◎オリヴィア視点 頂
「メイススキルTier4・ブルスマッシュ!」
「うぐっ! フ、フフ、ですが――神聖術スキルTier4・『セイクリッド・ヒール』! コレデ元通り」
私はメイスで一撃を与えますが、決定打にはなりませんでした。
「うぅ、どうにもやりにくいですっ!」
というより、全力で戦えてはいませんでした。
街のためにと身を賭して戦うつもりでしたが、現実は簡単ではありませんでした。
これが経験の差なのでしょうか、無実の人を殴ることにためらいが生まれていたのです。
「教会を奪おうとしたあの方達でしたら、遠慮なく出来たのに……!」
「フフ、分かっていまスヨ。アナタも私と同じ神聖術使い、攻撃は苦手なのでショウ」
「に、苦手ではありません! 技名だって一緒に考えました、私だって戦えます!」
「フフ、強がりヲ。回復も攻撃も扱える天才なんて、いるわけアリマセンヨ! ――神聖術スキルTier2・セイクリッド・アロー!」
ユーニスさんが攻撃を仕掛けてきます。
光の矢が私を襲いますが、かわしたり叩き落としたりして完全回避しました。
攻撃を防がれたユーニスさんですが、余裕たっぷりに笑います。
「デスガ私は違います。スコし前に無能な男と組んでいたもので、多方面のスキルに手を出してイマシタ。バフ、デバフ、そして今の攻撃スキル! Tier2ではありマスガ、児戯に等しいあなたのメイス遊びデハ、ワタシには到底敵いマセンヨ!」
「遊びではありません! ダイエットですっ!」
再びユーニスさんが光の矢を飛ばし、私は叩き落としたりして回避します。
これでは――らちが明きません。
少しでも早く、マルク様とフリーダさんに合流しなければなりませんのに、こんなところでモタモタしていては、街も何も救えません。
「加えてユーニスさんと私は互角。このままでは街は……マルク様は……!」
「アナタ、ナマイキね。私の攻撃を生意気にも防ぐナンテ。ナマイキよ。キズ一つついていないなんて、実に生意気デスワ!」
「私はユーニスさんに勝たなくてはならないのにっ!」
光の矢が飛んできますが、もう見切りました。ただ体をひるがえすだけで回避してみせます。
互角な私達は、お互い傷一つつかないまま時間だけが過ぎていきます。
「ナマイキ、ナマイキ! サッキまではメイスを使ってイタノニ、ドウシテ今はそんな簡単に避けてみせるのデスカ! ナマイキよあなた、あの催眠術師を思い出シマスワ!」
「催眠術師――マルク様っ」
『君のやりたいままにやれ』
私はユーニスさんの一言で、マルク様に言われたことを思い出しました。
マルク様は神の伝道師。
「私は、何をしたいのですか。この街をどうしたいのですか。目の前で操られているユーニスさんを――どうしたいのですかっ!」
「ナニをブツブツ言っているの! シネ、ナマイキ女!」
「私は――あなたを救いたいのです!」
そうです、そうでした。
私はユーニスさんに勝ちたいのではありません。
救いたい――ただそれだけなのです!
私の視界が晴れたその瞬間、奇跡は起こりました。
「ナ、ナンダ、頭から――角!?」
「この力……まさか、これが私のっ!」
私には見えませんが、確かに感じます。
頭から、角が生えたのを。
「終わらせましょうユーニスさん。私は、あなたを救ってみせます!」
私は少しだけ地面から浮いていました。
その状態で、決着のスキルを放ちます。
「神聖術スキルTier5! 『救済の炎!』
「ソノ角、まるで――ぎゃあああっ!」
私は思うままに、メイスから炎を放出させました。
黄金に輝く炎がユーニスさんを焼きますが、この炎は聖なる炎。
実際に肉体を焦がすような炎ではありません。
「ア、ア、ア……ワタシは、私、は……ジーク、様……」
「ユーニスさん!」
炎によって浄化されたユーニスさんが意識を取り戻しました。
私は地面に降りたつと、倒れ込みそうだったユーニスさんを抱き止めます。
「あなたの悪夢は終わりました。今はゆっくり……お休みください」
「暖かい……」
ユーニスさんが意識を失うと同時に、ジルさんが駆け寄ってきました。
「――やったわねオリヴィア、あんたも遂にTier5に辿り着いたんだ!」
「ジルさん! はい、これで私もどうにかS級になれそうですっ」
私はユーニスさんをゆっくりと、道の端に下ろしました。
出来ればちゃんとしたベッドまで運びたかったのですが、今はそんな余裕はありません。
「その角があんたのTier5なんだ……なんか、あたしと被ってない?」
「す、すみません、無意識に真似てしまったのでしょうか? マルク様に、君のやりたいようにやれと言われたのを思い出して、無我夢中で……」
「別にいいんだけど……厳しい修行をしたあたしがバカみたいだなって……」
「ええっ!? そ、そんなつもりは!」
「ウソ、冗談よ! ――あれ、角以外にもお尻から何か生えて……尻尾? あ、消えちゃった」
ジルさんは言いますが、私は尻尾の感覚までは掴めませんでした。
「もしかして、まだ完全じゃないんじゃない?」
「もっとダイエットが必要というわけですね! ふんす!」
私が新たなスキルに気合いを入れると、ジルさんが話を戻します。
「ところで今のって、催眠を解いたのよね? もしかして他の冒険者も解けたりする?」
「いえ、難しいでしょうね……そう何度も使えるスキルではありません。ふぅ」
「あんたがそんなに疲れてるなんて、相当消耗激しそうね……。やっぱり、大ボスを倒すしかないわけか」
日頃のダイエットで鍛えている私ですが、今の私ではまだ乱発は難しそうでした。
目的はやはり、変わりません。
「行こうオリヴィア。マルクとフリーダに合流するわよ!」
「はい! 必ず街を救いましょう!」
そうして私達は二人の冒険者に勝利を飾り、マルク様と合流するため走りだしました。




