お色気作戦!
「はぁ、目の前に裸の女が山ほどいるってのに手を出せねぇなんて、気が狂いそうだぜ」
「我慢しろ、教祖様に見つかったら終わりだぞ。それにお前も体験してるだろ、絶食後の捧げ物の気持ちよさをよ」
「なぁに、女騎士共を捕まえちまえば絶食期間も終わるんだ。そうしたら街の女も、その女騎士も食い放題よ、くひひ」
遠めではあるが、信者三人の会話がかすかに聞こえる。
今すぐ叩きのめしてやりたいところだったが、こちらも今は我慢だ。
すると、そんな信者の前に三人の美女が躍り出た。
「う、うふん、そこの信者さん、今暇かな?」
「うおっ!? な、なんだこいつら女のくせに服着て――ってか、話してた女騎士じゃねーか!?」
「せ、せ、せ、戦闘準備――」
「セクシーポーズ、セクシーポーズ……えいっ」
慣れない言葉遣いでまず男を誘ったのはフリーダだ。
腰をくねっと曲げて自分なりのセクシーポーズを決めている。
信者達は目標が現れて戦闘準備に移りかけたが。
「お、お待ち下さい、私達は降伏しに来たのです。この敵の数ではとても太刀打ち出来ないと気付いたのです」
「こ、降伏だと? 確かに、普通は抵抗をやめるよな……」
「待て待て油断するな、罠かもしれねぇぞ。もう一人の男はどこに――」
「う、嘘ではありません。その証拠に武器は持っていませんっ」
続くオリヴィアの言葉で準備の手が止まる。だがまだ完全に警戒は解かれていない。
これはお色気作戦だ、もう一押し必要だ。
オリヴィアは「必要でしたら――」と言うと、修道服の上からバストを手で隠す仕草をして、恥ずかしがりながらこう続けた。
「さわさわ、さわさわして――『身体検査』、してもらって構いません」
「し、身体検査プレイ……! ごくりっ」
「こ、このえっろいカラダをさわさわしまくっていいのかっ!」
「ま、マジで降伏するつもりなんじゃねぇか? ど、どうするよ」
俺の存在を都合良く忘れ始める信者達。明らかに迷い出している。
あと一押し。
最後に決めたのは、一番幼い格闘娘だ。
「見られなければ問題ないの? ……だったらこっち来て。そこの裏で、『イイコト』――しよ?」
上目遣いで瞳をうるうるさせながら、最高の一撃を見舞うのだった。
まぁこちらからではしっかりと視認出来るわけではないが、きっとうるうるだろう。
肩も小さくさせ、こんなか弱い少女に誘われたらたまったものではない。
照れはしていたが、三人の中では意外と一番に上手い誘い方を見せるジルなのであった。
「し、仕方ねぇ女共だぜ、そこまで言うなら……ヤってやるかっ!」
「教祖様は寛大なお方だ、先に手を付けたくらいならむしろお喜びになられるはずだしな」
「っていうかもうガマンの限界だ、どこでヤらせてくれるんだ!?」
「……こっちよ、着いてきて」
案内するジルは嫌悪感を隠しながら、裏の道へ誘っていく。
裸の冒険者も誰もいない暗い小道。
六人の団体が、徐々に徐々にと近づいてきて。
「どうもこんにちは。美人局だ」
「なっ、男!? ハメるつもりが、はめられたっ!?」
俺の場所まで案内されるのだった。
女性陣が信者達に向き直る。
「も、もうセクシーポーズはしないぞっ、好きな男性の前以外ではっ!」
「ああ~っ! これでやっとスッキリ蹴飛ばせるわ! あたしの恥ずかしい姿見た罰を与えなきゃね!」
「めっ、です!」
武器はこの小道に隠していたのだが、それも取らずに。
S級目前の彼女達は信者三人を、素手でボッコボコにするのであった。
「みんなすまなかったな。だがこれでブタドスのところまで辿り着ける」
「べ、別にいいんだマルク、これも囚われた皆のため。皆を助けるためならなんだってやろう!」
「ちょ、あんたもうそのセリフ言うのやめて!? また何やらされるか分かったもんじゃないんだからっ!」
「大丈夫だ安心しろ。他に策はない」
「ほっ、です……」
フリーダが墓穴を掘りかけていたが、正真正銘これが唯一の策だった。
俺達はわざと負けたことを装うため、準備する。
武器は信者に持たせ、女性達の胴を縄で軽めに縛った。
俺だけは一応そのままだ。何かあれば即座にバフをかけられるようにな。
手を頭の後ろにでも組んでおけば、素人集団なら騙せるだろう。
「お、お前達を連れて行くだけでいいんだな? そうすれば、俺達は殺されないんだよな? な、なんでもするから殺すのだけはやめてくれぇっ!」
「勝手な奴等ね。……今まで相当好き勝手やってきたって聞いてるけど」
「そ、それは……教祖様の教えってだけでっ!」
「広場での会話を聞いた感じでは、教祖に逆らえず、というわけではなく、お前達の意志で付き従っているとしか思えなかったがな」
「ひ、ひぃっ!」
俺はナイフを信者の一人に突き付ける。
この男達の所業を聞いて、紳士な俺が黙っていられるわけがない。
「……連れて行け。言うとおりにすれば、悪いようにはしない」
ブタドスを倒したらお前達も覚えておけ――これは俺の心のセリフだ。
今ここで身の保証のない脅しをかけたら、悪あがきしかねないからな。
こうして俺達は敵に捕まることを装って、ブタドスの元まで近づくのだった。




