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オリヴィア、おねショタ危機一髪

 俺達はダンジョンを抜ける道を見つけ出し、無事に石の神殿を脱出した。

 石化から解放された冒険者を引き連れて、ようやくビアンツの街に辿り着いていた。


「あの、マルク様。冒険者の方々は目覚めたばかりで体調の優れない方もいらっしゃいます。出来ればまず、私の修道院にお連れして差し上げたいのですが……」

「そうだな、その方が良い。ギルドへの報告はその後で問題ない」


 目覚めたばかりの冒険者達は長い者で一年以上、石化していた。

 男も女も、エルフや獣人もいた。

 石化の日数が浅い冒険者が多数だったが、俺が肩を貸さないと歩けない者もいた。

 回復スキルだけではなかなか治療出来るものではないだろう。もっと長期的な療養が必要だ。

 ただ幸いなことに、二日目くらいから意識は途絶えていたらしく、精神に異常をきたしているものが一人もいなかったのは救いだった。


「さぁ頑張れお前達、あと少しの辛抱で横になれるぞ」


 俺は彼らを元気付けて、修道院を目指す。

 そしてその修道院には――


「ぐへへへへっ! この修道院は俺達『終末女神教』がいただいた!」

「抵抗するなよババア共! あぁ、早くあの雌牛シスターで一発キメこみたいぜ!」


 例の、体に鎖を巻いた集団が再び現れていたのである。

 男は六人。老シスター達は一纏めにされて男共に取り囲まれている。

 男の一人が一枚の羊皮紙を持っているところから、脅しに屈し、権利書か何かを渡してしまったのかもしれなかった。


「ちょっとオリヴィア、あれ何よ。あいつらもあんたんところの信者、ってわけじゃないわよね」

「そうか、ジルちゃんは知らないのか。あれはただのごろつき、迷惑な集団なんだよ。マルクが追い払ったはずだが……」

「催眠が解けたのか――もしかしたら、俺が石化してしまったせいかもな」


 俺の催眠スキルは低位のスキル。

 フリーダへの催眠は石化だけでは切れなかったが、街とダンジョンでは距離もあったせいか、催眠が解けてしまったのだろう。


「冒険者を頼めるか。俺が行って片付けて――」

「いいえマルク様、ここは私が。彼らは私に用があるようですし」

「大丈夫なのか?」

「ここは私と、神の家です。二度も皆様の助けになってしまっては、神も失望することでしょう」


 自分の大事な場所を良いようにされて、思うところもあるだろう。

 俺はオリヴィアの意志に任せることにした。


「ごろつきの皆様。私の家に何用でございますか」

「ぐへへへへっ! 言ってたら来たじゃねぇか、極上の雌牛がよぉ!」

「お前ら手ぇ出すんじゃねぇぞ! ()()様にも献上するんだからよぉ! ……その次は、俺様だ!」


 全く虫酸が走るなと、紳士の俺は思う。

 今この場で俺が催眠をかけてやりたいところだったが、ここはオリヴィアに任せると決めた。

 オリヴィアは、両手を重ねて祈るように言う。


「その権利書を私に返して、立ち去ってください。そうすれば、まだ神もお許しになられることでしょう」

「バ~カ! 神は俺達の方にある! 一三神教など、我が終末女神教の足元にも及ばない愚教! 雌牛女、お前こそその淫靡な体を俺達に献上して、女神教に鞍替えしろ!」


 終末女神教――もしかして、フリーダが引っかかりかけたあの新興宗教のことだろうか。

 少し名前が違うが、分派か、それともこちらが本家か。

 どちらにしても、欲望に忠実な宗教など初めて聞いたが。


「ぐへへ、そうだ雌牛女。お前が俺達に従うと言うならば、いきなり教祖様に献上するのはやめてやる。その代わりに――このガキ共と順番にまぐわってもらおうか!」

「お、お姉ちゃん先生、怖いよぉっ」

「ママーっ、オリヴィアママーっ!」

「な、なんて卑劣な……子供達まで……! ああ神よ、あなた様の家が荒らされているのですよ、どうか私にお告げをっ」


 修道院にはシスターの他に子供達もいる。

 ごろつき共に捕まって震え上がっていた。


「いいんですかいアニキ、教祖様に処女を献上しなくても」

「教祖様は懐の広いお方だ、処女に興味はないのだ。それよりも、こうやって他の男の後の方が好まれる。ぐへへ、教祖様の教え、『おねショタ』というやつだ!」

「おお……我が教祖、何と()()なお方! ぐへへへ!」


 話を聞いていたジルは舌を出し、拒絶反応を見せる。


「うぇ……何言ってるか分からないけど、あいつらキモイわね。早く蹴り飛ばしてやりたいわ」

「まぁ待てジル。オリヴィアに考えがあるようだ」


 俺が言うと同時に、オリヴィアが語りかける。


「……分かりました。少しお待ちいただけますか、ごろつきさん」

「ぐ、ぐへへ!? ま、マジでやってくれるのかっ! 話の分かる雌牛だぜ!」

「――あの、フリーダさん、お願いが」

「大丈夫かいオリヴィア。手に負えないなら私が」

「いえ、ここは私にお任せを。それより、修道院の祈りの間に、私の『聖典』があります。それを取ってきてはもらえませんか」

「わ、分かった、聖典だなっ」


 教会に入っていくフリーダを余裕の表情で見送るごろつき。

 鎧がミニミニ状態なフリーダは体を隠しながら、修道院にある物を取りに向かう。

 聖典だ。


「聖典? ぐへへへ! そいつはいい、神の教えを説きながら、子供に処女を散らされるとか、最高の()()()じゃねぇか!」

「よだれが止まらねぇですぜアニキ! 教祖様もこの場にいればなぁ!」


 ごろつき共が沸く中、フリーダが帰ってきた。

 持って来たのは聖典――


「おいフリーダ、それのどこが聖典だ。それは聖典じゃなくてメイスだろ」

「何こんな時にボケてんのよ! もうめんどいから蹴っ飛ばすって話?」


 じゃなくて棍棒。メイスだった。

 黒く物々しい色合いで、小さく棘が飛びだしている、よく見る標準的なメイスだ。


「い、いや、ボケてるわけじゃないぞ!」

「じゃあなんだって言うんだ、どう見てもそれはメイスだろ」

「いやほら、ここに『聖典』という張り紙が!」


 知力18のフリーダをジト目で見ていた俺とジルだったが。

 メイスには張り紙がしてあった。

 『聖典』と書かれた張り紙が。


「ありがとうございますフリーダさん。……ん、しょと。では、お覚悟はよろしいですね」

「……は? お、おい雌牛女、お前何するつもり――」


 オリヴィアがそれを受け取ると、片手で軽々装備する。

 そして――


「独学棍棒スキルTier(ティア)4――『ぐっちゃぐちゃ』! 痛いの痛いの、飛んでいけーっ!」

「ぐぎゃああっ!?」

「ぐへへへへへぇ!?」


 豪快にぶん回した。

 一度振り回しただけで六人の男達は修道院の壁にまで吹き飛ばされて、めり込んでいた。

 たったの一振りで、この問題を片付けてしまったのである。


「お、俺、聞いたことがあるぞ……ビアンツの修道院の話」

「うおっ、救助した冒険者が急に語り出したぞ」


 その様子を見ていたボロボロの冒険者が、いきなり語り出した。

 俺はツッコみつつも、話を聞く。


「このビアンツの修道院には、凄腕のメイス使いがいるって。そいつは、回復スキルも使いこなし、人々を救済する姿からこう呼ばれていた、と」


 冒険者が言う。


「――()()僧、と」

「破戒……いや、破壊の方の意味でか」

「い、いやそれよりもオリヴィア、いいのかな、暴力で解決してしまって。神の家なのでは?」

「いいんです、もう。だって私」


 オリヴィアは鉄のメイスを一瞬で聖典に変えてしまう。

 ああ、あの張り紙は間違ってはいなかったんだな。


「神の声なんて、一度も聞いたことがないんですから」

「本当に君は……一体何者なんだ」


 ニコリと、いつもの優しい笑顔で言うのだった。

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