冒険へ行こう! ~にゅるにゅる系修道女との出会い ①~
「――お腹をさわさわ、お腹をさわさわ」
「む……ここは」
俺が目を覚ましたのは、ベッドの上だった。
どこかの屋内らしいが、見慣れない景色だ。
「次はお股を拭きましょうね~。お股をにゅるにゅる、お股をにゅるにゅる」
「むおっ、なんだ君はっ」
次の瞬間、俺は下半身をまさぐられていることに気付いて飛び起きた。
俺のそばには桃色の長い髪をした女性がいて、その女性が俺の体を拭いていたらしい。
俺は冷静に一つずつ思い出して、ようやく現状を理解した。
「そうか俺は出血多量で倒れて……ここに運ばれたんだな。この修道院に」
「あら、お目覚めになられたのですね。目隠しをしていたもので、気付きませんでした」
目覚めたばかりでもここが修道院と理解出来たのは、目の前の女性が修道服を着ていたからだった。
「一瞬妙な店にでも連れて来られたのかと、鳥肌が立ったぞ」
「妙な店……でございますか? なんのことでしょう……?」
「ああ……君もそういうタイプか。まぁ独り言だと思って、気にしないでくれ」
紳士の俺はそういう類の店は苦手だ。
女性はもちろん好きだが、商売ではなく、愛を交わしたい男なのでね。
それは置いておくとして、俺は気になったことを聞いてみた。
「君が看病してくれたんだな、どうもありがとう。しかしどうして、目隠しなんてしているんだ?」
看病してくれた若き修道女は、どういうわけか黒い布で目隠しをしていた。
彼女は目隠し状態のまま、手を重ねて祈りの姿勢で答えた。
「私は一三神様に仕える身でございます。神と、そして生涯を誓える夫に出会えるまで、不浄なる行いを禁じているのです。この目隠しはそのため。私の全ては、神々のために」
「敬虔な修道女ということか。俺はマルクだ、君は?」
「オリヴィアと申します」
修道女オリヴィアは神に誓願を立てた敬虔なる修道女。
黒の生地に白が混じった修道服。ロングのスカートにスリットが入っているのは、『神が着た衣装』を由来とするもので、太ももとガーターベルトがちらりと見えている。
室内だからか帽子はしておらず、桃色の髪が露わになっていた。
それにしても――凄まじいスタイルだ。
一三神教の修道服は体型にピッタリ合ったものとされているため、それが露骨に浮き出ている。
尻も凄いが、胸はド迫力だ、あのフリーダの上を行くだろう。
このようなスタイルの女性が目隠ししているのは、中々扇情的だった。
「オリヴィア、体ならもう自分で拭ける、目隠しは外しても――」
「めっ、ですよ」
「む、『めっ』だと?」
「まだ治療は終わっておりません。だから、めっ、です。さぁ横になってください、『お姉ちゃん先生』が治してあげますからね」
「お姉ちゃん先生? ……女性に年齢は失礼だが、俺の方がだいぶ上だと思うが」
「あ、あらあら、申し訳ありません。男性には不慣れなもので、つい子供たちに接する感じになってしまいました。マルク様、そして一三神様、粗相をお許しください」
「そんなに謝ることじゃないさ。まあ冒険中に傷が開いたら大変だしな、ここはしっかり治療してもらうとしよう」
フリーダと同じで、まだ一〇代と二〇代の間くらいのオリヴィア。
俺はそんな彼女に言われて、起こしていた体をもう一度寝かした。
オリヴィアは手を伸ばして俺の体に触れるが――
「それでは失礼して……しこ、しこ」
「ち、ちょっとまてオリヴィア! そこは違うところだ!」
「あらあら、失礼しました。……ではなんなのでしょう、こちらのモコっとした膨らみは」
「いいから離した方がいい! ――くっ、紳士の俺になかなかのダメージを与えてくれるなっ」
俺のもこっとした部分をまさぐったのだ。
そこがどこかは詳しく言わないが、紳士の俺は精神的ダメージを食らう。
俺が目覚める前はどうやって一人でやっていたんだと疑問は残るが、とにかくこのままではまずい、色々まずい。
「オリヴィア、どうしても目隠しを外せないというのなら、俺が手を取って患部まで運ぶ! そ、それでいいか?」
「男性から手を握られる……これも困った方を救済するためでございます。神も、きっとお許しになってくれることでしょう」
「心の広い神様で助かった。では失礼する」
「やんっ」
俺は皮肉めいたことを言いながら彼女の手を握る。
彼女の手はその暖かな性格に反して、少し冷たい。冷え症なのだろう。
傷口にはすでに包帯が巻かれていて、俺は彼女の手をそこまで誘導してやった。
「ここだ」
「はい、ありがとうございます。では……」
オリヴィアの手がぼうっと、金色に光輝く。
回復魔法の代表的スキル、『神聖術』スキルの発動傾向だ。
「痛いの痛いの、飛んでいけ~っ ぴゅっ、ぴゅっ、ぴゅーっ」
「お、おまじないだと? 俺はてっきり神聖術スキルで――いや、待て」
「痛くない痛くない。すりすり、すりすり。こしょこしょ、こしょこしょ」
オリヴィアが謎の擬音を発したとき、彼女の両手からスキルが発動した。
これが修道女オリヴィアの治療術。
「紛れもない、これは神聖術スキルTier2、『ヒール』だ」
「ちゅぷちゅぷ、にゅるにゅる、にゅるにゅるにゅるんっ」
「妙な呪文詠唱だがな……」
そしてなんか心地良い。
じわじわと体の調子が戻っていくのを感じながら、俺はそんな感想を抱くのだった。




