装備強化でさらに強くなろう! ③ 陰キャな符呪屋さん編
「いらっしゃい……ごにょごにょ……ごにょごにょごにょ」
次に俺達がやってきたのは符呪の店だったのだが――
「マ、マルク様、ここが符呪のお店でよろしいのでしょうか? なんて言いますかその……ゴミ屋敷みたいな散らかりようで、足の踏み場がっ」
「ここの店主は魔道具の収集癖があってな。気をつけろよ、踏み壊すといじけて二度と符呪を頼めなくなるぞ」
やってきた店はとてつもなく散らかっていた。
店自体はそんなに広くないのに、様々な形状のアイテムに支配されていたのである。
俺達は足元にのみ広がる迷路を通り抜けると、ようやく店主の前に辿り着いた。
「うっ、こんなに人がたくさん……す、少し待ってもらっていいかな」
「ふぅ、ふぅ、やっと店主さんの声が聞こえました……えと、何されているんでしょうか……?」
店主はエルフの男性だ。頬はこけ、丸メガネをした地味な見た目だ。
そんな店主が散らかった店内から取り出した物。
それは、一体の人形だった。
「アイヴィー、今日はお客さんが多いねぇ。悪いけど、また話を聞いてもらっていいかな? ――『はいっ、ご主人さま……』」
「お人形さんに語りかけ始めましたっ!」
「繊細な男なのさ、彼は」
「アイヴィー、初めてのお客さんみたいだから代わりに謝ってもらっていいかな? ――『ごめんなさいお客様。僕――いえ、彼はちょっと人見知りで……無機物を一点に見つめてないと落ち着かないんです』……」
エルフの店主は声色や口調は変えず、そして何か特別な身振りもさせずに、魔物の形を模した人形に扮して喋るのだった。
彼はこれが一番落ち着くということなのだ。
「『落ち着いたところで……符呪したい装備は、どれかな?』」
俺達はその言葉を聞いて、装備の符呪――エンチャントを依頼した。
・【催眠特化の】石の魔力を秘めたコイン【の睡眠】 +1
催眠効果+32、効果時間+46、確率で昏睡+18%、全催眠術師スキル+1
・【火炎蜥蜴の】オーシャン・ブーツ【の炎】
火炎属性+106、確率で火傷+31%
・【癒し手の】鋼鉄のメイス【の破壊】 +2
回復効果+38、回復詠唱速度+31、物理攻撃力+22、全回復スキル+1
「やたっ! ダブルで炎属性、当たり引いたわ! くぅ~、これがあるからついついやっちゃうわよね、エンチャントは!」
「ジルちゃんが嬉しそうで良かった! 私は今回はやめておこう。……当たりを引ける気がしないから……」
「マ、マルク様、私のダイエットメイスにも聖なる力が宿りましたよっ?」
「これが符呪だ。自分の装備に、ある分野に特化した能力を付与し強化を図れる。ただし――符呪は〝沼〟だ」
「ぬ、沼……でございますか?」
感動に浸っていたオリヴィアに、俺は忠告を忘れない。
「符呪は運命のいたずら、神のいたずらなんて言われるくらい気まぐれでな。ここの店主の腕を持ってしても、どんな効果が付くかは完全ランダムなんだ。オリヴィア、君のメイスも接頭辞は良好なものが付いたが、接尾辞は普通のヒーラーにとっては正直微妙な効果だ。ただ君は殴れるヒーラーなので、無駄な効果というわけではない」
「そ、そうなのですね。しかしランダムとなると、その当たりとやらを引くまでは――」
「符呪依頼をしまくらなければならない。もちろん、その度に金がかかる。ゆえに沼なのさ」
ジルが飛び跳ねる勢いで喜んだのも無理はないということだ。
一方フリーダは堅実派なようで、今回はパスしたのだろう。
確実に強化されるわけではない。沼にはまれば、フリーダの武器に物理攻撃以外が延々と乗り続けることだって普通にある世界なのだ。
「もっと細かいことを言うと、数値に拘る冒険者もいる。もうそうなったら……沼から抜け出すのは無理な体になっているだろうな……」
「ひえぇ……わ、私はこれで十分満足でございます。コワイっ」
「『符呪は職人側もかなりのコスト払ってるからね。これがローコストなら、もっとサービスしたいんだけど……』――僕の代わりにありがとう、アイヴィー」
人形と会話形式で伝えるエルフの店主。
散らかっている店内も、多分そのほとんどが符呪に必要な魔道具なのだろう。
まぁ人形までそのカテゴリーに含まれているかは分からんが。
「ジル、符呪には満足したか? 残りの資金も少ない、これ以上の成果は俺は勧めないが」
「わ、分かってるわよ。――それに、今回は絶対に行かないといけない店もあるしね……!」
「あのジルさんが絶対に行かないといけない店……! それは一体っ、なんだか凄そうです!」
身構えるオリヴィアに、ジルは言い放った。
「お洋服屋さんよ!」
「えっ」
「このおへその催眠紋消さないと恥ずかしくて戦いに集中出来ないもん!」
「ジルちゃん、お店回ってる間ずっと手でおへそ隠してたもんね……」
そうだ、今回は最後にもう一つ寄るところがある。
俺はオリヴィアに向けて補足した。
「次で最後の店だ。この街一番の巨大洋服店――衣装店にな」
催眠紋を恥ずかしがるジルを見て、俺はショックを隠しながら、最後の店に向かうのだった。




