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 等級審査からひと月。

 こちらの世界についてもトーチや仲良くなった町の人達から少しずつ教わって、それなりに詳しくなった。


 太陽や月など、星の名前は各々ついているものの、この世界は【世界】であり、何故か固有名はない。


 ここシルヴァの町は 大陸西部を縦長に領土としているドカタ王国という中規模の王国に所属している。なんか工事とか好きそうな名前だなって思ったのは内緒だ。

 近隣諸国とは可もなく不可もない関係で、ここ十数年は戦争も起きていないらしい。


 逆に、ドカタ王国の北東に存在する大国、バルベルン帝国は年中戦争状態にあるらしい。

 大きな大陸である為、海という貴重な資源があるバルベルン帝国の土地は常に周辺国から狙われているとのこと。

 それでも苛烈な皇帝を旗印に、各国の領土を削り取ることもあるというのだから随分な話だ。それを可能にしてしまう三人の化け物の話についてはまたにしよう。



 次に。

 冒険者は特別に儲かる仕事ではない。

 俺達が働き始めてから一ヶ月。このような結論に至った。


 やはり冒険の醍醐味でもある旅だが、毎日毎日行けるものでもない。

 旅支度には消耗品などで金がかかるし、装備のメンテナンスにも結構な金額が必要となる。

 それらを報酬から差っ引くと手元には生活にギリギリ程度の額しか残らない。


 一流手前と呼ばれる六等級の依頼から、ようやく余裕を持った生活が出来るだけの報酬になってくる。

 それ以上の等級であれば、もちろん夢のような暮らしも可能ではある。

 しかし引退までに五等級に辿り着ける冒険者は二割未満。

 壁があると呼ばれている四等級ともなれば更にその一割程度。

 あまり現実的ではない。


 学さえあれば商人の方が余程稼げるだろう。



 そして俺達のこの一ヶ月はと言うと、六等級依頼を目安に五等級から八等級までの依頼を繰り返していた。

 そのため現状の生活において、オルトロスの売却金には手を付けることなく暮らせている。


 だが最近一つの事件が起きた。

 それは獲物の解体にも慣れ始めた七日前のことである。


「どこに行くの?」

「ん?あー、酒場かな?」

「じゃあ私も行く」

「いや、ほら、たまには一人で飲もうかなって」

「ん、そして取っ替え引っ替え連れ込み宿に連れ込む」

「いやいや、そんなこと分からないじゃん」

「このひと月でもう八人」


 まぁ一夜限りの関係を持ちまくった自分の節操の無さが原因ではあるのだが。


 魔物討伐後とかは血が滾るわけですし、日に一回は必ず誰かに誘われるのだからそこは勘弁してほしい。

 現にトーチ以外に愛情を注いだことは一度もないし、自分から誘ったことも一度もない。


 それにしても全ての人数を把握されているとは。

 もしや尾行されていたか。


「ヒデオの愛情が私だけに向けられているのは知ってる。だから別に気にしていない」

「なるほど、理解してくれていたのか。でも嫌だよな、ごめん」

「男は皆そうだとケイファもファイも言っていた。だから、誘う痴女達が許せない」


 どうやら怒りの矛先は俺ではないらしい。

 トーチは最近、ケイファと女性等級審査官であるファイと仲良くなり、夜に女子会と称した食事会を数回開催している。


 四六時中一緒というのもお互いの為にはならないので、良い事だと思っていたが、変な知識もちらほらつけているようで安心はできない。


「ファイから色々と教えて貰った。これからは私が搾り取る」


 美しく淡い青色の瞳を爛々と輝かせながら艶のある笑みを浮かべる。


 この日以来、トーチ以外とベッドに入ったことはない。相性の良さというものを身をもって思い知らされた。




 事件はこうやって幸せな解決がなされた為、特に言うことはない。


 だが、これ以外にも最近俺が頭を悩ませていることがある。

 それはこの町に居着いてしまっているということだ。


 安全かつ手っ取り早く強くなりたい俺に、この町は都合が悪い。

 魔の森の魔物は今の俺にはレベルが高過ぎ、それ以外の周辺の魔物はレベルが低すぎるのだ。


 この一ヶ月、討伐メインの依頼を十回受けたが、レベルは一つも上がっていない。

 新規スキルも補正分が終わったのかと勘ぐってしまう程に一つも取れていない。

 既存のスキルに関しても、イェンから教わっている剣術により、剣術スキルが三に上がった他に変化はない。


 まぁ何が言いたいかというと。

 ゲームで言うところの適正レベル帯の土地に向かいたい。

 更に言えば宝の持ち腐れになっているオルトロスの犬歯を鍛えてもらいたい。


 だがここで悩むのが、トーチの事である。

 折角友人が二人も出来て、町にもやっと受け入れられ始めたのに、そんな場所から離れることになってしまう。

 正直少し心が痛い。


 トーチの実力に関しては特に文句を言うことがない。

 弓術も風魔法も文句なしに優れていて、且つ上達もしている。

 それは先日、シルヴァ支部最短で六等級に上がったことからも疑いようがない。


「最近元気ない。嫌になった?」

「そんなことないよ、トーチの事は大好きさ」

「ん、私も大好き。じゃあなんで元気ないの?」


 夜のバトルを終え、就寝前にボーっとしていると横から腕をつつかれる。

 やはりずっと一緒にいるとバレるものだな。

 話さないというわけにもいかないし。

 俺は全てをトーチに打ち明けた。


「ん、わかった。旅支度したら行こう」

「思ったよりもすんなりだけど良いのか?せっかく友達も出来たのに」

「ヒデオが一番。それにいつか魔の森にも挑戦しに戻る。だからまた会える」


 俺の悩みはなんだったのかと思うほどに話はとんとん拍子に進んだ。

 トーチにはなんでもお見通しなのか、魔の森への挑戦までバレている。


 それから眠りにつくまでの間、購入すべき物やシルヴァでの思い出について語り合った。





「そうですか、寂しくなりますね。しかしヒデオさんならすぐに三等級まで駆け上がるでしょう。そうなれば噂も多く聞けるでしょうし、それを楽しみにしています」


「某が現役であれば共にしたのだがな。まだまだ粗はあるが其方の剣技には光るものがある。精進せよ」


 俺がサルスタンさんとイェンに別れを告げている間にトーチもファイとケイファに別れを告げたようで三人でぶんぶんと手を振り合いながらこちらへと歩み寄ってくる。


「いいのか?」

「ん、お待たせ」

「多忙なギルド長にはサルスタンさんから話をしてくれるらしいから、次が最後だな」


 ギルドの外に出ると警邏をしている警備兵に居場所を尋ね、東門へと向かう。



「ヒデちゃん行っちまうんだってな。荷物増えちまうけどこれも持っていきな」

「私も一緒に行くの、止めないで」

「トーチちゃんや、夜は冷えるで身体に気を付けるんだぁよ」


 道中幾人にも声をかけられ餞別を貰う。

 討伐の合間に請け負った、店の手伝い依頼で仲良くなったおっちゃんから果物を袋いっぱいに貰う。

 他にも数多くの女性からも引き留めの声がかけられた。

 トーチの方はお世話になった近所のご老人たちに心配の言葉をもらっていた。




 人けのない西門とは違い、入れ替わりの激しい町らしく、東門は行き交う人で賑わっていた。

 さて、あいつはどこにいるかな。周辺をきょろきょろと見渡す。

 おっいた。


「よっ、ちゃんと職務に励んでいるな。感心感心」

「感心」

「おう、お前さんらここを出るんだってな。寂しくなるぜ」


 新規の冒険者であろう人物に道案内をしているウェイドを発見。

 冒険者がお礼を言い、彼から離れるのを待って声をかけた。

 本気で別れを惜しんでくれているようで、軽く鼻をすするウェイド。


「おっさんの汚い涙とかいらないから」

「最後の最後まで酷ぇな。それにずっとおっさんって呼び続けやがって」

「俺達はまたここに戻ってくるぞ。だから最後じゃないしな、おっさん」


 俺がそう告げると涙目のまま俺の背中を一度叩いてから笑顔を見せる。


「そうだな、大陸に名前を馳せて帰ってこい」

「おうよ、俺の名前を歴史に「私も」二人の名前を歴史に刻んでくるぜ」

「期待してるぜ。そんでどこに向かうんだ?」

「まずは南東にあるクロイス王国のクラッドって街。そんでその側にあるダンジョンに行ってみることにしたわ」


 冒険者になってからの憧れ、ダンジョンである。

 深層に潜れば潜るほど強力な魔物が出るらしく、適切なレベリングにもってこいだ。


「クラッドなら腕の良い鍛冶師もいるだろうよ。そんじゃあな。良い旅を」

「おう、またな」

「ん、またな」

「土産に良い酒持って帰ってこいよな。またなぁー」


 ウェイドの大きな声に背中を押されるようにシルヴァの町を出た。

 後ろ髪を引かれるような気持ちもあるが、帰ってくるのだからと自分に言い聞かせる。


 八百屋のおっちゃんから貰った果物をトーチと齧り合いながらもゆっくりと街道を進むことにした。

アクセス数一万超え有難う御座います。今後も拙作の方をよろしくお願いいたします。

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