第304話 クロセルとハーゲンダッツバニラとアーリータイムズゴールドと
「かなりあ何してり?」
ミカンちゃんが食べっこ動物をもしゃもしゃと食べながら、私がテイスティンググラスを並べて拭いているところにやってきたわ。
「ウィスキーのティスティンググラスのメンテナンスをしてるのよ。殆ど兄貴のだけど、ダイソーの安いのと、グレンケアンの一番みんなが持ってるのは私のなのよ」
10個程並んでいるティスティンググラスの内、私の所有しているティスティンググラスをミカンちゃんに渡すとミカンちゃんが、
「それってこんなに必要なり?」
「私は二つくらいでいいけど、多分兄貴はウィスキーの種類で使い分けてるんだと思うわ。知らないけど」
※基本的にはグレンケアンかダイソーのティスティンググラスでも全然大丈夫です。むしろダイソーは百円でよく出したなと感服するくらいです。めちゃくちゃ良いウィスキーをティスティングする際にめちゃくちゃ良いティスティンググラスを使ったりしますが、ただの雰囲気です。ウィスキー好きはお一つ持っていても損はないと思いますので是非
「香り、色、味とこのグラスで飲むとそのウィスキーの個性や特性がよく分かるのよ。何か飲んでみる?」
「みり!」
「おぉ、お酒を飲むのであれば我も仲間に入れて欲しいであるぞ!」
「どうぞどうぞ! デュラさんは兄貴のクリスタルグラスを使ってください。貴族っぽいですし」
私はダイソー、ミカンちゃんはグレンケアン、デュラさんはクリスタルグラス。何を飲もうかしら? バーボンのティスティングにしようかしら? メーカーズマーク……よりもここは渋めにアーリータイムズにしようかしら、最近出たゴールドが少し美味しいって人気なのよね。
リカーラックからアーリータイムズのゴールドを持ってくると開栓。
ガチャリ。
このタイミングで来ると思ってたわ。玄関にお出迎えすると、そこにはツンとした表情の可愛い男の子の姿。あーあー、コホン。声を一段高くして。
「いらっしゃい! 私はこの部屋の家主の犬神金糸雀です」
「かなりあ、きもー!!」
リビングから叫ばないでよ。
「人間かこの私を見て畏敬の念も尊敬の念も感じないとはどれ程の地獄を見てきたのか、嘆かわしい。救ってやろう。死すべきとき、その魂を我が糧とする事を誓うのであれば! あらゆる苦しみからこのクロセルが!」
あー、このひと、天使の翼生やしてるけど、あれね。悪魔ね。わかりやすいわねー! 今までいろんな悪魔がやってきたし、我が家にも悪魔のデュラさんが居候してるし、可愛い男の子だけど残念ね。
「クロセルさん、今からウィスキーをストレートでティスティングするんですけどご一緒にどうですか?」
「ウィスキー? えっ? 金糸雀よ。私は救いを」
「あー。あれですよね? 多分クロセルさん昔は天使だったとかで、堕天して悪魔になった方ですよね? よく来るんですよそういう人」
本当に天使も悪魔も一杯来たわね。私はクロセルさんの冷たい手を引いてリビングに連れて行くと、そこではカチカチのハーゲンダッツバニラを用意しているミカンちゃんの姿。
「かなりあー、これチェイサーに食うしべし!」
「おつまみじゃなくてチェイサーなのね……まぁ、めちゃくちゃ合うけどね。バーボンとアイスクリーム」
クロセルさんはミカンちゃんとデュラさんを見て、少し考えると氷で出来た剣を取り出したわ。
「はぐれの悪魔と力を持った人間、さしずめ金糸雀のファミリアと言ったところか、言っておく、私は最上級悪魔。痛い目を見たくなかったら私の言う事は素直に聞くことだ」
あら、珍しく交戦的な人来たわね。デュラさんとミカンちゃんが驚いた顔をしてるわね。デュラさんがふよふよと近づいてきて説得するみたいなので、私はクロセルさんのティスティンググラスも用意しておこうかしら。
「えー、勇者。やめておいた方がいいと思えり、デュラさん。勇者とガチンコでバトってきた飲み友なりにけり」
「うむ、中々に大した悪魔であると思うのであるが、上級悪魔である我からすればクロセル殿はまだまだであると言えるであるぞ?」
「上級悪魔ごときが、この最上級悪魔の私に、説教を? 馬鹿げている。身の程というものを教えてやろう」
「これ! ここは暴れてはならんであるぞ!」
なんかどったんばったん騒動してるけどどっか壊してないでしょうね? 私が全員のティスティンググラスにアーリータイムズのゴールドを注いで持っていくと、
「調子に乗ってすみませんでした……自分、最上級悪魔とか言ってましたけど……神話級悪魔のデュラハンパイセンに生言いました……」
「ププププ! 身の程を知らず。雑魚悪魔ざまぁ!」
何があったのか聞くまでもないくらい小物感溢れるクロセルさん、そして死体蹴りを続けるミカンちゃんに私は、
「はいはい! そこまでそこまで、アーリータイムズ飲みましょ!」
「そうであるな! クロセル殿。さぁ、顔を上げて。若気の至は誰にでもあろう。共に酒を楽しもうではないか」
「はい! パイセン」
「勇者、しゅわしゅわがいいかもー」
「たまにはウィスキーそのものを味わってごらんなさいよ! はい、ミカンちゃんの分」
私達はそれぞれ形の違うティスティンググラスを持つと、少し蘊蓄をみんなに説明、まぁ私のダイソーティスティンググラスはどちらかというとハーフロックグラスなんだけど。
「チューリップグラス型のティスティンググラスは口をつけるリム、ウィスキーを舌に滑らかに流すように出来てるわ。中心より下が膨らんでてここをボウル。ここに溜まりやすくなってるから口の中にいっぺんにウィスキーが入るのを防止するのと、香りが留まりやすいの」
「ワイングラスみたいであるな?」
「さすがはデュラさん、そうです。ワイングラスもティスティンググラスと同じくチューリップ型が多くて同じ機能がありますね。下の持ち手、まぁ私のダイソーグラスは極端に短いですけど、ステアが長いのは体温がウィスキーに伝わりにくくする為です。じゃあ、それを踏まえて一口ティスティングしましょうか? 乾杯!」
「「「乾杯!」」」
アーリータイムズ、おじさんのお酒みたいなイメージが昔は先行してたけど、昨今のバーボンブームとパッケージが変わったあたりからスタイリッシュになったし、上位ボトルの今回のゴールドは当たりね。香りはバニラのよう、口をつけるとナッツと干し葡萄からバーボン特有のツンとしたキツイ味わいはなくてメープルシロップやキャラメルみたいな後味が切れるわね。
「うみゃ!」
「ほうほう、メーカーズマークとはまた違った美味さであるな」
「お、美味しい! 火の酒ですよね? 悪魔界でもこんな上物飲んだ事ないですぜ! 金糸雀の姉さん」
火の酒、スピリッツの事ね。悪魔界にはスピリッツはあるんだ。悪魔界がどんなところか知らないけど、アメリカの誇るバーボンが異世界で作れるとは思わないわね。なんなら日本のウィスキーですらまだまだ海外のウィスキーの足元くらいにしかいないんだから。
※山崎、白州、響等人気のウィスキーはありますし、確かに美味しいですが、あの価格を出してまで飲む程のお酒でもないかなと当方は思ってます。世界にはもっと安くて美味しい洋酒がゴロゴロしてますので。ハイボールもいいけど、そろそろウィスキーをストレートで飲みたい! という方はバランタインやメーカーズマークの一番安い千円から三千円くらいのから初めてみてください。絶対に国産の激安ウィスキーはストレートで飲まないでください。あれはウィスキー上級者になって初めて美味しいと思える代物です。
「かなりあ、アイス食べたもー!」
「そうね。おつまみにバニラアイス食べるって言ってたわね。あと、お水も用意するわね。一口ウィスキーを飲んだらチェイサー口に含んで口の中を洗ってあげてください。毎回ウィスキーを楽しむ秘訣はチェイサーにあります」
食事や会話を楽しむ為のハイボールは喉越し、そして少しお酒に酔いたい時の飲み方でオンザロックは自分時間の楽しみ方。そしてストレートはウィスキーという趣味に向き合う飲み方だと兄貴が言ってたけど、ほんとウィスキーは香り、見た目、味と飲む宝石よね。この琥珀色の強烈な度数を持ったお酒が人を惹きつける理由はどこか遺伝子にでも組み込まれてるみたい。
「あー! あー! うまし! ハーゲンダッツとアーリータイムズのゴールドくっそ合う! 三人もキメり!」
「そうであるか? バーボンとアイスクリームは合うであるが、我も一口……むっ! これはなんと上品な口当たりであるか! ささ、クロセル殿も」
「あっ、はい! なんだろう。自分、昔は能天使って言う天使だったんですよ。悪魔を退治する天使だったんですけど、悪魔と関わる機会が多くて、悪魔の魅力に取り憑かれて今に至るんですけど、そのときの衝撃の十倍すごいですぜ! これは! 美味すぎる」
ハーゲンダッツのバニラアイスをガツガツ食べながらアーリタイムズのゴールドを口に含んでそういうクロセルさん。まぁ、あれね。販売員とか営業の人がそそのかされて顧客情報を持って同業他社に行って後々捕まるみたいなそんな感じで悪魔って生まれるのね。
私も一口。ハーゲンダッツってホットケーキに乗せて食べるのが好きだったから子供の頃はお酒のおつまみにするなんて思わなかったなー。
ガチャリ。
ニケ様来たのかしら?
「お・ね・え・た・ま! わー、来ちゃった!」
第三の面倒臭い人、サキュバス亜種のスクバスのスクさん。
「げ! サイコレズ地雷クソメンヘラ来たれり」
ミカンちゃん、めちゃくちゃ言うわね。あー、でも見た目はイケてるクロセルさん見ると、
「え? そこのクソ悪魔は誰? 金糸雀お姉様に色目使ってるの? 死ぬの? え? 意味わからない。お姉様、浮気? 浮気なの? 無理なんだけど」
私もそう言う一方的なのは無理ね。クロセルさん引いてるじゃない。なのになんだろう。ニケ様とセラさんが来る時程の圧倒的な面倒臭さを感じないのは。私達はキレ散らかしてるスクさんをリビングの椅子に座らせて、ストレートのウィスキーとハーゲンダッツを出すと、
「何これ、お姉様。こんなので私騙されないんだけど?」
「はいはい、スクさん。乾杯しましょ。浮気は浮気でも私は今、お酒に一途なの。飲んでみれば分かるわ。ほら、あの二人が来る前にもう少し楽しみましょ。ね? スクさん」
「……はい」
「かなりあのイケメン顔、マジイケメンなりにけり!」
「うむ、金糸雀殿は元々美人であるからな」
そこはキモいって言ってくれないとなんか恥ずかしいじゃない。
私の予想ではあと30分くらいで大御所の二人が来るので、それまではこのまったりした時間を楽しめるわね。




