決して淫紋ではない、決してな
「しくしくしく……ジルちゃんとオリヴィアに裸見られた……」
「やっぱりフリーダさんはお腹きゅっとしてました……羨ましいです」
「お、おっぱいは負けたかもだけど、あたしの方が上よ! そ、総合力ではねっ」
「うーむ、今回は無事に終わったが、やっぱりダメだな、集中力が乱れる。次から催眠紋を書く時は、基本二人きりでな」
ちゃっちゃとフリーダの催眠紋かけ直しを済ませた俺はそんな感想を述べた。
すると、ジルが言った。
「オリヴィアの話だけどさ、おかしな話よね、パーティメンバーにデバフをかけるんだもん。しかもそれがパーティ強化に繋がるかもしれないのよ? バフが通るようになるかもしれないわけだし」
「しくしく……そうだなジルちゃ――ん!?」
隅っこで脚を抱えていたフリーダが、ジルに相づちを打って仰天した。
裸からいつものへそ出し格闘服に戻っていたジル。
その、ジルの露出したへそを見て驚いていたのだ。
「ジ、ジルちゃん! おへそに、たたた、タトゥーが!?」
「はぁ? 大事なママからもらった体を私がそんな――うわわわわぁっ!? マジで入ってるじゃないっ!?」
「ジ、ジルちゃんが不良になっちゃったーっ!」
フリーダの指摘通り、それまで傷一つないジルのへそ周りの肌に、ピンク色のタトゥーが入っていたのだ。
ジル自身にも身に覚えがないようで驚いていたが。
「何言ってるんだフリーダ。それは俺の催眠紋だ、君も同じ箇所に入っているだろう」
「でへへ、そういえばそうでした! ジルちゃん、それはマルクのものっていうマーキングみたいなものだから、安心していいぞ!」
「き、きゅんっ……あ、あたし、マルクにマーキングされちゃってるんだ……っ」
きゅんきゅんしちゃっているジルだが問題ない。催眠紋の効果はステータスでも確認してある。
ジルはだが恥ずかしいようで、こう続けた。
「や、やっぱりイケナイことだわっ! こ、こんな不良みたいなことしちゃったら、ママに怒られるっ」
「今どきタトゥーなんて珍しいものでもないだろう。というか……本当はお母さん呼びじゃなくて、ママ呼びなんだな」
「っ! い、今そんなのどーでもいーでしょっ! こ、これ消せないのっ?」
「無理だ、そこだけはな。――元々催眠紋を消すスキルは女性に配慮するだけのスキルじゃないんだ。相手に悟られないようにカムフラージュする意味合いの方が強くてな、実はTier1の割りに有用な」
「詳しい解説とか今どーでもいいんだけどっ!」
「大丈夫だジルちゃん、カワイイぞ! ……ち、ちょっと『淫紋』っぽいけども」
妙なモノとデザインは似ているが、細部は異なるぞ。
まぁジルには申し訳ないが、我慢してもらうしかないわけだが。
「まぁ嘆くな。先の冒険で色々アイテムも手に入れた。どうだろうか、ここで一つ『装備更新』をしてみるのは」
さすがに年端もいかない少女にタトゥーはキツイかと、俺は一つ提案してみせた。
フリーダが続く。
「うむ、それは良い考えだ! 私も盾を失ってしまったし、よ、鎧も未だミニミニだっ。マルクも新しい装備を手に入れたし、次に向けてしっかりと『強化』・『符呪』を施さなくてはな!」
「そ、そうね、それは良い案だわそうしましょっ! 私も装備の『衣装』変更でどうにかすることにするっ!」
「きょうか? ふじゅ? すきん? えとえと……それは食べ物でございますか?」
ちょっと食いしん坊なところが出てしまったオリヴィアがそんな勘違いをする。
俺達は冒険者なので慣れた言葉だったが、初心者の彼女には難しかったようだ。
――そういうことならば。
「そうだな、オリヴィアには色々解説しないとならないか。では、行くとするか」
「は、はい。でも、どちらに?」
「街の強化施設さ。チュートリアルパートと行こうか」
俺達は街に出るのだった。




