大逆転の催眠術師
「し、し、信者君何ぼーっとしてんのっ! お、女騎士団を後ろから犯すんだよぉ! そうすればマルク君は止ま――」
「遅い。準備不足だ、素人め」
信者達がもう一つの脅しを試みようとしたが、遅い。
慢心して服を着たまま――つまり、挿入の準備が整っていなかったのである。
「その汚い手で、私の元同僚の尻に触れるな! 魔王の手先め!」
「無理矢理ヒドイことしようとして……! メタメタに蹴っ飛ばす!」
「悪の所業もここまでです! この非道な行いは神も決して許さないでしょう!」
「女性を物のように扱うな。お前達の神が許そうとも、紳士の俺は許さん」
そんな間を与えている間に、Tier5へと駆け上った四人が一掃した。
すると信者が命乞いをし始めた。
「た、助けてくれぇ! 俺達は、ただ教祖様の言いなりに――」
「嘘をつけ。今までも散々享楽の限りを尽くしてきたと聞いている。……次にフザけたことを口にしたら、殴るだけでは済まんぞ」
「ぶふぇっ!?」
このカルトが何をしてきたかは、以前エルミナに聞いている。
非道の限りを尽くしながら助かろうとする信者を、俺は思い切り殴りつけて気絶させていた。
そしてそのエルミナとヴァネッサも――
「うっ……わ、私は、一体……? な、なんだこの格好は、どうしてアンダーウェア一枚姿に!?」
「く、ここはオレのギルドか……? 確か、バカンス村から戻って、その後意識が……?」
「ドゥフっ!? さ、催眠が解けちゃってるぅっ!?」
催眠が解けたのだ。
催眠アプリを奪われたことと、何よりブタドスの身に異変が起きたことが大きいだろう。
催眠術は低位のスキル。ちょっとしたことで解けてしまうのだ。
そしてその輪は、フリーダの元同僚、<純白角>騎士団にも広がって。
「あ、あれ、私、今までどうして……?」
「ここは冒険者ギルド? 確か、カルトを捕まえようとしていたはずよね……?」
「って、や、やだみんな、アンダーウェア姿で……って、団長まで!」
「待って! ――みんな見て、フリーダがあそこに」
「フリーダですって……!? 『父殺し』のフリーダが、どうして私達の前にっ!」
「っ」
女騎士達が自我を取り戻すと、騎士団を追い出されたフリーダを見つけて指をさした。
父殺しと言われたフリーダは、思わず目を逸らしてしまっていた。
「――そらっ、止まれ!」
「痛いぃっ!? や、やめてよ叩かないでよぉマルク君っ!」
「お前が逃げようとするからだろうが。大人しくするつもりがないなら、もう一発ぶん殴るぞ」
「わ、分かった、分かったよぉ! 降参するぅ!」
俺はそんな中で、きっちりと仕事をこなす。
地面に尻餅をついたブタドスに短剣を突き付けて、降伏させるのだった。
「こちらは終わった。後は――」
「フリーダ、父殺し……よくも私達の前に姿を現せたわね」
「ち、違うんだみんな、それは……」
「待て団員達よ、フリーダ君は無実で! くっ……うぅ、どういうことだ、力が……!」
フリーダに疑いの目を向ける女騎士達。
エルミナが団長として止めようとするが、催眠の後遺症か、あるいはフリーダに受けたダメージか。
上手く言葉を発することが出来なかった。
俺の仲間達――ジルとオリヴィアが擁護する。
「ちょっとあんた達! フリーダは街やあんた達を守るために必死に戦ったのよ! そんな人間になんて目を向けるのよ、ふざけないでっ!!」
「フリーダさんを責めるのは……もしも神が許したとしても、私が絶対に許しません! フリーダさんは、気高くて、なのに気さくで……とてもお優しい方なのですから!」
「街を? 何を言って……とにかく、父殺しについては証拠が全てを物語っているの。残された証拠やフリーダの弱点を鑑みれば、犯人はフリーダ以外には――」
「だったら、この場で尋問すればいい」
言い争う彼女達を見て、俺は言った。
地面に膝を付いていた催眠術師を前に出す。
「ブタドス、これまでのことを全て話せ。街にやったことと、それから――フリーダにやったことの、全てを」
無実を証明する機会が訪れた。




