第321話 牛鬼とじゃがチーズと青いビール(網走流水ドラフト)と
白昼夢を見た。
それは私が中学生の頃、両親が共に海外で働いている私の家は兄貴と目に入れても痛くない可愛い弟的な年下の親戚とベビーシッター役のブラウニーさんこの前人外だと知ったけど別に驚かなかったわね。この四人で暮らしていたわけだけど……当時の私はまぁ、少しやんちゃで髪の毛は金髪で、両方の耳には合計9個のピアス。周辺の中高を争いがない程度にまとめ上げていたのよね。田舎だった私の故郷に珍しく都会からの転校生がやってきたのよね。長い黒髪で薄幸の美少女って感じの綺麗な子。
そんな子が田舎にやってくると、当然いじめの標的になるのよね。私ももっと早く気づいてあげれば良かったんだけど、ある日。その子の背中に“ブス“という張り紙が貼られていたのを登校した私が気づいたのよ。
「✖️✖️さん、なんか背中についているよ」
「犬神さんだっけ? えっと、うん……えへへ」
「何これ? 嫌がらせ? 誰にやられたん?」
「あの……その……あはは」
言えるわけがないという事を私はすぐに察知したのよね。それで、私は彼女代わりに犯人に呼びかけたのよ。
「お前ぇらぁあああああ! どこのクソほっこがこないなことしとう? 誰じゃああ! 言いよらんと殺すでぇえ!」
クラス、他クラスと男女複数名。
私は彼ら彼女らを放課後に呼び出し、誠心誠意、✖️✖️さんに謝罪させその件は丸く収まったのよね。一応、私は生徒会長でクラス委員だったので、イジメとかそういう最低な行為に関してはキチンと話し合いや注意を行なっていたハズよ。確かその後も✖️✖️さんとは一緒に帰ったり、私の家でご飯をご馳走したりそこそこ仲良かった筈なんだけど、名前が思い出せないし、今の今まで忘れていたのよね。
「金糸雀ちゃん? もしかして犬神金糸雀ちゃん?」
「えっ? そういえば、牛木さんよ牛木さん! 久しぶりね! 東京にいつから住んでるの?」
「ほんとつい最近だよ! 今からお茶でもしない?」
「いいわね行こ行こ!」
大学の帰りにまさかの偶然、白昼夢で見た旧友と出会うなんて思いもしなかったわね。牛木さんが先先行くのでどこかオススメのお店でもあるのかと思ったら気がつくと旅館のような場所にやってきたわね。
「ここここ! 入って入って!」
「えっ? うん。じゃあお邪魔します」
今までありとあらゆる人が訪ねてきた私だから分かるわ。ここはまともな場所じゃないわね。そして、もう一つ気になる事があるわね。
お座敷に案内された私。やたら広い屋敷の一部屋。なのに人の気配が一切しないわ。
「金糸雀ちゃん、お茶がいい? それともお紅茶?」
「牛木さんって下の名前なんだっけ? そういえば思い出せないのよね。ごめんね」
「きこですよ」
あーそうだそうだ。そうだったわ。何かしらこのもやったとした感じ。そして私はもう一つ彼女に聞かなければならない事があったわ。
「貴女は本当に私の知っている牛木きこさん? それともその名を語る別の何かかしら?」
暗い顔をした鬼木さんは俯くとその頭から角が生えてきたわ。そして服装まで変わって元々綺麗な女の子だったのに、より綺麗な? 獣人系の何かに変わったわ。
「金糸雀ちゃん、私は牛鬼。地獄の牛鬼よ」
「あー、そういうのじゃなくて。今の牛木さんって、私がであった牛木さんで合ってるの?」
ポカンとした表情をした牛木さんは、「そう……だけど」と言うので私は改めて、「久しぶり! 人間じゃなかったのね? そうだ! もうお酒飲めるよね? これ飲まない?」「えっ? へ?」
私が見せたのは珍しい青いビール。その中でも割と有名な網走流水ドラフト。それを見た牛木さんは、
「えっと、入れる物用意するね?」
「大丈夫よ! はい、ビールグラスなら持ち歩いてるから!」
「????」
碧狼ちゃんからもらったバーテンダーセットにグラスも二セットずつあるのよ。いろはさんの家寄ったりする事もあるから持ち歩いてて正解だったわね。
「おつまみはチーズくらいしかないけど」
「えっと、馬鈴薯であれば焼いて持ってくるよ」
「いいね! じゃがチーズ」
七輪を用意してくれた牛木さんは丁寧に十字に包丁を入れた馬鈴薯を七輪の火にかける。この景色だけで飲めるわね。私はグラスに流水ドラフトを注ぐわ。真っ青なビールは不思議な気持ちにさせられるわね。黄金色のビールのように喉はならない。むしろ固定概念に存在しない食べ物の色なのでこれを口にしても美味しいのかわからないんでしょうね。
「じゃあ牛木さん、乾杯!」
「はわわ! 金糸雀ちゃん、乾杯!」
カチンと鳴り響くビールグラスの小気味よい音が夏と秋の境界線を保っているように私たちはその青き清浄なビールを喉に送るわ。
失敗したわね。このビール、シャンパングラスでも良かったかもしれない。それは見た目だけじゃなくて……
「甘酸っぱい! おいしー!」
「私も初めて飲んだけど、美味しいわね! ささ、牛木さん、久しぶりの出会いなんだから飲んで飲んで」
「うん、ありがと。金糸雀ちゃん、馬鈴薯も火が通ったよ」
「チーズを落としてとろっとろになったら、かぶりつきましょ!」
いざ、実食。
あぁ!
あああああ!
んまぁああ!
そもそもジャガイモってずるいのよね。基本的に主役にほとんどならないくせに大概の料理が美味しいじゃない。私はすかさず流水ドラフトを口にして、一旦口の中を洗うわ。
「ところで、牛木さんはどうして人間じゃないのに学校に通ってたの? これ、聞いていいやつか分からないけど」
「人間社会に溶け込んでいる人外は結構多いんだよ。私は……それができない側だったの。だから、金糸雀ちゃんに助けてもらうまでは」
「あぁ。なるほどね。でも、鬼パワー! とかでなんとかできたりしなかったの?」
「人間にもルールや法律があるでしょ? それと同じで人外にも決まり事があるんだよ。無闇矢鱈に何かをしたら世界がおかしくなるでしょ?」
「そっかそっか、ビールのむ?」
「うん、もらおっかな」
そして学生時代はなんとか頑張れたけど、社会に出てやっぱり牛木さんはうまく世界に馴染めなかったのね。
「いっそのこと、大暴れをしてこの世界から無くなろうかなって思ったの」
「でもさー、あんまり重く考えなくても良くない? そもそも、人間だって人間社会に馴染めない人だっているのに、それを人間じゃない牛木さんに馴染めっていうのは酷な話よね」
「そうだね……金糸雀ちゃんは変わらないね」
「そう? 案外変わったわよ。今は、これがないと生きていけないし」
そう言って流水ドラフトの入ったグラスを見せると牛木さんは笑ってくれたわ。そして、私は無責任な言葉だけを言い放って別れる程人間終わってないのよね。飲み会が終わると私はこう切り出した。
「牛木さんさえよければ、紹介したい人がいるのよね。ちょっとウチのマンション来てくれる?」
いろはさんとどっちにしようか迷ったけど、今回は私はアン博士の元を訪ねる事にしたわ。いつも何か変な発明をしていてたまに国内旅行をしているアン博士。
「いらっしゃい金糸雀くん! そちらの大和撫子は?」
「私の同級生で実は人間じゃなかった牛木きこさん。日本の社会に馴染めなくて転職活動中なんですけど、アン博士のところでしばらく雇ってあげてくれませんか?」
私が手土産の流水ドラフトを渡すと、玄関の先からネメシスさんが顔をひょこっと出してこっちを見てるから手を振ってみると嬉しそうにしてるわ。
「なるほど、私のところも人員不足だからね。それに私、命狙われている兼ね合いで海外に出られなかったんだよ。よし! きこ君。君の事を見込んで一つ会社を任せよう! なーに、従業員は全員、人外化生達さ! 各国のそういう方々と連絡をとっていてね。リモートワークで私が経営していたんだけど、君のおかげで少し楽になるよ、すぐにロスに飛んでくれたまえ!」
ええっ! いいなー! 私もその仕事したいんですけど!
そして牛木さんがアメリカに渡ってしばらくすると、世界に伝えたい働く美女100選に牛木さんが選ばれて、めちゃくちゃできる女の顔でテレビに向かってこう言っていたわ。
「私の場合は出会いに感謝ですね! 最高の友達と、最高のパトロン、チャンスは思いもしない所に転がっていると思いますよ! では失礼、今から会議がありますので!」




