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☆ジーク視点 宴

アウトな気がしてるので変更するかもです。

 俺が目を覚まして最初に見た光景は、〝壁〟だった。


「フン、フン、フン! ドゥフ、ジーク君、どうかな、感想は? フン、フン!」

「……ベラ、ユーニス、何して……? お、おい、壁の向こうにいるんだろブタドス! て、てめぇ、そっちで二人に何してやがるんだ!?」

「フン、フン! え? 僕は壁に体を打ちつけてるだけだよ? ――フン!」


 そしてその壁から、こちら側に顔と手だけを出したベラとユーニスが見えた。

 ただ、それだけだった。

 

 ここはどこかの室内だ。俺の近くには祭壇があり、ろうそくが灯っている。

 ベラは口に添え木を、ユーニスは猿ぐつわを咥えさせられ、両者とも目隠しされている。

 そして二人は、壁から頭と手だけを貫通させている状態で、他の体や向こう側は一切何も見えなかった。

 荒い息づかいが聞こえることから、生きてはいたのだった。


「――フゥ~。すっきりしたっと」

「ベラ、ユーニス! ま、まさか壁の向こうは――」

「ドゥフ。いやぁ、やっと目覚めたんだねジーク君。今回はこういう趣向で捧げ物を頂いたけど……んー、君の表情が見えなくてイマイチだったなぁ、ドゥフ」


 ブタドスがローブ一枚だけ羽織った姿で、壁の向こうから現れた。

 汗を掻き、体から湯気を上気させていて……向こう側で何をしていたか、十分理解出来た。


「て、てめぇ……まさか、俺の女をっ……!!」

「お、おおっ!? ド、ドゥフフ! それだよそれそれぇ! その表情が僕の一番の捧げ物なんだよぉっ!」


 俺は悔しくて涙を流していた。

 勝手に目から溢れ出て、止まらなかったのだ。


 壁の向こうは何も見えない。

 だがベラとユーニスの頬に涙が伝っているのが、全てを物語っていた。

 こいつは悪魔。


 ――いや、魔王だ。


「僕はね、『寛大』なんだ」


 ブタドスは両手を広げて言う。


「人の幸せを見るのが僕の何よりの幸せなんだ。特に恋人同士の仲睦まじい関係なんて、最高だと思わないかい? 見ているだけで微笑ましくなって、幸せな気持ちになって――混じりたくなる」

「ブタドス……てめぇ……てめぇは許せね――あっ? ああっ!?」


 俺は無我夢中で飛びかかろうとするが、鎖でがっちり繋がれていることに今気付いた。


「だから僕は、処女を愛せない。誰かの後じゃないと女性を愛せないんだもの。寛大だと思わないかい?」

「そ、そんな、お、俺の、俺の腕がああぁぁっ!?」


 ブタドスの野郎は何かを言っているが、そ、それどころじゃねぇ。


 俺は膝立ちの状態で――繋がれていた自分の腕を見て、全身の力が抜けた。

 繋がれていたのは、ぐちゃぐちゃで、白骨が飛び出ていて。

 そんな、腕とは言えない肉の塊が、俺の体と鎖を繋ぎ止めていたんだから。


 こ、これが俺の腕……?

 Tier(ティア)5の回復治療でももう治らないんじゃねえかってくらい、例えようのない有様だ。

 なのにどうして、俺は痛みを感じないんだっ。


「あ、腕のことなら心配ないよ。『痛覚遮断』・99%をかけてあるから、今は心配しないで。ほらっ!」

「や、やめろ、それは俺の腕だ、そんな……蹴らないでくれぇっ」


 ブタドスはオモチャでも蹴るように、俺の腕を無造作にコツンと蹴った。

 それだけで俺の腕は枯れ枝のようにあちこちに折れ曲がる。

 動かそうにも、もう動かせなかった。

 俺は、また一段と涙を流して、絶望に伏した。


「ドゥフフ! 今回もいい捧げ物をもらっちゃったなぁ。お~い信者君、次の捧げ物だけど、例の修道院の件、どうなったのかなぁ?」

「そ、それが教祖様、例の雌牛女には、決まった男がいないようでして……教祖様のお眼鏡には適わないかと……」

「……なんだってぇ? だったらどんな男でもいいから焚き付けろよぉ! 修道院の奪取も失敗して、何をしていたんだこの愚か者ぉ!」


 聞こえる、音が。

 俺は音がする方を、顔中から水分を垂れ流しながら、ただじっと見るだけだ。

 もはやそれは、生き物としての本能だけだった――


 ブタドスは「愚か者、愚か者、愚か者」と、信者と呼ばれた男を蹴りつけている。

 何でもない、子供の地団太のような蹴りだ。

 信者は腕で堪えていたが、反撃することはなく、されるがままに蹴られ続けていた。


「お、お許し下さい教祖様っ! た、ただ一つだけ、気になることがっ!」

「なんだよぉ。くだらないことを言うようだったら、二度と喋れないように口を縫い付けるよぉ?」

「ひ……そ、その……雌牛女に近付いている男はいたのです。それにその男は、他にもロリっ子女格闘家と、キリリ系女騎士も引き連れいてる様子で……」

「ドゥフ……キリリ系女騎士だってぇ?」


 ブタドスは何か引っかかったのか、こう続けた。


「その女騎士、まさかフリーダという名前じゃないよねぇ?」

「あ、そうですそうです、フリーダと呼ばれていました」

「ドゥフ、やっぱり! そうかそうか、あの女騎士に遂に男がっ!! それはそれは……ドゥ、ドゥフ、ドゥフフウフフっ!」

「き、教祖様が笑っておられる……! 教祖様、その女騎士とは一体!」

「ドゥフ! 残念だけど、その女性はもう女騎士じゃないはずだよ、信者君」


 ブタドスは口元を手で隠しながら笑った後、こう言った。


「父殺しの元女騎士。そうかぁ……騎士団にいる頃から目を付けていたあの女性に、遂に男が……ドゥフ、次の捧げ物が決まったよ、信者君」

「お、おお、ではっ」

「ドゥフ。女騎士フリーダと、その仲間達が僕の次なる捧げ物だよぉ」


 〝魔王〟の欲望は止まらない。

 次のターゲットを決めたブタドスだったが、もう一人の信者が現れて忠言する。


「恐れながらも進言します、教祖様。最近は我々も派手にやりすぎました、純白角(ユニコーン)騎士団等々に目を付けられていて、そろそろビアンツを出た方がよろしいかと……」

「冗談じゃないよぉ、極上の捧げ物を前に。うーんでも、確かに僕の力じゃ騎士団は――あ、いや待てよぉ、僕にはこれがあるんだぁ」


 ブタドスが取り出したのはこいつの『武器』だ。

 サイクロプスすら操った、手のひらに収まる程度の、得体の知れない武器。

 きっと催眠術師にしか分からない類の武器なのだ。


「ドゥフ、安心して信者君達。これを手にした僕は無敵。騎士団だって操ってみせるよ」

「わ、我々には理解出来ない武器なのですが、その武器にはそれだけの力が……?」

「――なんなら、街全体を操ることだって出来るんじゃないかな」


 俺は残る意識で思う。

 街全体を操るだって? そんなの――もはや神の所業じゃないか。


「それに君達だって、捧げ物を頂きたくはないのかい? ……美しい金の髪に、瑞々しく実った乳房、生意気そうに突き出したお尻。女騎士なんて、絶対にお尻弱いよ? おまけに他に二人もいるなんて、信者君達、我慢出来るのぉ?」

「そ、それは……ごくりっ」

「ドゥフ! 決まりだね! じゃあまずは街全体を乗っ取って、女騎士以外の邪魔者は排除しよぉっ!」


 イカレてる。

 女を抱くためだけに、そこまで夢見て、そこまで実行しようとしているんだから。

 ブタドスも、それに付き従う信者も、イカレてるよ。


「それと女騎士を捧げるまで〝絶食〟を命じるよぉ。街で()りたい放題出来る状態になっても、女性を〝食べたり〟したら、もう二度と捧げ物を食べられないように罰するからねぇ」

「おぉ、絶食! 教祖様の本気が窺えますっ」

「フフン、そうだろぉ? だから君達も絶食をするように。絶食から解き放たれた時の快感は、正に天にも昇る勢いなんだからぁ」

「ぜ、絶食でございますか。し、しかし教祖様、今からというのは、その……」

「やだなぁ、僕は今からだなんて一言も言ってないよぉ」


 意味の分からない用語でも、俺はその言葉で直感した。

 そして、わずかながらに残った意志が、呼び戻されてしまった。


「今回の捧げ物を食べた後から、でいいよぉ! ドゥフフ、君達も捧げ物、物欲しそうに見てたものねぇ」

「き、教祖様、ではっ!」

「ドゥフ! 僕は済んだから、ベラちゃんとユーニスちゃんはみんなの好きにしていいよぉ!」

「ブタ……ドス……!? て、てめぇっ!?」


 俺は()()()()()言うが、もう俺の言葉は誰にも届いていなかった。

 ベラとユーニスが、こいつらに――

 信者と呼ばれた男達は待ってましたとばかりに壁の裏側に向かった。

 途端に、ベラとユーニスは苦悶の表情を浮かべた。

 薄く、壁というよりただの張りぼての板が、ガタガタと揺れていた。

 俺は、涙も鼻水もよだれも飛び散らして、泣き叫んだ。


「や、やめろ、やめてやってくれぇっ!」

「うーん、仕方ない信者君達だなぁ、ジーク君の処理も伝えたかったのに」

「し、処理……? な、何を」

「ん? ああ、捧げ物はもう済んだから、適当に廃棄するって意味だよぉ。ほぉら、今痛覚遮断を解くからねぇ。催眠スキルTier(ティア)2、『解除』っと」

「ぐぎゃ――ア、ガアアアアアアッ!」


 瞬間俺の両腕が激痛に襲われた。

 腹も痛い、サイクロプスに潰された腹だ。


 目の前で泣き叫ぶ、かつて愛した二人を目にしながら――俺の目の前が赤く染まった。

 血の涙でも流しているように、熱く、赤い景色が広がった。

 そこで、俺の意識は、プツリと消えた。



ジーク編は以上で終了となります。

ざまぁなのかどうなのか怪しく感じておりますので、表現だけでなく内容ももっとマイルドなものになるかもしれません。


ただ、バッドエンド的な流れは変えないつもりです。

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― 新着の感想 ―
[一言] やりすぎぃ!ほのぼの催眠じゃなかった!
[一言] ま、一切描写してないので大丈夫でしょう。 ざまぁかと言えば微妙ですが、主人公が復習するタイプじゃないですからねぇ。女二人もまぁしゃーないか。だれが相手かわからない子供ができる前に助けられると…
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