恒例の日焼け止めと――オリヴィアの特訓!
フリーダの水着には何か仕組まれているらしい。
だが今はよそう、それよりもまず対処しないといけない問題がある。
「では村長、今絵描きに書かせている絵の追加料金についてだが」
「な、なぬっ!? マルク殿、追加料金がかかるとは聞いておらんのじゃが!?」
「まさかタダで書かせると思ったのか? 俺達は仕事でモデルを受けたんだ、対価を払えないと言うのなら、こちらもギルドを通して抗議せざるを得なくなるが」
絵描きに囲まれ好き放題書かれている女性陣。
俺はそんな彼女達のプライバシーを守るため、第一の対抗策を講じたのだった。
「ぐ、ぐぬぬ……現在わしらの収入源は止まっている状態……追加料金をぼこじゃか払える財政状況では……!」
「ど、どうするんすか爺ちゃん! 俺、貧乏生活はイヤっすよ!?」
「慌てるでないサンセツよ! ――分かり申したマルク殿、女性一人につき一枚だけ、書かせてもらう契約でよろしいですかな!?」
「一枚か……まぁ、いいだろう」
合計三枚書く分だけならと、俺は了承する。
もちろん女性陣は一枚書かれるだけでも嫌な顔をしていたので、俺が小声で伝えた。
「策は他にもある。安心しろ、勝ち筋は見えている」
「ほっ、そ、そうか。てっきり私達は売られてしまったのかと……」
「そんなわけない。教えその二、仲間は見捨てるな、だ」
俺の言葉に仲間達はたちまち安心し、抗議の声を出すことはなかった。
「じゃあ俺達は依頼に行こうと思う。さすがに着いてくるとは言い出さないよな?」
「魔物とのバトル絵ではまた人が離れるだけですじゃ。わしらは報告を待つことにしますじゃ」
スイムン村長、サンセツ補佐、そして画家達はビーチを去って行った。
第二の策は報告の時に発動すればいいだろう、それで完全勝利出来る。
村長達の背中が遠くなるのを見てから、俺は彼女達の方を向いて、号令を出した。
「では切り替えていこうか。まずは――」
「エロ村長が言ってた洞窟ねっ!クイーン戦、燃えてきたわ~っ!」
「何言ってるんだ、違うぞ」
「はぇ?」
マイクロ水着なジルが疑問符を打つ。
俺はどこからともなく一本のボトルを取り出して、こう言った。
「まずは日焼け止めだ。お肌の手入れはレディの嗜みだ」
「た、確かにそうですね……ですが……」
「男のマルクに先に言われると、我々の立つ瀬がないぞっ!」
何も間違っていない俺だったが、なぜかちょっと怒られるのだった。
「……それで、なぜ俺が全員分塗ることになるんだ」
俺は、並んで寝そべっている彼女達を見下ろすと、開口一番そう言った。
「な、なぜって、あなたは塗ったりするの得意そうだし……」
「そ、そういうことよ。べ、別に……き、気持ち良かったから……とかじゃないんだからっ」
「わ、私も、いつか来る催眠紋の儀式に備えて、心の準備をしておこうかな、なんて思っちゃったり……です」
敷物の上にうつ伏せで寝そべり、パラソルの陰の中で彼女達はそう言った。
まぁ確かに俺は上手い。誰よりも上手い。それは職業柄によるものだ。
まぁここでグダグダ言っても仕方ないので、俺はため息を吐きつつ塗ってやることにするのだった。
そうだなまずは――オリヴィアから行くとしよう。
「では君から行くぞオリヴィア。君の水着は二人に比べて肌の露出はまだ控えめだからな、すぐに終わる。……まぁ、背中部分がこんなにざっくり空いているのは今初めて見て驚いたが」
「お、お願いしますマルク様っ」
フリーダもそうだが、オリヴィアも長い髪を結んでいて、常夏の島にぴったりなアップスタイルだ。
そんなオリヴィアの背面は大胆に肌が露出していた。
そしてうつ伏せという背面状態からでも、巨大な胸が押し潰されているのが見て取れた。
俺は紳士だから分かる。これは〝裏乳〟と呼ばれるやつだ。
そんなオリヴィアの背を見つつ、俺はオイルを手のひら全体に馴染ませる。
まだ男性に触れられたことのないであろう、純潔な背中に触れた。
「温かい……ですっ。ん……っ」
「体に力が入っているぞ。今回はただのオイルだが、本番は催眠用インクを使う。インクは冷たいし、体に力を入れられると上手くいかない。練習だと思って、力を抜くんだ」
「は、はいっ……ふっ、ふっ……んん」
オリヴィアは最初戸惑っていたが、次第にその体から力が抜けていく。
これも天才ゆえか、すぐに彼女は順応してくれた。
「いいぞオリヴィア。処置した中では君が一番素直だ」
「なんだか心地良くて……ん、むにゃむにゃ……」
「おいおい寝るな寝るな。これから仕事だぞ」
オリヴィアは眠くなってしまうタイプらしい。
本番は二人きりだ。寝てしまうのは問題ないが、こんな体が無防備になってしまうと、紳士でなければ間違いが起きてしまうのではないだろうか。
俺はプロなので、間違いはないが。多分――いや、絶対な。
「よし終わったぞ。腕の部分等は自分でやってくれ。さて次はフリーダ、君だ」
「う、うん。お、お願いする」
「……塗るには邪魔だから、ブラの紐を外して欲しいんだが」
「……取ってっ」
さすがの紳士の俺も、一瞬くらっときたが。
これから依頼を行うということは、これも仕事の一環。
プロらしく、クールにフリーダのブラ紐を解いてやる。
「動くなよ。今ブラは脱げているのだからな」
「わ、分かってるっ。……それとも、動いてほしいという意味だったり……?」
「こういう時だけ深読みするな。塗るぞ」
フリーダが恥ずかしがっているのは分かった。彼女は耳に態度が出るからな、今も真っ赤っかだ。
「よし、終わりだ。催眠紋と違って温かいオイルだからな、体も強張ってなかったぞ」
「う、うむ。普通はこんなものなのだな。……で、ではマルク、ブラを付けてもらっていいか……?」
「……了解だ」
俺はまたそんな注文を受けてブラを付けてやった。
では最後は――ジルだ。
「残るは君だけだな、ジル。覚悟はいいか」
「な、何よ覚悟って。冷たくないんでしょ? なら楽勝じゃない、さ、さっさと触りなさいよ」
二人の様子を見てジルは余裕そうだったが――そうは行かないだろうなと、俺は直感していた。
なぜなら――
「では、触れるぞ」
「はぁんっ――! や、やだっ……感じちゃう! な、なんでっ」
「それはそうだろう。だって君は人一倍――いや、万倍くらい敏感なんだからな」
「ふっ、はっ、はっ……ぁんっ!」
ジルは長年聴覚機能をセーブしてきたからか、全身の感覚が鋭いのだ。
だから温かろうが冷たかろうが、関係なく反応してしまうのである。
「暴れるなジル、君の蹴りは岩をも砕くんだぞ」
「そ、そんなこと言ったって……こ、こんなの、気持ち良すぎてっ」
ジルは脚をバタバタさせて過敏に反応する。
まぁ本気の蹴りではないので安心安全だ。今の俺のセリフも気を紛らわせるジョークだ。
そして俺は少女のある部分を外す。
「ちょっ、今ブラ外してっ……!」
「マイクロでも紐が邪魔だったからな。動くなよ、見えてしまうぞ」
「っ……あ、頭おかしくなっちゃうっ……!」
暴れるジルに俺はオイルを塗る。
なんとか仕事をこなすと、ジルのブラも付けて、日焼け対策はバッチリ完了するのだった。
「はぁ……はぁ……なんかもう、一戦ヤった気分だわ……」
「大変な体質だな……ジルちゃんも」
「全員背中以外も塗ったな? ではそろそろ――」
「あ、ち、ちょっと待ってっ。あたしからも一つあるんだけど」
するとお疲れ気味なジルが手を挙げた。
「なんだジル。もう一回してほしいのか?」
「ち、違うわよっ! そうじゃなくて、オリヴィアのことで軽くやっておきたいことがあるんだけど」
「私でございますか? なんでしょう?」
「気になってたのよ、ずっと」
ジルは意味ありげに言うと、こう続けた。
「オリヴィアの技名って、ちょっとダサくない、って」
「え、ええっ!?」
どうでもよさそうで、実は俺も気になっていたことだった。




