☆ジーク視点 ランク落ちのパーティと、もう一人の男 ①
「ラ、ランク落ち、だと?」
「は、はい。今回の依頼も失敗されましたので、この決定は妥当かと」
俺の目の前にいる女がそう通告し、一枚の羊皮紙を渡した。
ここは冒険者ギルド、目の前の受付嬢は例の仕事の出来ない女だった。
俺はその羊皮紙に目を通す前に、怒りを撒き散らした。
「ふざけるな女! 仕事の出来ないお前のことだ、どうせまた適当な仕事でもしたんだろ、取り消せ!!」
「ひ、ひいぃ……」
「騒がしいと思ったら、またテメェらか、光の翼」
俺が女の間違いを正してやっていると、奥からある人物が出てきた。
ここに籍を置く物なら誰もがその面を知っている。
この冒険者ギルドのトップ、ギルドマスターだ。
「お、お前は、ギルドマスター……」
「お前、だ? ずいぶん偉くなったじゃねぇか。今度は何で騒いでやがる。事と場合によっちゃクビにするぞ」
「さ、騒ぐに決まってるだろうが! このグズ女が俺達のランクダウンを通告してきやがったんだぞ! 適当な仕事しやがって、不当な評価だこんなもの!」
「ほう? テメェ、このオレの仕事にケチつけるってか」
「あんたの……仕事だと……!?」
俺ははっとなって、受付の女が先ほど渡してきた羊皮紙にちゃんと目を通した。
そこには――このギルドマスターの署名と血判が押されていたのだ。
「あ、あんたが俺の仕事を否定したっていうのか!? ど、どういうことか説明しろ!」
「どういうことも何も、テメェらは仕事を連続でミスった。しかも今回のは、ランクを落としたB級依頼だぜ」
「くっ!!」
そう、俺達が今回受けていたのは本来のA級ではなく、B級。
毎日女二人の相手する宿代も尽きてきたので、急遽B級の依頼を受けたのだ。
だが――それも失敗しちまった。
「それになぁ、恨み言を言いてぇのはこっちなんだぜ、光の翼」
「な、なんだと」
「テメェらがあんまりしつけぇから、オレはあのマルクとかいう催眠術師の追放に判を押したんだ。本来そういうことに首を突っ込んだことはなかったってのにな」
このギルドマスターは基本放任主義だ。
だからギルドで揉めようが、扉が何十枚とぶち破られようが、手は出さない。
それを俺が無理言って頼み込んだんだが……こいつ、ここに来てそれを持ち出しやがった。
「だがどうだ、蓋を開けてみりゃ、あっちは今やS級手前、テメェは落ちていく一方だ。……赤っ恥だ、詫びを入れに行かなきゃならねぇ。オレは、この役職を手放そうかとも考えているくれぇだ」
「あ、あんたが決めたことだろうが、俺のせいじゃねぇ! 自分の行動に責任くらい持ちやがれ!」
「ああ。だからテメェも腹くくれって言ってんだ、光の翼」
ギルドマスターは俺から羊皮紙をかっぱらうと、改めて俺に突き付ける。
「ここではオレの決定は絶対だ。出て行くか、受け入れるか。好きな方を選びな」
「こ、こいつ……ハメやがって! これだから仕事の出来ねぇ女は嫌いなんだ、このヤンキー女がっ!」
このギルドマスターは、女だ。
年齢は不詳だが若く見える。ポニーテールに露出多めの軽装備。性格は悪いが、イイ女だ。
こういう権力も立場も強い女を腕力で屈服させるのも愉快そうだったが、こいつには敵わねぇ。
ランクは知らねぇが、同格の俺には分かるのさ。
あの役立たず野郎の催眠が効けば、いいように出来るのかも知れねぇ、と、俺は一瞬考えたが、頭を振って払い退けた。
俺達よりも成功しているあいつのことはもう、思い出したくもない。
「さぁ、どうするんだ光の翼。クビか、C級転落を受け入れるか」
「し、C級!? お、おい待て、俺達はA級だったんだぞ! 落ちるならB級止まりのはずだ、失敗した依頼もB級だ!」
「テメェ自分で言ってて気付かねぇのか? そのB級にも失敗したんだ。――なら、C級が妥当だろうが」
「お、俺達光の翼が……C級だと……っ!」
「早く決めろ。オレは詫びの準備で忙しいんだからよ」
ユーニスとベラを連れてこなくて良かったと、俺は心底思った。
選択肢なんてない。
俺は皆が注目する中、ランクダウンに同意するとかいう、最大級の屈辱を味わったんだからな。




