は面白くて、私の知らない男性という生き物のことをたくさん教えてくれた。

 彼も男性なのだから当てはまる所も多いかもしれない。

 学ぶべきことを聞いておく。


 弓もファイが教えてくれたり、昔冒険者をしていた近所のお爺ちゃんお婆ちゃんが教えてくれた。すぐに弓術スキルが三に上がった。


 風魔法も凄く得意な方だが、彼の隣に立ち続ける為に慢心することなく特訓することにした。

 魔法の精度を上げる為に女子会の時に彼の周囲の音を集めてみる。


 彼の声と知らない女の声が聞こえる。

 女が熱烈にアピールをして彼が渋々それに応えているようだ。

 ファイとケイファのお話どおりだ。彼は悪くない。


 彼は整った顔立ちと濃い色から多くの女性にモテる。

 それでも彼は私と共にいてくれる。

 最初の頃は私に難癖をつけてくる女性冒険者も多かった。

 彼が私の側にいる時は相手をこき下ろして私を可愛がり、周囲に見せつけてくれた。

 彼がいない時に罵声を浴びせてきた女達には風魔法で報復をした。

 


 本当は彼に粉をかける女達も風魔法で切り刻んでやりたかった。

 でも私との行為の時とは違い、彼女達は一度も可愛いや好きといった褒め言葉を言われていない。

 好意を抱いている相手から褒められないことを罰代わりだと思い、気持ちを静めることにした。


 

 そういう事が八度起きた後日。

 ファイとの女としての特訓も終えたので、彼と話し合うことにした。

 彼はバレていることを悟ると、悪戯をして怒られている子供のように凹んでしまった。やっぱり可愛い。


 特訓の成果を発揮すると彼はとても嬉しそうで、それ以降は誰の誘いにも乗らないようになった。






 自分の等級以上の依頼を何度も請けたため、昇級審査の後に六等級に昇級する事ができた。

 彼もファイもケイファも自分のことのように喜んでくれた。

 なんだか幸せな気持ちになり、空を見上げてお母さんにも報告をする。

 環境の変化をこんなにも楽しめるとは思っていなかった。

 これもやっぱり隣にいる彼のお蔭だ。





 近頃、彼が何かに悩んでいるように思えたので寝る前に尋ねることにした。

 私のことで悩んでいるのなら嫌だな。

 

 聞いてみた。

 彼の悩みはやはり私のことだった。

 だというのに彼の想いが嬉しくて喜んでしまっている私はきっと悪い子だ。


 大好きだと言われて脳の奥まで蕩けるような感覚に襲われる。

 彼の好きという言葉は依存性の高い薬だ。

 彼は嫌いじゃないという言葉をよく使う。人に対して好きという言葉はあまり使わないのだ。

 だからこそ自分は彼にとって特別なのだと自信を持つことが出来る。


 友達と離れることは寂しいことだが、冒険者なら旅立つ日も近いだろうという話題は何度もあがっていた為、気に病むほどではない。


 次の場所では友達は出来ないかも知れないが、彼が隣にいてくれるなら別にそれでもかまわない。

 彼の悩みをすぐに取り除いてあげたくて、すぐに旅立つことを提案する。






「トーチちゃんが戻ってくるまでに私も結婚するからね。それから、ちゃんとヒデオさんと仲良く暮らすんだよ。たまには手紙も送ってね」

 


「トーチならあたしの五等級という数字もすぐに超えるだろう。ヒデオなんかはそれこそ化け物の仲間入りすら出来そうだ。それでも、なにかあった時にはすぐにシルヴァに戻ってこいよ」


「ん、ありがとう。離れてても友達。いってきます」


 二人の気持ちに応えるように。戻るという意志が伝わるようにと声を出す。

 

「いいのか?」


 優しげな表情を浮かべ質問をする彼に返事を返す。

 道中お世話になったお爺ちゃんお婆ちゃんにも行ってきますと挨拶をする。





 彼とウェイドは仲良しだ。

 見ているだけで容易に分かる。

 最後まで今まで通りの軽口をたたき合っている。

 笑っているけど二人の顔は寂しそうに私は思えた。


 町の外に出ると、彼は気持ちを切り替えたようで前を見据えて歩き出した。


 この一ヶ月の間だけで彼はかなり町の人気者になっていた。

 実際女性だけでなく、多くの男性達も彼との別れを惜しんでいた。

 そんな彼の横に私は立って共に歩いている。


 それだけで私は誇らしい気持ちでいっぱいになった。

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