メドューサ戦 ④ ジルの体質
「あたしの体質は『ちょろちょろ耐性-10000%』……耳栓なしだと、すぐ人を好きになっちゃうの! だ、だから早くして、こうしてあんたを見ているだけでも、あたし……あたしっ、きゅぅぅぅん!」
「催眠特化ではないのか。……そんな耐性にも俺の催眠は効果抜群なんだな」
というかそんな耐性あるのが驚きだ、と俺が思っていると、メドューサの両目に魔力が集中する。
「チチチ、そうら、Tier5・『石化の魔眼』!」
「Tier5・『ファランクス』!」
フリーダが同じTier5のスキルで対抗し、完全に防いだ。
「くっ、急いでくれマルク、次の一撃で盾が持っていかれる!」
「とにかく、今から再度、『全覚醒』をかける。……ジル、目を逸らさず俺を――いや、俺だけを見ろ」
「きゅん……マルク、好き――はっ! ち、違うわ、今のはあたしの体質のせいでっ」
「ふむ、これがちょろちょろ耐性。想像以上にちょろくなっているが」
「は、早くして! あたしの体の方も持たないからっ!」
「分かった、かけるぞ! ――催眠スキルTier4・『全覚醒』!」
俺はコインを使って再度ジルに催眠術をかけた。
魔法の耳栓なしの、完全なる催眠だ。
「ん、んんんんんっ! 好き、好きっ……マルク、好きぃぃぃぃぃっ!」
これは――決まった。
フリーダの時と同じように、抜群の手応えを感じた。
ジルはそれを証明するように、闘気の嵐を放って――
「はぁ、はぁ……こ、これがあんたの全力催眠……S級に覚醒させる力……!」
「ジル、もう泣き言は言わないな」
「――もちろんよ! にゃん!」
そしてジルの頭には猫耳と、獣の尻尾が尻から生えるのだった。
「チチチ、もう一人変化したようだが遅いねぇ! 『石化の魔眼』!」
「ファランクス――くぁっ!?」
Tier5スキル、三発目。
その圧倒的な力にフリーダの安い盾は耐えきれず、遂に砕けた。
いよいよ瀬戸際だ。
「盾が壊れた! もう正面からは防げない!」
「催眠スキルTierティア4・『基本異常耐性全アップ』――大丈夫だ、フリーダだけでなく、今ここにいる全員にもバフをかけた。……ただ」
「マ、マルク様、お体がっ!」
「俺自身の耐性は平凡なんでね。早めに……決めた方がいい……っ」
盾にヒビが入っていた影響か。
先ほどの一撃は完全には防ぎ切れておらず、俺の体は徐々に石化が始まっていて、体の端々から灰に染まりつつあった。盾がなかったらすでに絶命していただろう一撃だ。
猶予はない、俺はジルに全てを託す。
「ジル、この戦いはパーティ戦だ。パーティ全滅をさけるためにも、フリーダの力と君自身の力が最大限活かせる動きをしろ。身勝手は慎め」
「そ、そんなことよりあんた、自分の体が――っ!」
「俺の最期の言葉だと思って聞け。他三人を守れるのは、君しかいない」
「最期って、そんな……! ――くっ、分かったわ、このパーティを死なせない! そこにはあんただって含まれるんだから、それまで耐えるのよ! 行くわよ、フリーダ!」
「ああ! 奴を倒せば、呪いは解ける!」
フリーダとジルが飛び立つ。
今度は自分勝手な動きではない。
左右二手に分かれた、波状攻撃だ。
初めて共闘する二人だが、息はすでにぴったりだった。
二人が死闘を繰り広げる中、俺は動かなくなった首を諦めて、オリヴィアに視線だけを向ける。
「オリヴィア、すまない。君にもバフはかけたが……まるで手応えがなかった。君は不思議と石化していないが……フ、日頃のお祈りの差か。動ける内に石像の裏にでも隠れておくんだ」
「そ、そんな、マルク様を置いていくなど……ああ神よ、神よっ!」
オリヴィアは俺と違って石化を免れていた。
オリヴィアに逃げるように言うが。
「しゅこしゅこ……しゅこしゅこしゅこしゅこっ」
「な、何をしている、オリヴィア」
「回復魔法を……石化解除の神聖術スキルを、使っていますっ!」
オリヴィアは俺から離れることなく、俺の石化した部位に手を当てて黄金のスキルを放っていた。
「神よ、神よ……! 今こそ私に、そのお声を届けてくださいっ!」
「やめろ、勝手な行動はよせと言っただろう」
「いえ、やめません! 私は、冒険者ではなく、人を救うシスターですから、命令には従いませんっ!」
「無駄だというのは君自身が一番分かっているはずだ。君は石化解除のスキルはまだ覚えていないと言った。だから――」
「今、覚えて見せます!」
「なんだと? そんな天才じみたこと出来るわけが……く、博愛の精神も、行き過ぎると考えものだなっ」
「神よっ……!」
オリヴィアは今覚えると言い切って見せる。
どれだけ強く言っても無駄だろう。俺の体ももうほとんど動かせない。
オリヴィアの人を救う意志は、俺の石化しつつある体より堅そうだった。




