俺以外の催眠にかからないようにする。君の体に催眠紋を刻んでな ⑤
誤字報告ありがとうございます。
修正いたしました。
フリーダが部屋に入ってきたのは、俺が準備を終えたちょうどその時だった。
まだ陽が差す明るい部屋で、俺たちは短く視線を交わす。
「ぬ、脱ぐぞっ……」
「ああ」
白銀のドレスアーマーは軽装タイプで、一人でも脱げる作りだった。
フリーダはカチャカチャと音を立てて鎧を脱ぐと、続いて下に着ていたアンダーウェアに手をかけて――硬直する。
恥ずかしさが最高潮に達しているのだろう、顔と、そして耳が真っ赤だった。
「これで隠して構わない。……すまないが、部屋は暗く出来ない。手元が見えないと作業に支障が出る。危険はなるべく排除したい」
「う、うん、こちらこそ、ごめん……じゃあ、ぬ、脱ぎますっ」
フリーダが覚悟を持って服を脱ぎ始めた。
渡した薄手の毛布で隠しながら、準備は整ったようだ。
「ではそこのベッドにうつ伏せで寝てくれ。背中は丸々見えるようにしてほしいが、尻は隠していて構わない」
「お、お尻っ……う、うん」
綺麗な体だ。
騎士でありながら傷一つ無く、きめ細やかな乙女の肌。
これからこの体に触れて、俺は催眠紋を彼女の体に書くことになる。
かつての仲間にかけたバフ効果だけではない。
俺だけの催眠にしかかからない特殊効果も併せて、だ。
「触るぞ。少し冷たいかもしれないが」
「う、うん……ひんっ!」
俺は特製の『催眠用インク』を人さし指につけると、彼女の背中に触れた。
今回のは特製だ、ピンク色のインクは温めると危険が増すので冷たいまま。
指が触れて彼女の体はピクリと跳ねたが、一度触れてしまえば冷たさには慣れる。
背中越しでも、フリーダの激しい鼓動は確実に指の腹に伝わってきていた。
「少し硬いな……」
「えっ!? わ。私の背中、硬いか……?」
「ああいや、そういうことじゃない。もう少しリラックスしてほしくてな」
「あ、ああっ、そっちの意味での……よ、良かった、筋肉でカチカチなのかと……」
「フ、今のでリラックス出来たようだ。その調子でいてくれ」
力のステータスが高いフリーダだが、あまり表には現れないタイプのようだ。
肌は柔らかく、しなやかだった。
俺は集中する。今回の催眠紋は特別だ、失敗すればどうなるか分からない。
――とはいえ、俺自身気負いすぎても事故に繋がりかねないだろう。
少しだけ、会話をすることにした。
聞きたいのは、なぜ即決してくれたのか、についてだ。
「どうして、俺を信じてくれたんだ」
「どうしてって――そんなの、あなただからだよ、マルク」
「俺だから……?」
「うん。あなたの催眠には全く悪意を感じなかったから」
「なぜ、そう感じたんだ」
「催眠には敏感な体だもん」
男女が密室で二人きり、しかも女性は裸。
悪意がないなんて、他の男ならば複雑な言われ方かもしれないが――俺には最高の賛辞にしか聞こえなかった。
なぜなら、こんなに仲間から信頼されたのは、初めてなのだから。
失敗は出来ないな、こんな思いを向けられては、と。俺は改めて思うのだった。
「嬉しいよ、フリーダ。任せてくれ、半端な仕事はしない」
俺は指先に神経を集中してフリーダの背中をなぞっていく。
その感触がこそばゆいのか、時折彼女の体が跳ね、吐息が漏れる。
俺は集中する。彼女の信頼に応えるために。
邪な考えなど、俺の頭にはない。
「よし……よしよしっ、問題なく終わった。背中の部分は」
「ほ、本当? これで私はもう、あなた以外からは」
「だがまだだ。催眠耐性-10000%の弱点を完全に補うには、広範囲に書き込む必要がある」
「って、言うと……?」
「次は仰向けに寝てくれ。大事な部分は隠して構わないから」
「あ、あ、あ、あ、あおむけっ!」
これまでになく耳と顔を真っ赤にするフリーダ。
まあ当然そういう反応になるだろうな。
光の翼の時は殺されかけたくらいだ。
「わわ……分か……ったっ! ももも、もうどうにでもしてくりぇっ!」
「くれぐれもリラックスは忘れずにな」
「ちち、ちなみに、その催眠紋はどの辺りに書くの……?」
「主に下腹部の辺りだ。大丈夫、大事なところには何も書かん」
「う、薄い本の淫紋だーっ!?」
「はいはい。集中力を切らしたくない、早くやるぞ」
俺が真面目な表情でフリーダに告げると、フリーダは観念したかのように仰向けになった。
俺は、生唾を飲み込んだ。
これは最後の集中。邪な考えなどない。
俺は――プロの催眠術師だ。
◇◇◇◇◇◇
結論から言うと、俺の考案した催眠紋は成功した。
想像していたような副作用も起きず、やたらと催眠にかかるようなこともなくなり。
フリーダは正面向いて俺と会話出来るようになったのだ。
そして同時に。
彼女は今この時から、俺の催眠にしかかからなくなったのだった。
「私の裸……綺麗だった、かな……?」
「そういう話は……愛する男とするべきだ」
作業が終わり、部屋を出ようとした俺に、フリーダは毛布を被りながらそんなことを口にするのだった。
ラインの判断が難しいのでとりあえずこんな感じで。
何かあったら確実にこの回のせいですねぇ。




