潜入作戦!
「このルートも裸の冒険者で溢れているか」
俺達『最後の冒険者』はあの名店を出た後、冒険者ギルドを目指していた。
見つからないように道を変えては目指していたのだが、どこも警戒状態の冒険者で溢れかえっていた。
「くっ、どうするマルク。この様子ではどの道も監視されているぞっ」
「もう面倒だから全員蹴っ飛ばしちゃう? Tier5の私達なら、手こずることもないはずよ!」
「焦る気持ちも分かるがまだその時じゃない。いくら君達でも、街全体の冒険者を相手にするのは得策じゃない」
「ですがマルク様、時間も差し迫って……!」
あれから三〇分くらいは経っている。
あまりモタモタはしていられないし、奴等が時間をきっちり守るかどうかも保証はない。
「最後は強硬手段に出る。だがもっとギルドに近づいてからだ。距離を縮めた分だけ、俺達の勝機は見えてくる。……まぁ、本当にブタドスがギルドにいればの話だが」
「そっか、罠の可能性もあるわけね。……なら尚更早く行くべきよ、このままじゃ時間内に着くとは思えないわ!」
「――待った、ジルちゃん。もしかしてマルク、何か策があるのではないか?」
「その通りだフリーダ、よく分かったな」
俺がこうやって焦っていないのも、策があるからだった。
周囲に警戒を払いつつ、皆で円を囲むように集う。
「時間がなかったから落ち着いて話していられなかったが、今まで道をぐるぐるしていたのは侵入ルートを探していただけではない。ブタドスの信者を探していた」
「信者……? あっ、確かに近くに、信者が三人ほどいるなっ」
「信者をどうするのよ。蹴っ飛ばしてブタドスを引きずり出すつもり? うーん……無理そうじゃない?」
「あ、分かりました。マルク様の催眠術でどうにかするのでございますね?」
「どちらも外れだ。ブタドスに仲間意識は薄そうだったし、二度も同じ手――催眠術で混乱や操作を狙うのは無理だろう。催眠耐性も高めているが、俺が君達に施しているように、催眠無効の暗示を受けている可能性も高そうだ」
信者三人は例に漏れず全員鎖を身に付けており、そして催眠耐性を高めていた。
それだけだったら耐性貫通でどうにかなりそうだったが……実はもっと簡単な方法がある。
「ではどうするのだマルク。信者にも冒険者にも催眠が通じないのなら……」
俺は作戦を言った。
「簡単だ。俺達が捕まってしまえばいい」
「へっ?」
驚いたのはオリヴィアだった。
冒険者歴のあるフリーダやジルもまだ察していないような表情をしていたので、俺は続けた。
「俺達が捕まったらまずどこに連れて行かれると思う? ――ブタドスの場所だ。だから捕まるのさ、わざとな」
「確かにそれなら、ブタドスの場所に間違いなく連れて行かれるわねっ」
「わざと捕まる……そうか、捕まった風を装うんだな!」
「そういうことだフリーダ。いつでも暴れられるように、束縛も緩くするのさ」
「な、なるほど、びっくりしました……で、でもでも、催眠術は通じないのですよね? どうやって言うことを聞いてもらうのですかっ」
「それも簡単だ」
俺はギラリと陽光を照り返す、ある武器を取り出した。
「奴等の背中に、短剣でも突き付けてやればいい」
奴等は素人集団、わざわざ催眠なんて使わなくても、これで言いなりになる。
人を操るのは何も催眠だけじゃないのさ。
「作戦は理解したな? まずはあの信者三人を倒し、こちらが上であると理解させる」
「そして捕まった風を装って、魔王の場所まで案内してもらって、からの~」
「――暴れ回る! ってわけね。はぁ~、ほんとアンタって優秀ね。優秀優秀、優秀すぎて腹立ってきたわ!」
「どういう理屈だ。オリヴィアも理解出来たな」
「はいっ。まずはあの三人をやっつける、ですねっ!」
「そうだ。ただ、ここで他の冒険者に知られると作戦が台無しになる」
この作戦で重要なのは、わざと捕まることだ、でなければ武装は持って行かれるだろうからな。
そのためにもまずは勝たなければならないわけだが、周りの冒険者に気付かれては厄介だ。
「信者は男しかいない。……紳士の俺がこんなことを頼むのは気が引けるのだが」
「構わないぞマルク。今は非常時だ、なんでも引き受けよう。騎士に二言はない!」
「あ、あれ? 以前にもこのような事があった気が……私、嫌な予感してきてます……」
「オリヴィアも? あたしもよ。……ついこの間、バカンス村で同じような感じが」
若干二名ばかり嫌な予感がしてきているらしいが、俺は構わず言った。
「君達三人であの男共を釣ってきてくれないか。題して『お色気作戦』だ」
「……き、騎士に二言があってもいいかな……?」
「正義のためだ、一肌脱いでくれ」
「またこの流れかーっ!」
フリーダは(周りに聞こえないように)叫んだ。
なに、この三人はとびきりの美女だ、ウインク一つで男なんて堕ちるだろう。
仕方ないのだ、作戦をこなすには、お色気が一番なのである。




