立ち塞がる実力者
「見ろマルク、ギルドはすぐそこだ! ――しかしどうして敵がいないんだ!?」
俺とフリーダは走る。
この辺りはもう本陣だ、敵が大勢いてもおかしくなかったが、全くいなかった。
理由は簡単だ。
「ここに敵が集中していないのは、残る二人がここに配置されているからだろうな」
「ソウイウコトだぜ、マルク」
「ヨクキタね、フリーダ君。待っていタヨ」
立ち塞がったのは、ギルドマスターのヴァネッサと、<純白角>騎士団団長のエルミナだ。
そう、この二人がここに配置されているから、他に誰も必要なかっただけなのである。
「団長殿に、ギルマスも……!」
「やはりいたか。作戦を見破られるとしたらこの二人だと想定していたからな。……そちらの当ては少し外れたが」
この二人に遭遇する時点で俺達『最後の冒険者』は四人揃っているはずだったが――ベラとユーニスと思わぬ再会を果たしてしまったからな。予定はずれてきている。
と、なると。
「ココカラ先は通さねぇぜお二人さん。通りたければオレ達を倒してイキナ」
「イマの私達は教祖様に強化されている。次期S級の君達相手だろうと、引けはトラナイヨ」
「く、来るぞマルク、どうするっ」
「やるしかないだろう。俺達二人だけで」
俺達だけで戦うしかない。
S級に匹敵するフリーダがいるとはいえ、相手は冒険者の街のギルマスと、そのフリーダが所属していた騎士団の団長だ。
そこにバフまでかかっているとなれば、厳しい戦いになるのは想像に難くなかった。
ヴァネッサとエルミナがそれぞれ得物を抜く。
巨大な両手斧に、細身の細剣だ。
二人は裸ではなかった。
普段の服・装備であり、すなわちそれは本気ということだった。
「ドゥフフ、やうやく来たんだねぇ、フリーダちゃん、マルク君」
「――ブタドス。宣言通りギルドで待っていたか」
「ま、魔王……!」
そこに、騒ぎを聞きつけてかギルドの中からブタドスが現れた。
フリーダは親の仇を前に、一瞬震えたが。
「好きには……させんぞ魔王! この街は私達が必ず救う!」
「ドゥフ!? なんかちょっと変わったかい、フリーダちゃん?」
強い信念と仲間を思う心で、闘志をみなぎらせていた。
懸念材料はなくなった。
「ブタドス、お前の悪行もここまでだ。大人しく女性達を解放するならば、罰を考えてやってもいい」
「えぇ、何言ってるのマルクくぅん、状況をよく見てみなよぉ。ギルマスと騎士団長に囲まれて、街の冒険者も全部僕の味方。この状況で君から僕に脅しをかけるのぉ? ――ドゥフフ! マルク君、君って案外おバカなんだねぇ!」
「降伏はしないんだな。――良かった、これで思う存分お前をいたぶれるな」
俺は余裕たっぷりに言ってやった。
ブタドスは頭を横に振って呆れた様子で聞き流す。
確かに状況は相手有利だろう。だが俺には見えている。
勝ち筋がな。
「ドゥフフ、その余裕が崩れるのが楽しみだぁ。さぁヴァネッサちゃん、エルミナちゃん、そこの二人を殺さない程度に――」
「やり合う前に一つ聞いておくことがある」
「んん? なぁに、マルク君」
「……ジークはどこだ。ベラとユーニス――裸ではない女性冒険者と一緒だったはずだ」
「ドゥフ? あぁジーク君、ジーク君ね。ジーク君なら――」
ブタドスは思い出したかのようにその名を口にすると、俺のそばを指さした。
そこには――
「そこの路地裏に捨てたよぉ。死んじゃったから」
「っ……!」
ジークの死体が転がっていたのだ。
細い路地裏の隙間のような場所で、壁に背を預けながら。
絶望に暮れた表情で、変わり果てた姿で死んでいたのだ。
「もしかしてお友達だったのぉ? 面白かったなぁ、捧げ物の途中まではすごいわめいていたのに、最期はプツンと糸が切れたように静かになっちゃうんだもん! ドゥフ、ドゥフフフフ!」
「……友達なんかじゃない。むしろ嫌いになった奴だ。だが――」
戦闘態勢に入っていた俺は、視線をブタドスに戻した。
「最高に気分が悪いな」
俺の腹は、皮肉が言えないほどに煮えくりかえっていた。
「マルク、大丈夫か……? あなたは冷静でいてくれ、でないと私一人ではっ」
「ああ……そうだったな。自分を見失うところだった、ありがとう、フリーダ」
フリーダは親の仇を前に必死に信念で戦っている。
ジルやオリヴィアだって、街を救おうと命を賭けてくれた。
それら全てを無駄にはしない。
「ドゥフフ、いい仲だねぇ。次は君がジーク君みたいになるんだよぉマルク君! フリーダちゃんや他の女の子が食べられてる前で、惨めに泣き叫びながら死ぬんだぁ!」
「そんなことは私がさせない! 決着を付けるぞ、魔王!」
「催眠術師は万能じゃない。それを分からせてやろう、来い」
「ドゥフ! ――さぁやっちゃって、ヴァネッサちゃんにエルミナちゃん!」
ブタドスが指示を飛ばすと二人の実力者が武器を構える。
魔王の前の最後の関門が立ち塞がる。




