異常な街
「よし、リフトも起動したな。街に帰るぞ」
依頼を終えた俺達は、潮騒を背後に感じながら、リフトに着いていた。
フリーダが言う。
「これで帰って報告すれば、また一歩S級に近づくのだな……!」
「ああ。後は俺とオリヴィアのTier5習得待ちだな」
「あんたに全てかかってるようなもんなんだからね、マルク。……どんなスキル習得するか、あたしが一番楽しみにしてるんだから」
「私も頑張ります。マルク様に頼ってばかりでは神に叱られてしまいますから」
俺達の次の目標はS級。その試験はパスした。
後はTier5習得。
以前は高すぎる壁と感じていたが、今の俺なら越えられるかもしれない。
「ま、あまり気張っていても仕方ない。仕事は無事にクリアしたんだ、今はその打ち上げのことでも考えて、街でゆっくりしよう」
とはいえ、今は仕事上がり。
後は街に――家に帰るだけ。
気を詰めすぎるのも良くないと、帰った後のことを考える俺なのだった。
すると、フリーダがはしゃぎ気味でこう言った。
「んー! 海楽しかったなぁっ! 色々あったけど、またみんなで来たいな、マルク」
「そうだな。次があるとしたら、今度は仕事以外で来たいものだ」
「な、なにはしゃいじゃってんのよ。あたしは別にもういいかな、また変な水着着せられるのもイヤだし。……ま、まぁ? あんたがどうしてもって言うんなら、行ってやってもいいけど?」
「うふふ、ジルさんも楽しめたようで何よりです。私も機会がありましたら、また来たいです。イカさん美味しゅうございましたから」
俺達は他愛もない会話をしながら、リフトをくぐる。
二回目ともなれば慣れたものだ、一瞬で殺風景な地下室に着いた。
ジルは相変わらずオリヴィアに手を握ってもらっていたがな。
「無事全員帰還したな。とりあえずギルドに報告に行くとするか。打ち上げはその後だ」
「報酬の分配も忘れないでよねっ」
そんな会話を交わしながら、俺達はリフトと街を繋ぐ通路を歩く。
すれ違う人は誰もいない。殺風景な地下室に用事があるのは俺達くらいだからだ。
――そのために、気づけなかった。
街が異常な光景に染まっていたことに。
俺が先頭で地上に出ると、我が目を疑ってこう言った。
「な――なんだ、この街はっ!」
「どうされました、マルク様――えっ、こ、これはっ!」
「ウソ……ど、どういうことよ!? 街の人がみんな――ううん、女性だけが」
「裸で出歩いているぞ!?」
通りから見えた広場にいた人が。
男性を除いた全ての女性が。
一糸纏わぬ裸の姿で、往来を闊歩していたのである。
「こ、これはどういうことだマルクっ。新たなビアンツのブームだろうかっ?」
「そんな馬鹿な、裸だぞ! そうじゃない、何かあったんだ。俺達が街を離れている間に」
バカンス村には広報関係もあって二日ほど滞在していたのだが、その間にビアンツに何かがあったのだろう。
でなければ説明出来ないのだ。
女性が、何も違和感を感じることなく、裸体で歩いているこの風景が。
「……みんな見ろ、女性の様子を」
「ち、ちょっとあんた、こんな時になに言ってるのよっ、そんなジロジロ見て、こ、興奮とかしちゃってるんじゃないでしょうねっ!」
「俺は紳士だ、この非常事態に興奮するような異常者じゃない。そうじゃなくて――彼女達の顔を見るんだ」
「お顔、でございますか。……信じられませんが、この様な状況だというのに、皆自然な表情をなさってます」
「い、いや……待つんだオリヴィア、よく見ると目の焦点が合っていない! 私には弱点だったから分かるぞ、これは――催眠術にかかっている状態なのかっ」
「そうだ。裸の女性も、服を着たいつもの状態な男性も。子供も大人も関係なく、この街の住人全員が催眠にかかっているんだ」
俺は催眠術師で、フリーダはそれが弱点だ。だから気づけた。
「冒険者の街ビアンツは、催眠術師に乗っ取られた」
自分で言って信じられないが――
ビアンツは、どこぞの催眠術師に街ごと乗っ取られたのである。
「ヤァ、見つけたヨ、侵入者タチ」
「っ、敵に見つかったかっ」
短く告げられて、敵に見つかったことを悟る俺達。
全員武器を構えて戦闘態勢に入るが――その人物の顔を見て、ためらいが生じてしまった。
「フリーダ君、バカンス村は、楽しめたカイ?」
「ヨォ、次期S級さんガタ。オレの出した依頼は、片付いタカ?」
「だ、団長殿っ!?」
「ヴァネッサ、君までもかっ!」
それは、純白角騎士団団長のエルミナと、ビアンツ冒険者ギルドギルドマスターのヴァネッサだった。




