表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/99

波打ち際のクラーケン戦 ② いやらしイカの本気

「隙ありだ!」


 そう言って敵の隙を見つけたのはフリーダだ。

 水着状態だというのも忘れて、豪快に脚をかっぴらいて、渾身の力で十字に斬る。


「片手剣Tier(ティア)5――『グランドクロス』!」

「ブシュルルルッ!?」

「効いた!? 脚を一本切ってやったぞ!」


 クラーケンが悲鳴を上げた。

 高い物理耐性を誇るクラーケンだったが、かなりのダメージを受けたように見えた。


「フリーダさん、やりましたっ! これもマルク様の催眠デバフのお力なのですね」

「いや違う。クラーケンに俺のデバフは入っていない」

「えっ……ではなぜ、急に攻撃が通ったのでしょう……?」

「俺もそれを考えている」


 俺はフリーダとジルが戦っている今も、コイン片手に催眠デバフをかけ続けているのだが――

 一度たりとも、かかった手応えはない。

 オリヴィアが言う。


「もしかして、フリーダさんが一撃必殺なスキルに変えたからでしょうか?」

「だがそれならジルの『竜断』だって通っておかしくないはず。変化したのは墨を吐いた後――そうか、見ろオリヴィア、クラーケンの体が萎んでいる!」

「ほ、本当ですっ! 白いの出してから、小っちゃくなってますっ!」


 クラーケンは白濁液――墨を吐いてから、一回り萎んでいたのだ。

 力が弱まったことでフリーダの攻撃も効いたのだろう。

 ジルは俺達の会話を耳ざとく聞いていたようで、ジルも仕掛ける。


「それならあたしだって! Tier(ティア)5――『竜断』! ()()()


 ジルは猫――ではなく獅子化して蹴りを放つと、クラーケンの足がもう一本千切れ飛んだ。

 敵の弱点は判明した。

 墨を吐いた後に、一点集中を仕掛ければ物理寄りの俺達でも勝てる。


 皆がそう思った時、クラーケンが反撃に転じる。


「み、皆さん気をつけて! 白いのぴゅっぴゅしてきますっ!」

「やだっ! キモっ! ぴょん」

「簡単にぶっかけられる私ではないぞっ!」


 オリヴィアが注意を発し、ジルとフリーダは避けた。

 勝利が見えた油断か。それともぶっかけはマズイという女性の本能か。

 二人は身動きが取れない空中方向へと避けていた。

 

「空中はまずい! 二波が来たら避けられんぞ!」

「ブシュルルルッ!!」


 こんなふざけたクラーケンだが、S級だ。

 一瞬の判断ミスを見逃すことはなく、長く太い足でジルの片足を掴んだ。


「しまったっ! にゃん!」

「ジルちゃん! ――させない!」


 だがこちらも次期S級。

 素早くフリーダが反応して剣でイカの足を斬ろうとする。

 だが――


「ブシュルルルッ! ドピュ!」

「くあっ! 体液がかかってっ」


 読み合いはクラーケンが上回った。

 フリーダはイカの白い液体をもろに被って、暗闇デバフを受けてしまう。

 俺が状態異常耐性アップをかける前だったので、フリーダは攻撃をミスしてしまった。


「何よっ、こんな足、振り払って――はにゃっ?」


 ジルは自力で抜け出そうともがいたが――その拍子に、はらりと、布が一枚落ちた。


「にゃーっ! 水着がーっ! お、おっぱい見えちゃうにゃーんっ!」

「た、大変ですっ! ジルさんの水着が脱げちゃいましたっ! それも上下とも!」

「なんだって!? ジル、無事か!」

「無事なわけないわーっ! あとあんたはこっち見るなマルクーっ!」


 ジルは戦闘どころではなくなり、両手でどうにか大事な部分を隠す。

 もう頼れるのはフリーダだけだと、俺はフリーダを見るが。


「こ、こっち見ないでマルク、私のこんな姿――」

「何を君まで体を隠すようなことをしている。大丈夫だフリーダ、その白濁液はただの墨だ、深い意味は――」

「ち、違うのっ! 水着溶けちゃったのっ!」

「なん、だと……!」


 フリーダの普通な爽やか水着は、イカスミで溶けてしまったようである。

 体に火傷の痕がないことから、水着だけが溶かされたようだが……一体どんな成分なんだ。

 とにかくこっちもこっちで、戦闘不能に陥ったようである。


「フリーダさん、と、取りあえず暗闇だけは治します! ……水着は無理ですが」

「うぅ、す、すまないオリヴィア。なぁマルク、一旦着替えに戻っても――」

「だ、ダメに決まってるでしょーっ! こっちは裸なのよっ! にゃん!」

「そんな暇はさすがにない。まぁ……イカも出しすぎてふにゃふにゃになっているが」


 サハギンクイーンを引きちぎる怪力も今のクラーケンにはないようで、ジルは空中に吊られているだけだ。


「ちょっ、くすぐったい……ひゃははははっ、にゃん!」


 むしろ他の足がにゅるにゅるジルの肌に触れる度、くすぐったさに笑っているくらいだった。


「マ、マルク、どうしようっ。これでは戦えないっ」

「マルク様、かくなる上は私が――」

「待てオリヴィア。勝ち筋はある」


 はやるオリヴィアを止めると、俺はそう言った。

 そして、この戦いを遠くで見ていたであろうある人物に、呼びかけるように叫んだ。


「スイムン村長! フリーダの水着には仕掛けがあると言っていたな! それは水着が全て溶ける、という機能ではないはずだな!?」

「あわわわわ、このままじゃ村が……って、こんな時に何を聞いておりますのじゃっ!? ま、まぁ確かに、フリーダ殿の一見普通な水着にだけは、一見普通な水着じゃなくなる仕掛けが施してありますが」

「だ、そうだフリーダ。手を退けてみろ」

「えっ、で、でもっ!」

「大丈夫、村長らは遠くにいる。――君の水着姿を俺に見せてほしい」

「う……うんっ、マルクが言うなら……で、でも、マルクだけの特別だよっ」


 村長達には見えないように、俺は自分の体で隠してやる。

 フリーダは顔を背けながら、その美しい体を見せてくれた。


 ああ……確かに、と。

 フリーダ自身が裸と勘違いしてしまうのも無理はないな、と、納得した。


「自分の目で良く見ろ、ちゃんと大事な部分は隠れているじゃないか」

「ほ、本当だ……で、でもっ、これ」

「勝ってS級になるんだろ? 君が頼りだ、相棒」

「マルク……わ、分かった、私も正義を愛する女騎士、心を決めりゅっ♡」


 フリーダは手で隠しているので、まだ彼女の全貌は分からない。

 だが確実に裸ではないその新衣装(スキン)で、フリーダは戦う意思を固めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ