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0話から4話までの描写加筆、修正等を4月2日から4月3日正午にかけて行いました。内容に変更はありませんので読み直す必要性はありませんがご報告させていただきます。
「お前さんらにお勧めの宿屋は二件だな。価格は平均的でサービスや飯も普通の西風亭ってすぐそこにある宿屋。あとは価格は良心的だが飯が不味くて壁も薄い陀水庵って宿屋だ。」
ギルドを出るとウェイドは宿屋の方を指し示す。荷車は預かってもらい、トーチの荷物と野菜を大風呂敷で包み持ち運ぶ。
「なんだ出入りの多い町の割には少ないな。それ以外は良くないのか?」
「それなりに数はあるんだがな。あとはその二つ以上に酷いか、価格がお高い所だな。だが高い宿屋ってのは貴族様方が泊まられる事も多いから薄色お断りだったりすんだよ」
トーチに気を使ったのか後半は俺の耳元で囁くという気遣いをしてくれた。
確かにトーチから聞いていた話に比べたら町でのトーチへの視線はマシだとは思う。それでもやはり俺の色が目立つのか、比較をして下卑た表情を浮かべる者もちらほらといる。
当の本人はもっと苛酷な状況を知っているからか、辛そう所か少し楽しそうにも見える。それでもやはり同伴者として気持ちのいいものではない。
俺は目立ちたがり屋な気があるが、トーチの為にも少し抑えた方が良いかもしれないな。
「おいおい、色のきたねぇ女だな。面は悪くなさそうだから遊んでやrぶへぇぁっ」
「おぉー、人相手だとよく飛ぶなぁ」
ギルドから出て来た冒険者証をつけた男がトーチの肩に触れようとしたので、身体強化魔法をかけてぶん殴る。体術スキルも三になったから前の世界では考えられないような飛距離が出た。六等級のバッジをつけていたが案外大したことはなさそうだ。ピクピクと痙攣はしているものの起き上がる気配はない。
「冒険者相手だからセーフだよな?」
「お、おう。お前おっかねぇな。頼むから俺ら兵士の仕事は増やさないでくれよ?」
「おう、善処すっから。近いし今日は西風亭って所にしようか、トーチ」
「ん、そうする。ありがとう」
ウェイドは、本当かよと疑いの眼差しを向ける。目立たないようにしないとな、うん。
トーチの方は特に変化がなく、同意とお礼を述べると財布代わりの巾着の中身を数え始めた。俺も売却額が来るまでの金が欲しいな。
「なぁおっさん。絡んできたあいつから迷惑料を貰うのって罪になるのか?」
「だぁーれがおっさんだ誰が。お前と少ししか変わらんだろうが。まぁ冒険者側が現在一般人のお前さんらに絡んだんだ、証人も多いし構わんだろう。普通一般人はそこまではしないけどな」
なるほど、普通はしないのか。俺普通って言葉嫌いなんだよね。
倒れている冒険者の側まで歩いて行き、胸元を探る。あったあった。依頼帰りで報酬を受け取ったばかりなのか男の巾着はそれなりに重い。
金貨五枚と銀板が三枚、銀貨が三枚に銅貨が三枚。よし、一番数が多い金貨を二枚いただいて同じ枚数にしてやるか。
「トーチ、おっさん、これで飯食いに行こうぜ」
「お前、金貨二枚は取り過ぎだろう。流石に不憫だ」
「俺のトーチに手を出そうとしたんだから当然だよ。な、トーチ」
「ん、嬉しいけど金貨二枚は可哀想」
指で金貨を挟んで二人に見せると顔が引きつっていた。詳しく聞くに日本換算で銅貨が百円、銀貨が千円、銀板が一万円、金貨が十万円らしい。あいつ五十三万も持ってたのか不用心だなぁ。
六等級でその所持金は恐らく全財産であろうというウェイドからの指摘に少し可哀想なことをしたかとも思ったが、男の胸ぐらを何度も触る趣味はないため足を宿屋の方へと向ける。
「鬼だな、鬼」
「バロンオーガを殺した俺は鬼より怖いぞー。それに全部取らなかっただけマシだろ。警備兵公認なわけだし。嫌なら酒も飯も自分で頼んでな」
「本当に恐ろしいなヒデオは。まぁでも酒に罪はないだろ。それにお前にも一応罪はない」
「一応ってなんだよ、この不良兵士」
二人でけらけらと笑いながらトーチも連れて歩き出す。報復とかされたら面倒だし、明日見かけたら今度は俺から絡みに行こうかな。
「おい、お前悪い顔してんぞ」
「いやいや、俺の顔が悪いってなったらおっさんは化け物じゃねぇか」
「そういう意味じゃねぇよ!はぁ、本当に愉快な奴だな」
西風亭に入り、空き部屋を尋ねるとシングルが二部屋とダブルが一部屋空いていた為、ダブルの部屋を頼む。今更別々に寝る意味もないしな。前払いの為トーチが巾着を出そうとするが、先ほどの金貨を俺が素早く出すことで抑え込む。
「銀板九枚と銀貨一枚のお返しね。それと鍵。今が夕餉の時間だから荷物をおいたら食堂へ行きな」
「いや、今日は外で済ませるから平気だよ。鍵は持ってても良いのか?」
「そうか。食事の差額は返金できねぇぞ?鍵はこっちが保管するから戻ってきたら声をかけてくれ」
それらに了承して外へと出る。食事処を探しているであろう人の群れを見つめながらウェイドお勧めの酒場へと向かう。
「やっと飯と酒をかっ食らうことが出来るぜ。覚悟はいいか?」
「おう、世話になったからな。好きなだけ飲み食いしてくれ」
テーブルにつくと早速酒と料理を頼みまくるウェイド。俺もウェイドに任せて幾つか料理と酒を頼む。トーチには果実水かミルクを勧めたのだが酒を飲みたがった為、同じものを頼んだ。この国では十五歳で成人とされるらしい。
「カァーッ、仕事終わりはやっぱ酒だよなぁ」
「いやぁー久しぶりの酒だから五臓六腑に染み渡るなぁおい。そこまで冷えてはねぇけど美味いっ!」
「……クフッ。美味しい」
このアルコールが入ってくる感じが堪らない。俺が一杯を飲み干すとウェイドは既に三杯目へとさしかかっていた。チラリとトーチを見ると小さくゲップをしながらもコクコクと飲み進めている。意外と酒には強そうだ。
「にしてもよぉ、お前さんらダブルだなんて本当に仲が良いんだなぁ。なんで俺はモテねぇんだ、なぁヒデオぉ」
「仲良しに決まってんじゃねぇか、なぁーっ」
「なぁーっ」
もうトーチも五杯は飲んだであろうに未だに酔った様子はなく、俺の真似をする可愛い姿で健在している。ウェイドはもう何杯目だろうか?十六を超えてからは数えていない。
「おっさん良い奴だから人気はあると思うぞ。ただやっぱり年齢がね。な?」
「な?じゃねぇし、おっさんでもねぇ!お前と二つしか変わらんだろうが。やっぱり顔か?顔なのか?」
「まぁ俺は二十くらいに見えるだろ?そんでおっさんは若く見ても三十五くらいだ。それらを踏まえて俺から言えることは一点のみ。……現実って残酷」
「ちくしょうっっ!!」
泣き崩れるように見せて店員に店で一番高い酒を注文するウェイド。こんにゃろう。
そろそろ腹が限界だな、食い過ぎた。トーチも先ほどからお腹をさすりながら満足そうな表情を浮かべている。
「おっさん大丈夫か?家まで送ってやろうか?」
「馬鹿野郎、こんなのまだ序の口よ。一人で帰れるにきまってんだろうが。明日の夕暮れに俺もギルドに顔出してやっからお前らも気をつけて帰れよ。そんじゃあな、ごちそうさん」
俺が思っていたよりもしっかりとした足取りで手をひらひらさせながらウェイドは去っていった。
俺らは俺らで今日あった出来事を話し合いながら宿屋へと手を繋ぎゆっくりと戻っていった。
受付で鍵と一緒に別料金の手桶とお湯、布を受け取って部屋に入る。
一緒に拭き合いはしたが、昨日が初体験のトーチに連日はきつかろうとそのままベッドで休むことにした。
翌日。夕方まで町内観光をしようと誘い、連泊料金と鍵を受付に渡してからトーチと外へ出た。
屋台などの出店を周り、食事や小物の買い物をする。野菜を買わないかと各屋台で声かけをすると、良い野菜だとトーチの野菜は飛ぶように売れて完売した。
その後も店を巡り、良心的な値段の服屋も見つけたため、数着ずつ二人分の綿の服を購入した。店内には気に入ったデザインの絹の服もあったので、売却金が余れば購入をしようと決意した。
「ようやく見つけたぞ!てめぇ」
「え?人違いじゃありませんか?」
「こんな濃い色した奴が他にいるか!昨日のお礼をしたくて探し回ったんだぞ」
昨日の今日で来るとか浅慮な奴だな。とぼけてみたが流石に詐術スキルは発動しなかったようだ。
昨日殴り飛ばした六等級冒険者の後ろには四名の八等級冒険者が控えており、皆一様に憤怒の表情を浮かべている。
「お礼だなんてそんな。お蔭さまで美味しいご飯を食べて、こんなに買い物も出来ました。迷惑料ありがとうございました」
「ふざけやがって!あの金はな、俺達パーティの活動資金なんだよ。返しやがれ」
「わかりましたぁ。とか言うと思った?元はあんたが絡んだのが悪いんでしょ?何そんな面白い顔で面白いこと言っちゃってんの?」
トーチに手を出そうとした事を棚に上げて何言ってるんだこいつ。
少し煽ってみると茹蛸のように顔面を染め、全員が抜剣して構える。
町を行き交う人々は悲鳴をあげたり面白がったりしてその場から距離をとる。
トーチに少しの間だけ荷物をお願いして、軽くストレッチをする。
「昨日痛い目見てまだ懲りないの?それにまだ等級審査受けてないから俺一般人なんだけど。いいの?」
「うるせぇ、てめえをボコボコにしたらすぐにこんな町出てやらぁ。そんで闇奴隷商にでも売りさばいてやるよ。超高額で売れるだろうし問題ねぇ」
「ほーん、そっか。頑張れよ」
やっぱり裏稼業みたいなのも存在するんだな。さっさとウェイドのおっさんら警備兵達が来てくれると楽なんだけどな。今から警備兵呼んでくるって声も聞こえたからまだかかるのかもしれないな。
全員が殺意むき出しで剣を向けるものの、死んだ状態のオルトロスにも劣る圧力だ。生命力も魔力も満タンだしなんとでもなるだろうと楽観視する。
「兄貴、こいつ舐めてますぜ。ブチのめして連れの女を目の前で甚振ってやりやしょう」
「よし、お前からだな」
身体強化魔法を強めにかけて駆け出す。急な展開に着いてこれない奴らをしり目に一人目をぶん殴る。それらの行動を終えても未だ動くことすら出来ないでいるもう一人に身体を流しつつも回し蹴りをかます。
「ガルザっ、ゾルザっ。てめえ、装備もねぇくせに粋がりやがって」
「あん?装備ならお前の仲間が貸してくれたぞ」
蹴り飛ばされた奴が落とした剣を拾い、そのまま残り二人の八等級も剣の腹でなぎ飛ばす。
「バンバっ、ゴンバっ。もう許さねぇぞ。ぶち殺してやるっ!」
「全員似たような名前で憶えにくいったらねぇな。それに許されねぇのはお前らだよっと」
唐突に殴り飛ばした昨日とは違い、警戒していたのか八等級の奴らよりも明らかに動きが良い。まぁただそれだけだが。
斜に斬ろうとする動きを見切り、そのまま腕を取り一本背負いを決める。
「ガハァッ」
「あれま、受け身取れなかったなら苦しいよな。すまんすまん」
強く背中を打ち付けられた六等級冒険者は息をするのも苦しそうだ。
さて、この後どうしたもんかなと考えていると、観衆から盛大な拍手と賛辞を送られる。
「やるなぁ兄ちゃん」
「格好いいわぁ、今夜どうかしら」
「そいつらの素行の悪さには皆困ってたんだ。ありがとよ」
どうもどうもと手と頭で返事をしながらトーチのもとへと戻る。
親指を立てて俺を讃えるトーチの手に拳を軽く触れさせて、それに応える。
「冒険者に襲われてる一般人ってやっぱりヒデオかよ」
「おうよ。お勤めご苦労、おっさん。あとは頼んでもいいですかな?」
「はぁ、お前は本当に。仕方ねぇな、こいつらは捕縛するがお前も一応手続きとかがあるから一緒には来てくれ。安心しろ、証言も多いしすぐに済む」
人垣をかき分けて警備兵を数名引き連れたウェイドが現れた。察しが良くて助かる。
人を率いる立場なのかと少し驚いたが口には出さないでおく。
面倒な事態にはならなさそうなので言われるがままに着いていくことにした。




