事の真相
「――街がカルトに乗っ取られていた、だと……!? そ、それで私や団員達は、無意識にこの場所に……捕まえようとしていたカルトに操られるとは、なんと情けないっ……」
「くっ、オレがいながらなんて有様だ! またやらかしちまった……!」
街が乗っ取られていたことを知ったエルミナとヴァネッサが、それぞれ悔しさを口にする。
「我ら<純白角>騎士団が操られていたなんて……」
「そ、それも、後一歩で後ろから……い、いえ、自殺させられそうだったなんて」
「それを、フリーダが救ってくれた……。確かに、今の状況や意識を失っていたことと合致するわね」
<純白角>騎士団の面々も、驚きつつも合点していた。
現状は把握出来ただろう。
本題はここからだ。
「言え、ブタドス。フリーダとその父親にしたことの、全てを」
「ド、ドゥフ……フリーダちゃんのパパは、僕がやりましたぁ」
ブタドスが罪を認める。
俺は短剣を収めていた。無理に白状させているわけではないという証明のためだ。
女騎士達は顔を見合わせる。
「この男が……本当に?」
「街を操った人間よ。一人の騎士を殺すことも、きっと出来るに違いないわ……」
女騎士達はブタドスこそ真犯人であると認め始めた。
俺はさらに追及する。
「どうやって殺した」
「わ、罠にはめたんだよぉ、催眠術でぇ。その頃に催眠アプリを手に入れてぇ、試運転も兼ねてやってみたら上手くいって、それで――」
ブタドスは一息に言った後、軽い調子でこう続けた。
「自殺させたんだよぉ。こう、自分で喉を切るように命じてぇ」
「っ、父上……!」
フリーダは泣いた。
自分の愛する家族がそうやって殺されたと知ったら、皆ならどうなる?
遠征先で謀殺されたと前に話していたが――そうやって父は死を迎えたと、フリーダは聞かされるのだった。
「……殺害方法はもういい。動機を話せ」
俺はフリーダの心中を察して、次に移った。
「ドゥフっ。そ、それは、僕がフリーダちゃんに一目惚れしたからだよぉ。フリーダちゃんとパコパコしたくてぇ、まず騎士団から追い出そうと思ってぇ。……でも僕は、男の物になってない女の子じゃ勃たないからぁ、結局純潔なフリーダちゃんは、パパさんを殺す前には飽きちゃったんだぁ」
身勝手で、横暴な男の発想だった。
俺は拳を握りしめ、怒りが爆発しそうになったがこらえた。
ここで殴ってしまったら、無理に白状させたと印象づけてしまうからだ。
「もう十分分かっただろう。この男がどれだけ醜い欲望を持ち、暴虐を働いてきたかを」
「ああ、もうやめてやってくれ……そいつのためじゃない、涙の止まらないフリーダ君のためにだ」
「ぅぅ、父上……父上ぇ……!」
止めたのはエルミナだった。
泣き止まないフリーダを、ジルとオリヴィアが抱き寄せる。
フリーダだけでなく、ジルとオリヴィアも一緒になって泣いていた。
「フリーダ、こいつをどうする」
「マ、マルク……私はっ……」
俺は最後に聞く。
すると、ブタドスが俺に上目づかいでこう言った。
「い、命だけは助けてよぉ。も、もうこっちは両手なくしてるんだぁ、十分でしょぉ――チラリ」
「――今、目線で近くの女騎士に催眠をかけようとしたな」
「よ、読まれちゃったっ――ぎゃああっ!?」
ブタドスは冗談めかした笑顔を見せたが、直後に絶叫した。
俺が短剣でその両目を切り裂いてやったからだ。
「俺は忠告している。逃げようとすれば、もう一発ぶん殴るとな」
「ひぃ、ひぃぃぃっ!! 殴るってレベルじゃないよぉ!!」
「黙れ、わめくな。両目の感覚もなくなって、痛覚遮断すらもう使えないか」
「い、痛い、痛いよぉぉぉ! も、もうやめてよぉぉぉ!?」
「……お前はそうやって命乞いしてきた者を何人殺してきた。何人犯してきた。俺の元仲間も、そうやって」
俺は感情的になるのを抑えながらも、そんなことを口にした。
俺は今一度、フリーダに聞く。
「フリーダ、こいつをどうするんだ。今ここで殺すのか。それとも……公正な場で裁くのか」
「私は……私は、騎士だ。正義の騎士なんだ」
フリーダは唇を噛みながら続ける。
「だから、今心に渦巻いている感情だけで判断してはならないんだ。だから――ここでは殺さない……!」
フリーダの本音は逆なのだろうと、俺は理解出来た。
被害者であるそのフリーダが耐えるというのなら、俺も耐えるしかあるまい。
そう思って、もう一度短剣をしまおうとしたのだが。
「待って、途中でフリーダには飽きたのよね、フリーダの父を殺す前に」
一人の女騎士がブタドスに聞く。
最後のその尋問が、全てを揺るがした。
「ならどうして――わざわざお父さんを殺したの? 飽きた時点ではまだ健在だった。殺す必要なんてなかったようにしか」
「痛い、痛いぃぃぃ! そ、そんなの決まってるじゃないかぁ!」
ブタドスが答える。
「〝ただの腹いせ〟だよぉ! 意味なんてない、ただの腹いせで、フリーダちゃんのパパを殺してやったんだよぉ!」
「っ! マ、マルク、今すぐそいつを――」
「君が背負うことはない」
俺は、フリーダが間違いを犯す前に。
俺のこの手で、ブタドスに引導を渡していた。
「か、かぺぺ……?」
「こいつの命をいつまでも、君が背負うことはないんだ」
短剣を真っ直ぐ、脳天から突き刺して殺すのだった。
非道な罪人だったとはいえ、この場で残酷に殺したことに、周りの空気が一気に凍ったのを俺は肌で感じた。
女騎士達は迷った挙げ句に、剣を手に俺を捕らえようとしたが。
俺は、血にまみれた手のままに、言った。
「俺は、これを罪と認めるつもりはない」
「ああ、マルク君。これは罪などではないよ。――正当な裁きだ」
エルミナがそう言うと、騎士団も、そして他の全ての人間も認めた。
重々しい空気の中で、最初にその空気を壊してくれたのは、フリーダだった。
「マルク……私のために、ありがとう」
「礼を言われるようなことじゃない。ただ少しは――気が晴れただろう」
フリーダは、笑ってくれるのだった。
これで全てが丸く収まった。後は事後処理くらいか。
――そう思ったその時。
『よく聞けビアンツの反逆者共よ! 我が王は反逆者を決して許しはしない! 我々王国軍は、武を持って貴様らを制する!』
王国軍だ。
街の外からだろうか、拡声魔法で開戦を迫る声が聞こえるのだった。
「やれやれ……もう一仕事しないといけないか」
その言葉から、王国軍は止まりそうになさそうだ。
最後に大きな仕事が残ってしまったな。




