第287話 口裂け女とべっこう飴と角ハイボール缶〈濃いめ〉と
「金糸雀の家、おかしいかも」
そう言ったのはミクーンちゃん、別世界の人がやってくる事に関して私とデュラさんにそう説明。
「あー、もう気にしもしなかったけどそうね」
「そうであるな。元々我も来訪者であったしな」
正直、もうそんな事はどうでもいいくらい気にしてなかったわ。ミクーンちゃん曰く。
「でも勇者は扉から出ても帰れない」
「そういえばそうね! ミカンちゃんとか壁抜けして出ていくのに、ミクーンちゃん、お使いの時とか普通に玄関から出ていくもんね」
「世界線が違う者は元の世界にも我らの世界にも行けぬということであるか? もはや魔法などではなさそうであるな。魔王様の城、魔王城であれば魔法研究もできる為解読できるやもしれぬが、謎であるな」
「そうね。どうでもいいっちゃいいんだけど、ミクーンちゃんが元の世界に帰れないのも困ったもんよね。一度、アン博士に聞いてみよっか?」
「アン博士であるが、ネメシスと共にハワイ旅行に行ってしまったらしいであるぞ」
あの人、逃亡中じゃなかったかしら? 適当ねー。電子レンジがタイムマシーンらしいけど下手に触ってまたどっかに飛んだら困るから電源抜いてるのよね。まぁ、いないものは仕方ないわね。じゃあ、とりあえずなんか飲もうかしら。
ガチャリ。
「あら、誰か来たわ」
「勇者が見てこよう」
ほんとお手伝いしてくれるし、ミクーンちゃん、ちょっと正義のあり方が歪んでなければミカンちゃんの完全上位互換なんだけどなー。
「私綺麗?」
「他者に評価を求めている時点で自己肯定力の低さ故、勇者はこう述べり、要努力」
なんか面倒な事になってそうだから、私が見にいくと、赤いコートをした女性。そして大きなマスクをして困惑しているわね。
私がそんな女性に助け舟を出すわ。
「こんにちは、私は犬神金糸雀です。この家の家主です。貴女は?」
「私、綺麗?」
はぁ、やれやれ! 何年女子の中にいたと思ってるんですか、可愛い? とか綺麗? とか聞かれたら基本。
「えぇ、可愛いですよ」
これが正答よ。可愛いは正義。やばい、可愛い、マジで! それな! この四つで女子同士の会話は全て成り立つんだから。
すると女性はマスクを外したわ。
「これでもかーーーー!」
耳の方まで口が裂けてる。あー、口裂け女さんなのね。それにしても、いろんなモンスターとかクリーチャーとか妖怪とかやってきてその中にはかなりグロテスクな人もいたので、割とあれね。口裂け女さん、スタイルもいいし、うん。
「これでもの意味がちょっと分からないですけど? 可愛いですよ」
「口がこんなに裂けているのに綺麗だと言えるの?」
「それな!」
「?????」
「ミクーンちゃんはちょっと辛辣だけど、自分の事を綺麗? って聞くなんて私には自信がなさすぎて口が裂けても言えませんよ。そんな事が言える口裂け女さんは女性の私からしてもカッコいいですし。綺麗ですよ! さぁ、上がって一緒にお酒でも飲みましょう」
「金糸雀殿、うまい!」
おっと、少し大喜利みたいになったわね。口裂け女さんはヒールを綺麗に向きを揃えて靴箱に入れてくれるので、しつけもしっかりした家で育った人なのね。
「今日は、どうしよっかな? 角ハイボール缶の濃いめあるから、これ飲もっか?」
「と、特級ウィスキー!」
あー、特級ねー。1989年の酒税法改正前の日本のウィスキーにはそういうランク分けがあったらしくて、私の部屋にある旧ボトル、ゴールドタッセルとか旧ジョニ黒ろかに特級ってシール貼ってるわね。そっかそっか、口裂け女さんの登場は酒税法改正前の1979年登場だから、角瓶なんてお金持ちが飲むお酒だったのよね。
「今となっては一般酒なんですよ。昔のサザエさんでジョニ黒、大暴落みたいな話があったらしいけど、そんな感じです。じゃあ氷用意するので飲みましょう。口裂け女さん何か好きな食べ物ありますか? できる限り用意してみますけど」
「……べっこう飴」
「ミカンちゃんのオヤツにあったわね。拝借して、ウィスキーとキャンディーってなんか合うんですよね。転がしながら飲んでも美味しいですし」
という事で、グラスを掲げて、
「じゃあ、口裂け女さんも来たことで、あれお願いしていいですか?」
口裂け女さんは私をみて、理解したわ。
「私、綺麗?」
「「「綺麗!」」」
安心と安定の角ハイボール、氷を入れるだけでお店の味になるというこの缶タイプ。よくブログとかネットとかで角瓶で作ったのと味が違うって言う人がいるんだけど、これはおそらくペットボトルの角の5Lの方で作った感じになるのよ。
※同じ業務用でも4Lまではウィスキー、5Lはリキュール扱いでレモンの味がほのかについてます。缶の方は他にも味を整えるのに他の添加物も入ってますが、缶の角ハイボールを再現しようと思うと5Lペットを購入して作ってみると近い物(缶がうたっているお店の味)になります。
「あら、角。味が変わったかしら?」
「えっ! やっぱり、みんな昔の角飲んでる人はそれ言うんですよね。私、特級時代の旧角瓶飲んだ事ないんですよね。昔の方が美味しかったんですか?」
「そういうわけじゃないんだけど、この方が味がはっきりしてるわ」
ミクーンちゃんはコロコロと口の中でベッコウ飴を転がして角ハイボールを一口。
「口裂けモンスターは、何故口が裂けてる?」
「それは……いつだったかしら?」
口裂け女さんは、闇医者で美容整形を行なったらしいの、そこでどうやら注入したシリコンの質が悪くて、顔が崩れて口裂け女になったらしいわ。予想するに、当時は日本や海外で闇経営の美容整形が数多くあったから、口裂け女さんは実在した被害者と都市伝説が絡み合って生まれたのかもしれないわね。
「勇者の力であれば治せり」
異世界の力ならまぁ、治せるわよね。デュラさんも「ミクーン殿、誠の勇者であるな!」ってミカンちゃんとは一体なんだったのか? みたいな発言をしちゃうけど口裂け女さんは、
「とてもありがたい事ね。でも、私とか花子さんとかメリーさんとか、人の認知されないと存在できない大御所って一杯いるのよね。もちろん、私は最近では“きさらぎ駅“とかいう新参よりも知名度が低くなってきているけど、これでもまだ第一線で活躍していきたいと思うわ。このベッコウ飴、子供の頃。好きだったなぁー! 金糸雀ちゃん、最高の時間をありがとう。私は行くわ、今もどこかの国で誰かが私に遭遇し恐怖する為に待っているから」
「口裂け女さん、お元気で」
「もし、隠居する際は我に声をかけて欲しいであるぞ! 魔王城はいつでも人員募集中である」
「勇者もいつでも治してあげる」
口裂け女さんは、耳まで裂けた口角をあげて、笑ったんだ。それが都市伝説が終わる時だったとは誰しもが思わなかったとしても私はなんとなく予測してたのよね。
私達は走った。
間に合わなかった。
見た目だけは女神のニケ様を見て口裂け女さんが、「私綺麗?」と
「私よりは遥かに美しくありませんが、何者にそんな顔にされたのか知りはしませんが、美を目指す女性に敗北は似合いません! オールライトヒーリング! 貴女の明日に勝利が在らん事を」
もう口裂けじゃなくなった口裂け女さんに明日なんてあるわけ……
見る見るうちに口裂け女さんはただの美しいモデルさんみたいな女性になってしまったわ。
「お礼は構いません。さぁ、行きなさい」
今回ばかりはニケ様、良い事しちゃってるから、ミクーンちゃんも怒るに怒れず頭がバグりそうになっているわね。ニケ様、めちゃくちゃ女神顔で私たちを見てくるんですけど、あー、これあれよね?
褒めて褒めてオーラ出してるわよね。
「ニケ様、角ハイボール飲みますか?」
「いただきましょう。金糸雀ちゃん」
もう女神っぽく振る舞わなくていいんですよ。あれ? この人、女神だっけ
? なんだっけ? まぁいいや。飲んだら同じ会話するだろうし、
私は考える事をやめた。




