装備強化でさらに強くなろう! ② 飲んだくれの鍛冶屋さん編
「うぃ~、ヒック……なんだいあんたら、鍛冶依頼だったら、今日はもう店じまいだよ!」
俺達が次に足を運んだのは酒の臭いがぷんぷんする鍛冶職人の店だった。
広い工房に店主がたった一人。
背が低く、ひげもじゃでモヒカンヘアーなドワーフが一人しかいなかった。
「お酒の臭いが凄いです……。あの、マルク様、本当にこちらが鍛冶のお店なのでしょうか? 酒造か何かとお間違いでは……」
「いや、ここで合ってる。――おい店主、まだ午前中だぞ。強化を頼みに来た、幾つか打ってくれ」
「ヒックっ! やらねっ! 今日はやる気が出ねぇ! こう言う日は飲むに限るんだいヒック!」
「はぁ、全く。これで凄腕でなければ、こんな飲んだくれには頼まないんだがな」
身長が低いこともあってかわいらしく見えるが、このドワーフは大人だ。それもだいぶいい年をしている。
そんな大人が駄々こねるのもどうかと思うので、俺は先ほどのオーガのアイテム屋で買った酒を取りだした。
途端に、ドワーフの目が変わる。
「ぬおっ!? 酒じゃねぇか! ……おうおうなんだい、そんなもんでこの俺様を釣ろうってのかい? 俺様はそんな簡単には釣れねぇぞい? ヒック」
「そう思って、二〇年モノを持って来た。お前の好みの味だろう?」
俺がそう言うと、隣のオリヴィアが耳打ちしてきた。
「あ、あのマルク様。確かそのお酒、さっきのお店で買っためっちゃくちゃ安いお酒では……」
「フ、酔っ払いなんて、アルコールならなんでも構わないのさ」
オリヴィアの柔らかい吐息に男の感情を揺さぶられつつ、俺はそう返した。
ドワーフ店主は安酒と知らずに歓喜した。
「二〇年モノだって!? バカヤロウそれを早く言え! も、もちろん俺様にくれるつもりで持ってきたんだよな!? ヒック」
「まず一口やる。残りはお前の仕事次第だ」
「分かったくれぃ! やる気出てきたぜぇっ!」
ドワーフに急かされて俺は酒を注いだ。
彼はその一杯を一瞬で飲み干してしまった。
「か~っうめーっ……この舌にバリっと来て、生臭さの残る香り、何よりしょっぱい味よ! ――二〇年モノはやっぱり俺様の肥えた舌に合いまくりだぜぃ!」
「う、ううむ。人を騙しているようでちょっと気が引けるぞ……」
「いいのよフリーダ、本人幸せそうだし」
「もしかして、なのですが……二〇年モノが好きというより、味に慣らされて、こっちの安酒の方が好きになっただけなのでは……?」
「安上がりでいいじゃないか」
俺達が好き放題言う中、唯一真実に気付いていないドワーフは祈りを捧げ始めた。
「おお神よバッカス神よ! この世に酒を造ってくれてありがとう! ヒック」
「あら、一三神教を信仰してらっしゃるのですね。良い行いです、神も喜んで――」
「ハハっ、そうじゃねぇ嬢ちゃん! 俺が感謝してるのは酒の神バッカスのみよ! 他は名前も知らねぇ! 酒を造った神様なら、絶対イイ奴に決まってるからな! ウハハっ!」
「そ、そうでございますか。ま、まぁ信じる神は人それぞれですので、強制はしませんが」
「おっしゃ仕事すんぞ! 今日はどの装備を強化するんだい!? ヒック」
酒に釣られたドワーフはようやく仕事をする気になったので、俺は仕事の話をした。
今回の強化結果は以下の通りだ。
・石の魔力を秘めたコイン
↓
・石の魔力を秘めたコイン +1 魔法効果+10、効果時間+5
・純白角騎士団の剣 +2 物理攻撃力+20
↓
・純白角騎士団の剣 +4 物理攻撃力+40、速度+5
・純白角騎士団の鎧 -3 物理防御力-30、耐寒-10
・純白角騎士団の鎧 (マイナス能力消去)
・鋼鉄のメイス
↓
・鋼鉄のメイス +2 物理攻撃力+20
「はふぅ、やっとミニミニアーマーが元に戻ったっ」
「す、すごいです、ほんの数分で仕上げちゃいましたっ! それもお一人で!」
「弟子はもう帰しちまったしな! 俺様にかかればこんぐらいちょちょいのちょいよ! 酒の神バッカスには感謝しかねぇっ! ヒック」
「一三神には鍛冶の神様もいらっしゃるのですけど……」
フリーダの鎧も、ものの数分で治り、強化は一通り済んだ。
もう一つの用を俺は済ませる。
「諦めろオリヴィア、こいつには酒以外無駄だ。ほら店主、残りの酒だ。ついでに、フリーダの盾も一つ買いたい。この後符呪もあるから安価な奴を頼む」
「酒、酒ぇ! 盾ならなんでも好きなの持ってけ! 金はそこらに放って構わねぇからよ! ヒック」
おっと、これは良い時に来たと俺は思った。
好きな物――つまりこの店で一番高い物を安値で買ってもいいわけだ。
「うむ、そうか。では――この安くもなく高くもない『鉄の盾』を買うことにしよう! いいかな、マルク?」」
「……全く、君は真面目だな。だが、そういうところが君らしい」
「え? な、なんだ? もっといい盾あったのかっ?」
だがフリーダはあくまで予算内で収まる盾を選ぶのだった。
まぁ――これでいいのだ。
代金に見合わない盾を買ってしまっては、罪悪感から、今後は本物の二〇年モノを買わざるを得ない衝動に駆られそうだしな。
「さ、強化も済んだ。最後は符呪だ」
「待ってたわ。あたしの装備は炎属性をもっと強化したいのよ!」
「俺も符呪が本番だ。だから鍛冶屋では節制したんだからな、楽しみだ」
「ジルさんマルク様がテンション上がってますっ。……ということはつまり、本当に食べ物一つもないんですね……しゅん」
気落ちしてしまったオリヴィアを連れ、俺達は次に符呪の店に向かう。




