☆ジーク視点 旅の終わり ②
「ベラ、ユーニス――愛してる」
「ジーク……ジークっ……!」
「ジーク様っ」
「逃げるんだ、いいな! ――ブタドス! てめぇよくもこの俺様をぉぉぉっ!」
「ドゥフっ!?」
俺は――決死の突撃を仕掛ける。
体はまだズタボロだが、剣だけは無事だ。
最後の力でブタドスの野郎に仕掛けたが。
「な~んちゃって無理無理。だってジーク君、君はもう僕の催眠にかかってるんだよ?」
「がっ!? か、体が、動かねぇっ」
「ジーク! て、てめぇこのブタ野郎っ!」
「い、いけませんベラ! ジーク様の言いつけ通り、ここは逃げるべきですっ!」
「くぅっ!」
ユーニスは、ここに来て俺の命令を守った。
長いこと一緒だったベラには伝わるだろう、他の誰でもないユーニスが、俺の命よりも命令を取った重みを。
一度は振り返ったものの、二人は逃げる。
だが――
「おおっと! 捕まえたぁっ!」
「うあっ! くっ、離せ、離せぇぇ!!」
「こっちも捕まえたぜぇ! ちょっと逃げるの遅れたなぁ!?」
「や、やめなさい! 私の体はジーク様のものです、穢らわしい手で触れないで!」
サイクロプス戦で消耗した二人に、三〇人の包囲はくぐれない。
ベラは腕を掴まれて組み伏せられ、ユーニスは押し倒されて、巨漢の男にのし掛かられていた。
「ベ……ラっ……! ユーニス……!」
「ドゥフ! 良くやったよ信者君達! 丁重に扱うようにねぇ、僕への捧げ物なんだから」
終わりだ。
俺は身動きが取れず、二人は捕まった。
助けは――来ない。
「教祖様、恐れ多くも申し上げます。こちらの男の方はいかがいたしましょう。やはり、いつものように――」
「ドゥフ、もちろん。彼もまた捧げ物の一人、丁重に連れて帰るように」
「な、何するつもりだこのキモブタ野郎……俺は野郎に興味はねぇぞっ……!」
「ドゥフフ! それはこれからのお楽しみだよ、ジーク君。ん~、この状態のまま連れてってもいいけど、また逃げ出されても困るなぁ……そだ、お~い、信者くぅ~ん」
誰かに捕まったわけでもないのに、俺はその場で硬直していたが。
「ジーク君を四つん這いで押さえつけててよ。……ああそうそう! 両手はぐんと伸ばして、手のひらは上向かせる感じでぇ!」
「な、何するつもりだ……おいっ」
「はーい、棍棒持ってる人集まってぇ。あ、僕にも一つちょうだいねぇ」
「何するつもりだ、おい! や、やめろ、聞いてるのかブタドス!!」
俺は両腕を伸ばした状態で、四つん這いにされる。
顔は無様に地面に張り付いていて、頭上で何されているか、目では見えないが。
「うるさいなぁもう、聞いてるよぉ。何されるかなんて、分かるでしょぉ?」
これから何が始まろうとしているのか、俺は想像出来てしまった。
想像出来てしまったから――俺は頭の中で否定した。
だがブタドスは残酷にも答えを告げてきた。
「二度と剣が握れないように、生意気な両腕をズタズタに折るんだよぉ。そぉ~れっ!」
「やめろっ! や、やめてください、やめてください! お願――」
グシャア、と。
俺の見えないところで潰れた音が聞こえると、直後に信じられない激痛が襲いかかった。
「ぎゃああああああっ! う、腕がぁぁぁぁっ!?」
「ドゥフ、そんなに大げさにしないでよぉ。腕なんてさっきサイクロプス君にポキポキ折られまくってたじゃないかぁ。ほらほら、信者君達も手伝って、ミンチになるまですり潰すんだよぉ――こうやってぇ!」
「うぎゃああああっ!」
もう一振り俺の腕に叩きつけられた。
ぐちゃぐちゃ。ぐちゃぐちゃ。
腕からマグマでも流れ出るような、そんな音と熱が放出されているが。
それはマグマでも、鍋が煮える音でもない。
俺の腕だ――腕がどうかしちまってる音と熱なんだ。
だって今もほら、気が狂いそうになるような痛みが、腕だった辺りからするのだから。
「や、やべでぐだざい! やべでぇっ!!」
「えぇ~、そしたら君逃げ出すから無理かなぁ。あ、間違って殺しちゃだめだからねぇ信者君。もし間違って殺しちゃったら、次はその信者君の悪い腕をぐちゃぐちゃにしちゃうから。そぉぉ……れっ!」
「アギャアアァァァァっ!!?」
今のは逆の手か? いや、そもそも最初にやられたのはどっちの腕だ?
もう分からない……痛い……死にたい……
お母さん、お父さん……助けてぇ……
叩き潰される度に意識は呼び戻されていたが、限界が来て。
「こ、ろ……して……」
「よしよし、腕も使えなくしたし。信者君、ベラちゃんとユーニスちゃんと一緒に運んでねぇ。……さて、後はサイクロプス君かぁ」
俺が誰かに担がれて、ようやく外の視界が見えた時。
「んー、君はもういらないから、ここで死んでね。ポチっと」
「グガ――ンガ」
ブタドスが得体の知れない武器で催眠術をかけると、サイクロプスは持っていた巨大な棍棒を口に咥えた。
そして――頭を思い切り地面に向けて振って、咥えていた棍棒が頭の裏側から飛び出るのだった。
「ドゥフ。じゃ、祭壇に行こっか」
俺はサイクロプスが脳髄をぶちまける光景を最後に見た後、意識を失った。




