常夏の島でアーマーとか無理ですよね
「ここが常夏のリゾート村、バカンス村かぁ!」
「眩しい砂浜、打ち寄せる白波……神々が住む楽園かのような風景でございますっ」
「すごいすごいすごい! こんなところ毎日来たくなっちゃうわね、ねぇマルク!」
「誰もいないがな」
何事もなく村に着いた俺達はビーチに立っていた。
確かにこの世の絶景かのような美しい景色だったが――人は一人も見当たらなかった。
「なぜでございましょう? このような風光明媚な場所に人がいないなどと……ふぅ、暑いですぅ」
「リゾート地だし、一人くらい観光客いてもよさそうなのだが。……暑いぞっ」
「それほど魔物の被害が深刻ってことじゃない? ……あっつ」
「――その通りですじゃ!」
暑がる女性陣が言葉を交わしていると、背後から声がした。
振り向くと、そこにはピカピカな頭に立派なあごひげの老人が立っていた。
ジルが老人を見て言う。
「お、第一村人発見ね。お爺さんはこの村の人?」
「わしはバカンス村の村長・スイムンですじゃ。その風貌、お主らがビアンツからの冒険者でよろしいかの?」
「そうだ。A級パーティの……ああもう、パーティ名がないと不便だな。とりあえず俺がマルク、右からフリーダ、ジル、オリヴィアだ」
名無しの不便さを愚痴りつつ、俺は手早く紹介を済ませた。
腰の曲がった村長――スイムンと挨拶の握手を交わす。
「遠路はるばるご苦労さまですじゃ。早速じゃが、依頼の話をしてもいいかの?」
「ああ、頼む」
「では……ほれ、説明を頼むぞい、サンセツ」
「チィーッス、補佐で孫のサンセツっす、シクヨロ~」
スイムン村長には補佐がいて、若い男性が一人隣に立っていた。
なんか知らんが腹の立つ若造だ。
そのサンセツは続ける。
「っとぉ~、ある程度は書類で確認してくれたと思うんすが、最近ビーチに魔物が出るようになったんすよ。ビーチに客が一人もいないのも、それが原因っす」
「らしいな。魔物はサハギンと聞いたが」
「っす。しかもしかも、その群れには女王であるサハギンクイーンが混じっているかもしれねんすよ!」
「クイーン……強そうです。実際に見られたのでしょうか?」
俺がイライラを抑えていると、オリヴィアがサンセツに聞く。
「うひょっ、チョーデカパイ女! ……っと、そうっす、実際に見ましたっす。見たのはあっちにある洞窟で、体格がゴツく、乳房がある種でしたっすよ。天井がない洞窟っすから、暗くて見間違えたということもないっすね。俺っち一般人なんで詳しくないっすが、あれはクイーンだと思うっすよ!」
「なんかムカつくわね。蹴っ飛ばしていいかしら」
「うひっ! こっちはミニマム系美少女! どうぞどうぞ蹴ってくださいっす! サハギンの群れにはチョー迷惑してるっすから!」
「蹴りたいのは君のことだと思うぞ」
ジルの発言を俺が確信を持って補足すると、スイムン村長が申し訳なさそうに続けた。
「すみませんですじゃ、ウチのバカ孫が……これ! 失礼じゃぞ謝らんか!」
「うーっす、反省してまーす」
「まぁまぁご老人、私は気にしていないから怒らなくても大丈夫だ」
「ふおっ! ゲキヤバテンアゲ美女! で、でへへ、ナイトしてもらってあざまる水産っす」
「あざまる水産っ!? はははっ、面白いじゃないか! 私は気にしないよっ」
「すみませんですじゃすみませんですじゃ……」
反省が見られないが、フリーダが言うなら仕方ない、俺も大目に見よう。
ジルもそうしたのか、話を依頼に戻した。
「クイーンとなると、B級か、個体によってはA級くらいには難易度上がりそうじゃない。ちょっと燃えてきたわね」
「S級昇格に相応しくなってきたな。――村長、その魔物を討伐すれば依頼は完了ということでいいんだな」
「いえっ! それだけではないですじゃ!」
と、村長のスイムンは口から泡を飛ばしながら否定した。
この変容ぶり、何か別の強力な魔物でも控えているのかと俺が身構えていると。
「魔物の被害によってわしらの村にはさっぱり観光客が寄り付かなくなってしまったのですじゃ……そこでお願いがありますのじゃ。冒険者さん方、魔物を退治した後、どうか村の評判回復のため、一肌脱いではもらえんじゃろうか!」
「広報活動をしろと? 悪いが俺達はただの冒険者だ。そんなスキルは持ち合わせていない」
「そこをなんとか! 報酬はきちんと払わせてもらいますですじゃ!」
村長が懇願してくるが、そんな仕事やったことがない。
それは俺だけでなく仲間達も同じだろう。
俺達の能力を超えていると俺は否定したが、このパーティにはお人好しが二人はいるわけで。
「マルク、どうだろうか。スイムン村長がここまで頭を下げているのだ、望み通り、私達が一肌脱いでやっても」
「私も提言いたします。困った者を放っておくのは神の教えに反します。ここは一つ、私達が一肌脱ぐこともやぶさかでは」
「あたしは報酬次第かしらね。……ま、まぁフリーダが言うなら、あたしも一肌脱いでやってやらないでもないわ」
「そんな簡単な仕事じゃないだろう――」
と、最後に俺が言おうとしたが。
「――ムフフ! 三対一で、一肌脱いでくださるのに決定~! ですじゃっ!」
「ヒューッ! さっすが爺ちゃん! んじゃ早速――これに着替えてくれっす!」
この二人の勢いに押され、俺の意見は掻き消された。
そして孫のサンセツがどこからともなく取り出したのは――
「この薄い布切れ――水着、というやつか?」
「お兄さん大正解! さ、全員これに着替えてくださいっす~♪」
「は、はぁ!? これから魔物倒しに行くのよ! こんな肌出し装備、攻撃食らったらヤバイじゃない!」
「フォフォフォ、ご安心くだされ! これはバカンス村特製の衣装装備ですじゃ! 防御力はそのままですじゃぞ~!」
水着は衣装だった。
「こ、こんな面積の小さい服があるのですね。わ、私が着たら、こぼれてしまいそうです……」
「あ、あはは、すまない村長殿。これはさすがに人前では着られない。……マルクになら見られても構わないが……他の男性にまで見られるのは、ちょっと」
「嘘……だったのですか、じゃ……」
軽々しく受けるものではなかったとフリーダが断ると、村長はがっくりと項垂れた。
あまりにショックだったのか、語尾までもおかしくなりつつあった。
「バカンス村が……俺っち達の生活がどうなってもいいって言うんすか……」
「い、いや、そうは言ってないっ。ただ、恥ずか――」
「ではこの水着を着てくだされ!! 大丈夫ですじゃ、水着姿ではしゃがれる姿を絵に収め、それを広告に使うだけですじゃ! これは芸術、いやらしい感情は一切ありませんですじゃ!」
「一切! いやらしい感情は! ありませんっす!!」
どこに控えていたのか、ビーチには何人もの絵描きが画材一式と共に現れ、今この時から絵を描き始めていた。
最初は孫のサンセツにだけ目が行ったが、どうやらこの一族がダメ一族らしいな。
逃げ場を失いつつある女性陣に、俺は言った。
「ここはもう受け入れろ。軽々しく依頼を受けた君達が悪い」
「う、うぅ、そうだけどもっ」
耳を赤くするフリーダ。俺はその赤い耳に小声で話した。
「……後でなんとかしてやる。絵をどうにかさえすれば君達の裸――ではなく、水着姿が世に出回ることはないんだからな。考える時間をくれ」
「マ、マルク……! うんっ!」
催眠でこの場を収める手もあったが、後でバレだ時、依頼主に催眠術をかけたと悪評が立つ。
これはS級昇格の試験なのだ、昇格した後に取り消しとなっても困る。
今は辛酸を舐め、後で挽回するために、俺達は水着姿に衣装チェンジするのであった。




