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初めての冒険 ② にゃんにゃん拳闘士、にゃんにゃんする

「やや、ジルちゃん奇遇だな! も、もしかして、私達の仲間になりたくて後をつけてきたのかな?」

「そんなわけあるかっ! あとちゃん付けするな、馴れ馴れしいのよ女騎士! ――依頼(クエスト)の場所が被っただけでしょ、はぁ、サイアク」

「同じ依頼(クエスト)が掲示板に張り出されることはない。目的地は同じでも、依頼(クエスト)の内容が少し違うのだろうな」

「きゅんっ……! こ、この男もいるのかっ、ほ、ほんとサイアク!」


 俺が説明すると、ジルはちょっと傷つくような反応を見せた。

 するとやはり一瞬、彼女の体に耳が生えて獣人化しかけるが――


 ジルはすぐに後ろを向いてゴソゴソと何かを取り出すと、それをスポっと耳に差し込む。


「ふーっ、これであたしの防御は完璧! はいどうぞ、好きに喋っていいわよ」

「例の模様付き耳栓をしたら元に戻ったか……うーむ、謎だ」


 こちらに向き直ったジルの獣人化は途端に収まって、いつものツンツンスタイルに戻るのだった。


「あのあの、あちらのお子様はマルク様のお知り合いでございますか?」

「え、ああ。ジルという冒険者だ。蹴りに関しては右に出る者はいない」

「……ふむふむ、『あのあの、あちらのお子様はマルク様のお知り合いでございますか』って言ったんだね。……って、誰がお子様じゃーっ!」


 初対面だったオリヴィアに俺はジルを紹介する。

 ジルは読唇術――唇を読んで会話を理解しているからか、少しツッコミが遅れていた。

 フ、まだまだ甘いな、と俺は思うのだった。


「お初にお目にかかります、ジル様。私は一三神様にお仕えするシスターでございます。これからよろしく……あっと、小さな子には、難しい言葉だったかな? 私のことはお姉ちゃん、って呼んでもいいんだよ」

「あたしは子供じゃない! 一五の……レ、レディよ! まぁその、よろしくオリヴィア。あたしは別にお嬢様でもなんでもないから、様なんていらないわ」


 ジルはオリヴィアに挨拶を済ませると、俺とフリーダに視線を向けた。


「良かったじゃないあんた達、あれから仲間見つかったんだ。まぁなんか、あんま冒険者って感じしないけど」

「正式加入というわけではないからな。一時加入だ」

「うむうむ。でもヒーラーは必須職だし、出来ればこのままパーティに入ってほしいと、私は虎視眈々と狙っているのだが……フフフ」

「あんたも相変わらずね女騎士。……ふぅん、そうなんだ……あたしを誘っといて、他の人先に入れるんだ……」

「おい、なんかジルが拗ねたぞ」

「つ、つつ、ツンデレっ!」

「ち、違……誰がツンデレじゃーっ!」

「あらあらまぁまぁ、賑やかになりましたね。この出会いもきっと一三神様のお導き」


 なんだか不思議と会話が成立する。

 事情も性格も全員バラバラなのに、不思議なものだった。


「それにしてもジル、君は本当にソロなんだな」

「何よ催眠術師、あたしのことぼっちって言いたいの?」

「いやそうではない。ここまで魔物も多くいた、罠もあった。それを一人、無傷でかいくぐったのならば、君こそS級に近いんじゃないかと思ってな」


 こちらが三人パーティに対してジルは一人だ。

 着衣(そうび)に汚れもなく、ここまでの冒険が順調だったことを示していた。


「ふふーん、凄いっしょ! ――でもあんたに比べたらS級はまだまだ先よ。Tier(ティア)5のスキル習得なんて、雲の上過ぎて全然目処が立たないし」

「フフフ、ジルちゃん。そんなあなたにもTier(ティア)5スキルの習得方法があるよ。私が教えてあげようか?」

「何よ女騎士。今のあたしでも簡単に習得する方法でもあるって言うの?」


 フリーダは「ああ」と返事してから、こう続けた。


「マルクの催眠に堕ちることだっ!」

「ぜっっったいに、イヤっ!!!!!!」

「そこまで否定せんでも……」


 フリーダが気味の悪い笑いをした時になんとなく気付いてはいたよ。

 蹴り飛ばす勢いで否定されてショックはあったが、今のは仕方ない。

 フリーダの言い方が良くない。良くないのだ。

 堕ちるて。


「はぁ、長話しちゃったわね、あたしはもう行くわ。あんた達はそっちの奥に用事があるんでしょ」

「ああ。ではなジル、気をつけて」

「あたしを誰だと思ってるのよ。じゃ、あたしはこっちの()()()に用があるから」


 ジルは言って、脇にあった小部屋に足を踏み入れようとする。

 ああ、その部屋は未調査だった部屋だな、と、俺は思った。

 そこはそう、オリヴィアが先ほど罠を踏み抜こうとしてしまった部屋であり――


「さーて、何があるのかなぁ。<カチッ>」

「かち?」


 あろうことか、ここまで無傷だった完璧超人のジルがその罠を踏んでしまったのである。


「おいジル! 君みたいな冒険者がどうしてそんな見え透いた罠を――」

「あぁぁぁぁあしまったああぁぁ! 耳栓外すの忘れてたーっ!!」


 罠は空気の抜ける音で判別出来るものだったが、耳栓をしていたから、今のジルは引っかかってしまったのである。


 直後、ガタンという床が外れる音がして、ジルは落とし穴に吸い込まれた。

 俺は駆け寄ってギリギリで彼女の腕を取ろうとしたが。


「や、やだっ! 女の子の手を握るなんて――あっ」

「ば、馬鹿っ、手を引っ込めるな!」


 ジルは手を取られるのが恥ずかしかったのか、空中で手を引いてしまうのだった。


「くっ、やむを得ん! フリーダ、君はオリヴィアと行動しろ、後で合流だ!」

「マ、マルク!?」


 俺はとっさに落とし穴に飛び込んで、ジルの後を追うのだった。

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