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二人の催眠術師

「フリーダ君、バカンス村は、楽しめたカイ?」

「ヨォ、次期S級さんガタ。オレの出した依頼(クエスト)は、片付いタカ?」

「だ、団長殿っ!?」

「ヴァネッサ、君までもかっ!」


 それは、純白角(ユニコーン)騎士団団長のエルミナと、ビアンツ冒険者ギルドギルドマスターの、ヴァネッサだった。


「ま、間違いないぞマルク、この二人も操られているっ!」

「だろうな。目に毒だよ、全く……!」


 腕利きであろう二人でさえも催眠術の餌食になっていたのは自明の理だった。

 両者とも『裸』だからだ。

 エルミナはスラっとした細身のスタイルに、締まった腹筋を見せる。

 ヴァネッサは日焼け跡のコントラストを惜しげもなく露出していた。


「マ、マルク様、どうしたら……操られているとはいえ、お二人は私達に良くしてくれた方々、手を出すわけには――」

「あ、あんたの催眠でどうにかならないの、マルクっ」

「すでにやっている――が、ダメだ、解ける気がしない。街全体を乗っ取る催眠術師……明らかに今の俺より格上だ……!」


 俺はコインを手に全力で二人の催眠を解いていたが、全く手応えがなかった。

 まるでS級のメドューサや、クラーケンにデバフをかけた時みたいだ。

 敵は間違いなく、S級クラスの催眠術師ということになる。


「侵入者ハ、教祖様にお知らせしなくてはナラナイ」

「待チなエルミナ。教祖様に会わセル前に、着替えてモラわねぇト」


 ヴァネッサは焦点の合わない目で女性陣を見ると、こう告げた。


「女は服ヲ脱ゲ。コノ街の()()()()()だ」

「くっ、ギルドマスター殿まで……! ど、どうする、マルクっ」

「不本意だが戦うしかない。情報が少ない中で、敵の親玉に居場所がバレるのは避けるべきだ」

「お、お二人を……うぅ、どうしてこんなことにっ」

「わ、ワクワクするってもんじゃない、オリヴィア。この二人の力がどれくらいで、さらにバフがかかっているかも知らないけど……こ、こんな強そうな人と戦える機会なんて、そうそうないもんっ」


 ジルは言うが、その脚は震えていた。

 無理もない。相対する敵もだが、何より街の状態がかつてないのだ。

 街全体をこうした形で乗っ取るなんて、歴史を紐解いてもないに違いない。

 俺達はその渦中に、唯一正気な状態で放り込まれたのだから。


 裸のエルミナとヴァネッサは、武器だけは携帯していてそれを抜く。

 ヴァネッサは両手斧を手にすると、大きくて形の整った胸をたるんっ、と弾ませる。

 エルミナも細身の剣を手にすると、小振りだがツンと張った胸をぷるん、と揺らした。


 両陣営、戦闘態勢に入ったその時だった。


「――なぁにやってるのかなぁ! 元女騎士が現れたら、手は出さないでって命令したよねぇ、エルミナちゃんにヴァネッサちゃん!」


 エルミナとヴァネッサの向こう側から、男の声がしたのは。


 男の声を聞いた途端、エルミナとヴァネッサは武器をしまい、戦闘態勢を解いてしまっていた。

 無抵抗の人間を斬ったり殴ったりするほど、こちらのパーティはイカレてはいない。

 状況を整理するためにも、男が現れるのを待つと――


「ドゥフフっ! やっぱり感知した通りだ。待っていたよ、フリーダちゃんに、マルク君っ」

「……知り合い、ってわけじゃないわよね、マルク、フリーダ」

「こんな外道な催眠術師の知り合いなどいるわけない」

「わ、私も、初めてみた顔だ」


 この太った男は俺とフリーダを知っているようだが、当の俺達は初対面だった。

 男は無精髭の生えたあごを掻きむしりながら、自己紹介した。


「ドゥフ、直接顔を合わせるのは初めてだからねぇ。じゃあ自己紹介するねぇ。――僕の名前はブタドス。『終末女神教』の教祖様をやってるんだぁ」

「終末女神教でございますかっ……! 私と神の修道院(いえ)を荒らして、そして――!」

「私の――父を殺したっ、真犯人のっ!」

「ありゃりゃ? なんで知ってるのぉ? もうそこまで解明進んでたってことかなぁ? だとしたら危ない危ない、信者君の言うこともたまには役に立つねぇ」


 ブタドスと名乗った男には仲間がいて、すでに俺達を取り囲んでいた。

 全員体のどこかしらに鎖を巻きつけていて、そして全員男だった。

 まるで値踏みでもするかのような目付きで、フリーダら女性陣を眺めていた。


「フリーダ、気持ちは分かるが落ち着け。街の全容が明らかになる前に動くのは得策とは思えない」

「マ、マルク……すまない、そしてありがとう。あなたはいつも、私の支えになってくれる」

「ドゥフフっ! ――良い感じのお二人さんだぁ」


 ブタドスは俺達を見てなぜか喜ぶように笑った。


「ブタドス。この街をどうするつもりだ。目的はなんだ」

「ドゥフフ、それはねぇ――っと、その前にお仕置きしなきゃいけないんだぁ、ちょっと待っててねぇ」

「お仕置き、だと?」


 俺が言うと、ブタドスはエルミナとヴァネッサの間に立つ。

 ブタドスは両女性より背が低く、見上げていたが――

 腕を振り上げると、二人の頬を叩いた。


「エルミナちゃん、ヴァネッサちゃん! 僕のしつけはちゃんと守らないとねぇっ! ――この、愚か者ぉ!!」

「ち、ちょっとあんた! 無抵抗の二人になんてことすんのよ!」


 ジルは激高する。

 ブタドスはペチンと、エルミナとヴァネッサの頬を一回叩いたのだ。

 叩かれても虚ろな目は変わらず、裸の女性はされるがまま。

 片側の頬が、わずかに赤くなっていた。


「二人は神聖な女性だからこれだけで済ますけど、男だったら大変だったよぉっ!? ちゃんとしつけは守るようにねぇ」

「ハい、教祖様」

「すまネェ、教祖様」


 意思を奪われている二人は従順に応じた。

 紳士な俺は、言った。


「……おいブタドス、質問に答えろ。お前が――この街を壊した催眠術師なのか」

「ドゥフ。さすがに同業者なら、僕が催眠術師ってことは分かるんだねぇ。僕も君の活躍は耳にしていたから、よく知っていたけどもぉ」


 二人の催眠術師が視線を交わす。

 何も非のない女性に手をあげたことに怒りがこみ上げていた俺だが、どうにか堪えた。

 ブタドスが、改めて言った。


「ドゥフ、マルク君、その通りだよ。この街は僕が支配した。ねぇ、詳しく話さない? そこの建物でさ」

「冒険者ギルドか。……いいだろう」


 従う他ない。

 ブタドスに操られているであろう、裸の冒険者達が集まってきたのもそうだが、無抵抗のエルミナとヴァネッサを楯に取るようにしたからだ。

 俺は、ブタドスが案内する冒険者ギルドで、全てを聞き出すことにするのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ノクターンだったら二人はこれじゃすまなかったな。良かったこっちで(苦笑) でも記憶消えなくて全部マルクにみられたこと覚えてりゃいいのに(笑) 三人はもうマルクのもの、二人増えても(笑)
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