第238話 モンスターテイマーとビックマックと麒麟ラガービールと
「本日はご馳走になりました」
「いえいえ、手伝ってくれてありがとうございます。ほんとアルバイトレベルなんですか? 滅茶苦茶手際良かったですけど?」
「趣味でカクテルは作るので……はは」
本日は狼碧ちゃん(私の従姉妹ね)が季節外れのインフルエンザで倒れたので、代わりに私がヘルプで入って、普段狼碧ちゃんのアシスタントをしている人がマスターバーテンダーで、私がアシスタントをしてなんとかお店をクローズまで片付けたわけなのよね。氷の成形、お酒にポーラーつけて準備、果物の飾り切りなんて久しぶりにしたわ。そんなこんなでお礼にお給料とお食事をご馳走になって家に帰るわけなんだけど……
一流のバーテンダーが飲み食いする所、悪くはないんだけど、とりあえずビール! プハー! みたいな空気じゃなかったわ。今、私に必要な物。
背徳飯ね。
なんというか、体重計という名前のギロチンに翌日戦々恐々とする食べ物、普段微塵も視界に入ってこないけど、今日は輝いて見えるわね。
「マクドナルド」
モスとか、キングとかロッテリアとか色々、あるけど、結局一周回ってマクドナルドが一番安心するのよね。最近滅茶苦茶美味しくなった反面、滅茶苦茶高くなったとか聞いたけど……
「今、ビックマック480円もするのね。前、キャンペーンで200円で販売してた事とかあったのに……むぅ、仕方ない。とりあえず」
私は持ち帰りで、ビックマックを複数個単品で選んで帰宅したわ。今日は夜ご飯はデュラさんに任せてあったから問題ないんだけど、可能性の一つとしてミカンちゃんがマック食べたし! とか言ってマクドナルド食べている可能性はあるのよね。
「ただいまー」
「おかえりー! であるぞー!」
「金糸雀、おかえりなリィ!」
ミカンちゃん、口の周りに醤油たれをつけているので拭き取ってあげると、ご機嫌ね。一体何食べたのかしら? 魚系っぽいけど、イワシの煮付けあたりをデュラさんが作ってそうね。
「イワシの煮付けを作ってみたであるが、金糸雀殿も食べるであるか?」
「お魚の煮物は翌日が滅茶苦茶美味しいから、明日の朝に頂くわ! それより、これ買ってきたから夜食に食べましょう」
映画でも見ながら、今日はダラダラ呑みだったなぁと冷蔵庫には麒麟ラガーがよく冷えてるので、これにしよっかな。ウチの部屋は私がハイネケン、デュラさんがプレモル。ミカンちゃんがサッポロ黒ラベルを好んで呑むからスーパードライと麒麟ラガーあんまり飲まないのよね。
「そういえば、映画何観るの?」
「いろは殿から借りてきたDVDがあるのだが!」
「いいじゃないですか、それみましょうか……あ……ダンサー・インザ・ダークか」
視力の悪い母が視力の悪い息子の手術代の為に貯金をしていたお金を取られて殺人を起こしちゃって、絞首刑になって終わるなんともいえない作品よね。
まぁいいか。
ガチャリ。
「いらっしゃーい!」
私が玄関に迎えにいくと……わわっ! ターバン巻いたイケメン来たんだけど! キョロキョロしながら、状況を理解しようとしてるわ。
「あの、すみません。ここは一体どこだろう?」
やーん! 男の子に見せかけた女の子でしたー! という状況じゃないわ。完全に低いイケメンの声ね。
「ここは私の家で、この部屋の家主の犬神金糸雀です」
「俺は、モンスターテイマーのアックだ。仲間のモンスター達とはぐれて、探していた所扉があったので開いたらここに」
「そうなんですねー! アックさん、お腹空いてませんか? 今から夜食食べようと思っていたんですぅ」
グゥとお腹が鳴るアックさん。もうかーわーいーいー! はらぺこ系の男の子ってほんと可愛いわ。アックさんの手を引いてリビングに戻ると、ミカンちゃんが、
「カナリアがきもきもの顔してり」
「もう、ミカンちゃん、キモくないからぁ! こちらはモンスターテイマーのアックさん」
「よろしく」
といつもなら適当な挨拶をしそうなのに、ミカンちゃんとデュラさんがまさかという顔をしているんだけど、これどういうことかしら?
「モンスターテイマーなり?」
「実在していたであるか!」
「あぁ、うん。凄い狭い集落でしか生きてないから、俺ははぐれ者」
どうやら、モンスターを育てたりするのって難しいみたい。でも私の兄貴はモンスターと共存して商店街作ってるとか言ってたけど……兄貴人外みたいなもんだし、比べちゃダメなんでしょうね。デュラさんとミカンちゃんがどうやってモンスターを手懐けているのか聞いてるわ。
「モンスターテイマーはな! このモンスターを捕まえる事ができるボールがあるんだ」
そう言って赤と白のボールをモンスターテイマーのアックさんは見せてくれるけど、それってあれじゃないかしら? 電気ネズミとか捕まえる。ミカンちゃんがうーんと考えて、
「それって、スーパーとかハイパーとかマスターとかあり?」
「さすが勇者だな……そんなことまで知っているのか」
「むぅ、伝説のモンスターテイマーにレッドやサトシと呼ばれた者は?」
「うわ! 首だけのデュラハン? まぁいいや。その二人はモンスターテイマーマスターだな。レッドさんはどっかの山にいるとか聞いたけど、消息不明で、サトシさんは長年旅を続けてたけど、最近引退したって聞いたな」
うん、この話はそろそろやめておいた方がいいかもしれないわね。私は冷蔵庫でキンキンに冷やしている麒麟ラガービールを用意。そして今回はグラスじゃなくてジョッキね。ビールだし、泡を3センチにしてビールを注ぐ。
「じゃあ、ポケのモンみたいなモンスターテイマーさんに乾杯!」
「わふー! 乾杯なりぃ!」
「乾杯であるぞ!」
「必ずモンスターテイマーマスターになってやる! 乾杯」
たとえ火の中、水の中、草の中、森の中、土の中、雲の中、チョコモナカ、どこで飲んでも、ビールってやつは!
ほんと、お前っ! ビールってやつはさぁ!
「「「「プハぁあああああ!」」」」
一口目の天国感半端ないのよね。さぁ、ビールという人類史上最古に古いお酒の一つ(一番古いのはワイン言われてるわね)は遺伝子に美味い! と組み込まれてるんでしょうね。さぁ、美味いときたらビールのお供、ジャンクな食べ物よ。
「一口大に切ろうかどうか迷ったけど、やっぱビックマックはそのままかぶりついてなんぼよね! ケチャップとマスタードも用意したのでどうぞ」
これ一つでお腹一杯になりそうなビックマック。昔兄貴達がマックのセット買ってきてセットドリンクにブラックニッカとか混ぜてマック呑みしてたの憧れだったけど、かなり落伍者感あるわね。
「スッゲー美味い麦酒だなぁ。それにこのパンの奴。豪華! 一部の特権階級しか食べれないんじゃないの?」
うーん! そんなビックマックくらいでー! とか数年前なら言えたんでしょうけど、ガチでマックも一部の特権階級しか食べれなくなるんじゃない? ってくらい高くなってきたわよね。
「いただきまー!」
アックさん、大きく口を開けて可愛い! 「かなりあがキモくなってり!」とミカンちゃんがキモいアンテナを広げてくるけど、無視よ無視。
「んまっ! なんか食べたことのない味付けが口の中に広がる。これは麦酒がすすむ!」
はぐはぐ、ゴキュゴキュと飲み食いしてるアックさん、うん! 女の子の腹ペコキャラも可愛いけど、たくさん食べる男の子はいいものね!
ふぅ。
それにしても麒麟のラガー。味変わってから久しぶりに飲んだけど、そこそこ美味しくなったわね。できれば昔みたいに思いっきり苦くしてくれれば……というか元に戻してくれれば最高ね。
「うみゃああああああ! かなりあぁ! 麦酒おかわりなりぃ!」
「我も!」
「あーはいはい、じゃあ私も、アックさんは……まだ大丈夫そうね」
「あんたら、飲むの早すぎじゃね?」
そう? 一杯目のロング缶なんて一分持たないでしょう。ミカンちゃんがビックマックを食べ終えて指をぺろりと舐めてからゆっくり立ち上がったわ。要するに来たんでしょうね。するとミカンちゃんよりも先にアックさんが、
「大本、伝説か幻の魔物がいるな! 電気ネズミ。君に決めた!」
そう言って件のボールを投げるアックさん。もうあえて形容しないけど、黄色い可愛さの押し売りみたいなモンスターが飛び出てきたわ。
「電気ネズミ。ギガスパーク!」
「きゃああああ!」
ん? ミカンちゃんとデュラさんも開いた口が塞がらないわ。入ってきたニケ様に電撃攻撃。それに感電したニケ様に向けて。
「よし、今だ! モンスタースフィア!」
そう、魔物ボールをアックさんは投げて、ニケ様が! ボールの中に捕まったわ。ごくりと喉を鳴らしたのはミカンちゃんかデュラさんか? コロンと動いているのはニケ様の抵抗かしら?
そしてコロン。
バフォンン!
「ざんねん! もう少しで捕まえられたのに!」
というアックさん、やれやれと手をあげてその場からズラかるミカンちゃん、ビール缶の後片付けをするデュラさん。
そして、普段見せないくらいの冷たい表情を向けるニケ様。
「この下等生物と魔物使い。女神の中の女神、勝利せんが為に人間達に優しき光と強き愛、生きとし生けるもの全てに平等に栄光を与え、全人類が信仰するこの女神ニケに牙を向くとは嘆かわしい。もはや敗北の未来しかない事を知るといいです」
これみよがしに自分の設定を盛りに盛ったニケ様のお説教を八時間受けて、凹むどころか、アックさん。ガチで信仰しちゃったのよね。
嘘でしょ。
私の知らない異世界で、アックさんの自伝。
“信仰、君に決めた“
がベストセラーになったとか私は知らない。




