ストーンバジリスク戦 ② Tier4の、その先
「ま、マルク! ジルちゃんの頭から耳が生えたぞ!? 今度はなんの催眠だ!?」
「な、なんと不思議な光景……これも一三神様のお導きなのでしょうかっ」
「俺は全覚醒をかけただけなんだが……」
俺の全覚醒を受けたジルの体に変化が起きてしまった。
原理は分からないが、今度は俺だけじゃなく、フリーダやオリヴィアにもはっきり見えているらしい。
これはやはり、と思っていると。
「これなら……! 今のあたしにも一つ上のスキルが放てる! 行くわよ! ――にゃんっ」
「本人気付いていないみたいだな……」
ジルは自分の潜在能力が解放されたのに夢中で気付いていなかった。
命令を待たずに飛び込むと、今まで見せたどれよりも優れた、最高のスキルを放つ。
「蹴撃スキルTier――4.5! 『紅蓮脚・獅子』!」
「シャァァァァッ!?」
激しい炎を伴う回し蹴り。
だがその炎は獅子の咆哮にも似た轟音を伴った。
このダンジョン全体が蒸し風呂にでもなるのではないかというような温度の上昇と共に、ジルは蹴りを放つ。
――たったのその一撃で。
「シ……シャァァァァ……」
「うっそ……一撃でボス級、仕留めちゃった! ――にゃんっ」
空中にいるジルが地面に降りたつより前に、A級のボス・ストーンバジリスクは息絶えるのだった。
俺よりも先に、女性陣二人がジルに駆け寄る。
「す、凄いですわジルさん! まるで神話の神様みたいでした、あんな大きな魔物を一蹴りで仕留めてしまうなんてっ」
「うむ、恐れ入ったぞジルちゃん! Tier4.5とは!」
「へ、へへへ。あたし自身も驚いてるにゃん。このスキルはTier5に昇るためのとっかかりになるスキルで、まだ思い描いていただけの段階だったから。もっと鍛錬を積んでからじゃないと出せないと思っていたのに……にゃん」
俺は最後に歩み寄り、ジルにこう言う。
「見事だったジル。どうだ、初パーティ戦の感想は」
「っ……わ、悪くはないんじゃない? ……にゃん」
ジルは照るようにして背を向けて、そう言うのだった。
そしてぽつりと呟く。
「これがパーティ戦……これなら、これなら、最強の竜を倒すことも、夢じゃ――」
と。
それが何かを聞く前に、フリーダが少女の肩を叩いて言う。
「ところで、その耳はなんだ? 猫の型か!?」
「は? 猫? ――にゃん」
「うふふ、小柄なジルさんにぴったりで、とっても可愛いです。語尾もにゃんにゃんで、ぎゅーってしたくなっちゃいますっ」
「ちょ……ま、まさか、まさか――にゃん」
「おい二人とも、もう少し黙っていてもよかっただろう。このまま街に行ったらどうなるか、少し見てみたかったんだが」
「ま、まさか――うにゃーっ! またあたしの体にヘンテコな耳がーっ!?」
ジルは指摘されて気付いてしまった。
恥ずかしそうに手で猫耳を隠す。
よく見ると少女の体には、今まではなかった、牙のような八重歯まで生えていた。
「ち、ちょっとあんた、あたしになんのバフかけたのにゃん! 気付いていたら教えてよにゃん!」
「すまんすまん、街までと言うのは冗談だ、その前に教えてやるつもりだった。かけたバフはただのステータスアップ系だ。スキル効果も上がるタイプではあるが」
ジルが涙目で言う。
なんかこう、いたずらしたくなる少女だ。
それはさておき、俺はフリーダのそばで、一つ結論付けた。
「しかし、俺の全覚醒を受けてもTierが4.5で止まったということは……フリーダのような体質ではあるが、-10000%ではないのだな」
「む? ジルちゃんも私と似たようなタイプなのか?」
「可能性があるということだけだな。君ほど過敏ではないようだが――」
俺がこそこそとフリーダと話していると、ジルはなかなか収まらない猫耳を手で隠しながら、不意にこう呟いた。
「耳が増えちゃったら、もう一組耳栓買わないとだめじゃない……にゃん」
「耳栓――そういえば、この戦いの最中でも取った形跡は」
なかった、はず。
つまり、耳栓をつけた状態で俺の催眠をかけたら。
「はぁー治らないにゃーん!! ――もういいわ、帰る途中で治るでしょ! 先に行くわよ、フンだにゃん! <カチ>」
「……カチ、だと?」
「あのあの、この流れってもしかして、なのですが……」
ああオリヴィア、俺も知っているぞ、と俺は思った。
ジルは耳栓をしたままだ。そんな状態で罠だらけの未調査エリアを先行したらどうなるか。
ガタン! と、床全体が抜けてしまった。
「うぉぉぉいジルちゃぁぁぁぁん! また罠踏んでるじゃないかぁぁぁ!」
「ご、ごめんなさいにゃぁぁぁぁぁ…………」
俺達はまた、ダンジョンに飲み込まれていく。
今度は四人全員でだ。
下層を越えた――最下層。
A級のボスがいたところよりも深い、S級エリアに。




