装備強化でさらに強くなろう! ① 血気盛んなアイテム屋さん編
「らっしゃい、ここは冒険雑貨の店だ。冒険で生き延びたいならまず冒険雑貨、アイテムを買っていきな。だが冷やかしってんなら――脳みそぺしゃんこにして犬の餌にでもしてやるから覚悟しろや」
街の広場近くにある職人通り。
俺達はその通りにある冒険雑貨の店に足を運んだ。
そこの名物店主に、いきなりそんな暴力的な言葉を吐かれるのだった。
「ひ、ひぇ……こわいです……神よ、お守りくださいっ」
「怯えなくていいオリヴィア。俺達は冷やかしではなく、ちゃんと購入する客なわけだからな」
「おぅあんたか催眠術師。最近はあんたの噂ばかりだぜ、今度はS級ボスのメドューサすらも倒しちまったってな。あんたは前からウチのお得意様だ、ドカンとサービスしてやるぜ」
「おお、さすがは私のマルクだ! オーガにも知り合いがいるとは、顔が広いな!」
アイテム屋の店主は亜人種のオーガだった。
オーガ種は体格が人間よりも大きく、巨人族よりかは小さいのだが、筋肉量は随一だろう。
顔立ちも厳つく、この街では割りと珍しい種族のため、オリヴィアは驚いてしまったようだ。
「私のマルクか。詳しく聞かせてもらっていいかな、フリーダ」
「あっ、い、いや、別に深い意味はないぞ! ちょ、ちょっと口が滑ったというか……き、気にしないでくれっ」
「おいおい催眠術師、お前主義はどうした? パーティメンバーとはそういう関係にならないんだろ、戦闘に支障が出るからってよ。それともまさか――二言を吐いたのか、男のくせによ」
オーガの店主が凄む。
この店主はきちんと店主らしくエプロンをしている。
巨漢にエプロンはなかなかどうして似合うものがあり、凄みも増している気がした。
だが俺は涼しい顔でこういうのだった。
「聞いただろう、口が滑ったと。彼女とは何もないし、俺も主義を変えるつもりはない。店主、君も君で相変わらず古いしきたりに縛られているみたいだな」
「オーガの伝統は俺の誇りだ。男は筋を通す、男は女を守る。お前が主義を貫く男なら、俺は伝統を重んじるオーガの戦士だ。ま、今はアイテム屋なんてやってるが」
「オーガさんも冒険者をやってらしたんですか? きっと高名な冒険者さんだったのでしょうね」
「お……おう。当たり前だろシスターの姉ちゃん。俺の最終ランクは――」
「――ちょっとあんた! いつまでくっちゃべってるんだい! お客さんの邪魔すんじゃないよ!」
と、店の奥から怒鳴り声が聞こえてきた。
視線を向けるがそこには何もいない――いや、いた。
人間種の腰くらいまでしか身長のない種族・ハーフリングの女性が。
「か、母ちゃん!? ち、違うんだこれは、お客に商品の説明をだな――」
「説明なんていらないよ! 見て分かんないのかい、そのお客さん達の腕は、A級でも上位の冒険者さん達だって!」
「そ、そりゃ知ってるが……ご、ごめんよぅ、母ちゃん」
「あ、あの体の大きなオーガさんが怒られてます……!」
「ぷぷぷ、当然よ。コイツは元F級冒険者。んで、そっちの奥さんは元A級冒険者。この街来たばっかりのあたしも、初めて聞いた時は驚いたもんよ」
そう、このオーガ店主、実は冒険者としてはあまり実力はなかったのである。
一応俺は補足する。
「笑ってやるなジル。F級と言っても実力がなかったわけじゃない。血が苦手で、見る度に失神してやめただけなんだからな」
「お、おい催眠術師、あんまり言うな! オーガの威厳が――」
「あんた! 口じゃなくて手を動かしな! ……ごめんねぇお客さん方、旦那には私が言っておくから、ほれ、好きに選んどくれ」
ハーフリングな女将さんが言う。
気は強いが結構美人だ。身長差も凄いが、気が合うのだろう、息は合っているようだった。
言われた俺達は、冒険向けのアイテムを吟味し始めた。
「――よし、こんなものでいいか」
俺達が買ったものは以下の通りだ。
・ヒールポーション(中) ×10
・ヒールポーション(大) ×30
・マジックポーション(中) ×20
・毒消し薬 ×12
・万能薬 ×20
「今度はちゃんと、状態異常治療薬も買ったんだな!」
「ああ。値段はするが、命には代えられない。それに、サービスするとも言っていたからな」
「回復薬も結構買ったのね。これはやっぱりあたし達用というより、オリヴィア用かしら?」
「はい。私は回復魔法は使えますが、自分自身にかけることは出来ませんので。……この不幸体質のせいで……」
通常ヒーラーは自分自身だって回復出来るものだがオリヴィアはそうはいかない。
幸いアイテム系は効果をちゃんと発揮するということなので、買っておいたのだった。
「この後『強化』と『符呪』もあるからな、今の予算で買えるのはここまでだ。店主、サービス助かった、また利用させてもらおう」
「おう、あんたらは期待のパーティだからな、贔屓に頼むぜ。……次は、母ちゃんが留守の時に来てくれると俺も助か……」
「ああん? 何か言ったかいあんた!」
「な、なんでもないですよもうっ!」
俺に耳打ちするが女将さんには隠し事は出来ないらしい。
また来ることを約束した後、俺は最後に一つ注文を追加する。
「酒を一つもらえるか。一番安い酒でいい」
「お酒でございますか? マルク様。一人で楽しまれるのはずるいですっ、私にも――」
「ふふ、違うよオリヴィア」
俺はオリヴィアの一面に笑った後、こう言った。
「これは捧げ物さ。次の鍛冶屋へのな」
酒を受け取った俺達は、次の店に足を向ける。




